&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

原油価格は再び90ドル台に

米中央軍は9月1日、イランの軍事組織「革命防衛隊」を標的にした攻撃を始めた、と発表した。イラン側も反撃を発表しており、両国間で本格的な攻撃の応酬に発展する可能性が出てきた。
 
米中央軍は防空拠点やレーダーシステムなどを標的にした。この攻撃は、革命防衛隊がホルムズ海峡での商船への攻撃や、中東地域に展開する米軍兵士を標的にした攻撃を企てたことを受けての措置、と説明している。
 
米国とイランの戦闘再開を受けて、WTI原油先物価格は1バレル90ドル台に再び乗せている。米国がイランを攻撃してから足元まで(3月~8月)のWTI原油先物価格の平均値は1バレル89ドルと計算できる。90ドル程度を分岐点に、原油価格がそれ以上の水準で安定すれば、原油価格上昇による物価上昇率には先行き上振れ傾向が生じ、原油価格がそれ以下の水準で安定すれば、原油価格上昇による物価上昇率には下振れ傾向が生じる、と考えることができるだろう。現状は丁度その分岐点にある。

原油90ドルで物価は0.30%上昇、年間家計負担は1.3万円に

戦闘終結に向けた覚書署名を受けて、6月末にはWTI原油先物価格は、イラン戦争開始前の1バレル70ドルをやや下回る水準にまで一時低下した。しかしその後、米国とイランの交戦再開やバブエル・マンデブ海峡封鎖への懸念から、原油価格は再び上昇している。
 
原油価格が70ドル程度で安定していれば、春頃までの原油価格高騰の物価押し上げ効果は、今年7月から10月に顕著になった後、年末にかけては後退し、年内にも物価の安定が確認されることが予想される。
 
しかし原油価格が再び90ドル程度、あるいはそれ以上まで上昇する状態が続けば、原油価格高騰を受けた物価上昇率の上振れは来年まで続いてしまう。実質賃金の低下が個人消費を悪化させる構図が、より長期化するだろう。
 
そこで、この先の原油価格について、90ドルと100ドルの2つのケースを想定したい。90ドルは、ホルムズ海峡とバブエル・マンデブ海峡の二重封鎖が数か月続くとの市場の観測を反映したもの、100ドルは半年、あるいはそれ以上続くとの市場の観測を反映したものとする。
 
原油価格の上昇は、90ドルケースで実質GDPを0.17%、100ドルケースで0.26%押し下げる計算だ。経済には相応の打撃となる。他方で物価(個人消費デフレータ)は、それぞれ+0.30%、+0.45%押し上げられる(図表)。
 
物価の上昇は、家計に経済的な負担をもたらす。それは90ドルケースでは年間1.3万円、100ドルケースでは年間2.0万円と試算される(コラム「ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡の二重封鎖のリスク:原油100ドル定着で物価は0.45%上昇、年間家計負担は2万円に」、2026年7月27日)。
 
図表 原油価格上昇の経済効果
 

米国を中心とする原油代替調達の持続性に不安も

今回の米国とイランの戦闘再開と原油価格の上昇は、中東情勢の危機がまだ終わっていないことを広く印象付けるものとなった。日本では、企業や個人の間で、原油の代替調達の持続性への不安が今後広まる可能性がある。
 
7月、8月はホルムズ海峡を経由しない原油の代替調達量が、中東情勢が緊迫化する前の2025年水準の100%程度に達した、と政府は発表している(「我が国の原油調達の状況」、資源エネルギー庁)。
 
9月分の代替調達比率は8割程度に低下する見込みだ。これは、バブエル・マンデブ海峡を経由した輸入をスエズ運河経由に切り替えるために時間が必要になるため、と説明されている。
 
ただし注目されるのは、9月の米国からの原油輸入量が、8月と比べて一気に半分以下に縮小する見通しであることだ。これは、当初からの米国との契約に基づくものかもしれないが、米国から日本に対して原油供給を無理に優先的に回してもらったことの反動が生じた可能性があるのではないか。あるいは、米国での輸出余力全体が制約され始めている結果であるかもしれない。
 
戦闘拡大により、ホルムズ海峡だけでなく、バブエル・マンデブ海峡、あるいはスエズ運河を経由した中東からの原油の調達には大きな不安が残されている。そうしたなか、代替調達の相当部分を占めてきた「頼みの綱」である米国からの原油調達が縮小すれば、当面は不足分を石油備蓄の取り崩しで賄うとしても、国内での原油供給に対する企業、家計の先行きへの不安は再び強まるだろう。
 
その際、企業が石油関連の原材料を手元に確保するために生産の調整を強めれば、日用品を含む石油関連製品の供給不足が再燃し、価格高騰が生じる可能性がある。
 
中東情勢の緊迫化を受けて生じる、原油価格上昇、原油供給不足懸念、日用品不足、製品価格の高騰といった大きなリスクが、再び戻ってきた感がある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。