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日本の長期金利の上昇が、世界の長期金利の上昇を主導

過去1年の間に、日本の10年国債利回りは約1.40%ポイント上昇した。長期金利の上昇は世界的な現象であるが、日本の長期金利の上昇が海外要因によるものと考えるのは正しくないだろう。
 
過去1年の間の米国の10年国債利回りの上昇幅は、日本の約半分であることから、日本の長期金利上昇は国内要因が主導するものであったことが示される。筆者の計算では、過去1年間の日本の10年国債利回りの約1.40%ポイントの上昇のうち、最大で0.6%ポイントは国内財政リスクの上昇によるものだ(コラム「10年国債利回りが3%の大台乗せも3%は通過点か:トランプ政権からの牽制が強まる可能性」、2026年9月1日)。
 
また、利回りの水準に注目しても、日本の10年国債利回りは9月1日に3%の節目を超え、1996年9月以来、約30年ぶりの水準に達したが、米国の10年国債利回りは2025年1月以来の水準、ドイツは2011年以来約15年ぶりの水準、英国は2008年以来約18年ぶりの水準にとどまっている。
 
これらから、世界の長期金利の上昇が日本の長期金利の上昇をもたらしているという側面より、国内要因が主導する日本の長期金利の上昇が、世界の長期金利を押し上げているという側面の方が強いと考えられる。つまり、日本が世界的な長期金利の上昇を主導している面がある。

「良い金利の上昇」か?「悪い金利の上昇」か?

(名目)長期金利の上昇が、成長力の高まりによる実質金利の上昇による場合には、それは「良い金利の上昇」であり、経済を悪化させない。また、物価上昇率の見通しの上昇を反映する場合には、経済活動に影響する実質金利は変わらないことから、「悪い金利の上昇」ではなく、やはり経済を悪化させない。
 
しかし、財政リスクの上昇などを受けた長期金利の上昇は「悪い金利の上昇」であり、経済活動に悪影響を与える。ただし、短期金利の上昇と比べると、経済への影響はよりゆっくりと顕在化していくのが通例だ。

日本の長期金利上昇は世界の金融市場の動揺をもたらしAIブームを冷やすか?

世界の長期金利の上昇は、経済活動を冷やす、政府の利払い費負担を増加させる、財政悪化と長期金利上昇のスパイラルを生む、保有する債券価格の下落を通じて金融機関の経営を不安定にさせる、不動産、株式など資産価格を低下させる、など経済・金融の多方面に大きな影響を与える。
 
特に注目されるのは、金利の上昇に弱い傾向があるハイテク株、AI関連株への影響だ。日本を震源地とする長期金利の上昇がさらに続けば、株式市場でのAIブームを冷やすきっかけとなる可能性があるのではないか。さらに、長期金利の上昇とAI関連株の調整は、債券市場と株式市場でのAI関連企業の大型投資の資金調達を妨げ、AI関連の実物投資の拡大にもブレーキをかけるだろう。
 
そうした事態となれば、長期金利の上昇は世界経済を緩やかに減速させるにとどまらず、一気に失速させる可能性さえ出てくる。
 
こうした点から、日本を震源地とする長期金利の上昇は、世界経済・金融の大きなリスクであり、それゆえにトランプ政権は、円安や長期金利の上昇を促すような日本の経済政策に対して、その修正を求めるという異例の介入を行っている面がある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。