AI投資を回収するには個人が食費と同じ額をAIサービスに使う必要があるか
コロンビア・ビジネススクールのステイン・ファン・ニューウェンバーグ教授は論文(”Financing the AI Buildout,” Brookings Papers on economic activity)の中で、2025~2032年に完成する米国のAIデータセンターへの投資全体を回収するために2032年時点で必要となるAIの年間売上高を3.725兆ドルと計算している。
さらに、OpenAIとAnthropicの現在の年間売上高の合計は約1,000億ドルと推計されるが、AIデータセンターへの投資全体を回収するために必要な3.725兆ドルの売上高に達するには、両社の売上高は2032年まで年率約80%で伸び続ける必要があるとする。
2社の売上高が数千億ドル規模になってからも年間80%のペースが維持できるかについては大きな不確実性があるだろう(コラム「米国AI投資ブームの持続性と金融リスク」、2026年10月1日)。
AIサービスの売上高がその程度増加するかは、最終的に個人がAIサービスにどの程度の価値を見出し、お金を支払うと考えるかにかかっていると言える。
2025年の米国の可処分個人所得は23.0兆ドルだった。それが年間4%のペースで増加する場合、2032年には30.3兆ドルとなる。その時点で、AI売上高が3.7兆ドルであれば、それは個人の可処分所得の約12.2%になる計算だ。
一方、米国の可処分所得に占める食料品支出は2025年で4.8%であるが、外食を含めた飲食料品支出は9.7%となる。
AI売上高が可処分所得比で12%に達する規模になることは、個人が生きていくのに必要な外食を含む食費支出を上回る規模になる計算だ(企業が利用するAIサービスも最終的には消費者の負担になると仮定する)。
さらに、OpenAIとAnthropicの現在の年間売上高の合計は約1,000億ドルと推計されるが、AIデータセンターへの投資全体を回収するために必要な3.725兆ドルの売上高に達するには、両社の売上高は2032年まで年率約80%で伸び続ける必要があるとする。
2社の売上高が数千億ドル規模になってからも年間80%のペースが維持できるかについては大きな不確実性があるだろう(コラム「米国AI投資ブームの持続性と金融リスク」、2026年10月1日)。
AIサービスの売上高がその程度増加するかは、最終的に個人がAIサービスにどの程度の価値を見出し、お金を支払うと考えるかにかかっていると言える。
2025年の米国の可処分個人所得は23.0兆ドルだった。それが年間4%のペースで増加する場合、2032年には30.3兆ドルとなる。その時点で、AI売上高が3.7兆ドルであれば、それは個人の可処分所得の約12.2%になる計算だ。
一方、米国の可処分所得に占める食料品支出は2025年で4.8%であるが、外食を含めた飲食料品支出は9.7%となる。
AI売上高が可処分所得比で12%に達する規模になることは、個人が生きていくのに必要な外食を含む食費支出を上回る規模になる計算だ(企業が利用するAIサービスも最終的には消費者の負担になると仮定する)。
価格急落のもとで売上高は急増を続けるか?
さらに考慮する必要があるのが、AIサービスの価格の低下だ。ニューウェンバーグ教授は、現在は計算能力の不足が価格と利益率を押し上げているが、今後激しい競争が起き、データセンターの処理能力が4倍に拡大しているであろう2032年になっても、上記の計算では、現在のような不足を前提とした価格設定が維持されることが仮定されている、と説明している。
過去を振り返ってみると、価格の急落は投資ブームを終焉させる一因となった。1997年から2001年にかけて光ファイバー網の敷設が進み、ケーブル1本当たりの通信容量が拡大したことで、ロンドン・ニューヨーク間の通信回線の価格は96%も下落した。この価格崩壊が、数多くの長距離通信会社の倒産を加速させることになった。
AIモデルの性能は約4~5か月ごとに倍増している。エポックAIによると、一定の性能に対する実効価格は2023年以降、四半期ごとに47%下落しており、これは計算能力の価格下落ペースの6倍の速さだという。
AI投資の回収に関する上記の計算は、価格下落分を相殺して余りあるほどの需要が喚起されなければ成り立たないことになる。この関係性は、19世紀の英国で石炭利用を巡る同様の現象を指摘した経済学者、ウィリアム・スタンリー・ジェボンズにちなんで「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれている。
1960年代から2000年代初めにかけて、半導体チップの集積度は約2年ごとに倍増した。「ムーアの法則」と呼ばれるこの現象により、コンピューターの実質価格は毎年約15%下落した。価格の下落は大きな需要を生み出し、価格下落の影響を十二分に補った。
しかし、同様に価格下落と需要増加の双方の影響によって、AIサービスの名目売上高が年間80%程度のペースで増加し続けることになるかどうかについては、不確実性が高い。個人がAIサービスにどの程度の価値を見出して対価を支払うのかも含めると、その先行きを見通すことは一層容易ではない。
(参考資料)
“Will America Spend 9% of Its GDP on AI? The Industry Is Counting on It(AIに米GDPの9%を支出? 業界の期待と現実)”, Wall Street Journal, October 5, 2026
過去を振り返ってみると、価格の急落は投資ブームを終焉させる一因となった。1997年から2001年にかけて光ファイバー網の敷設が進み、ケーブル1本当たりの通信容量が拡大したことで、ロンドン・ニューヨーク間の通信回線の価格は96%も下落した。この価格崩壊が、数多くの長距離通信会社の倒産を加速させることになった。
AIモデルの性能は約4~5か月ごとに倍増している。エポックAIによると、一定の性能に対する実効価格は2023年以降、四半期ごとに47%下落しており、これは計算能力の価格下落ペースの6倍の速さだという。
AI投資の回収に関する上記の計算は、価格下落分を相殺して余りあるほどの需要が喚起されなければ成り立たないことになる。この関係性は、19世紀の英国で石炭利用を巡る同様の現象を指摘した経済学者、ウィリアム・スタンリー・ジェボンズにちなんで「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれている。
1960年代から2000年代初めにかけて、半導体チップの集積度は約2年ごとに倍増した。「ムーアの法則」と呼ばれるこの現象により、コンピューターの実質価格は毎年約15%下落した。価格の下落は大きな需要を生み出し、価格下落の影響を十二分に補った。
しかし、同様に価格下落と需要増加の双方の影響によって、AIサービスの名目売上高が年間80%程度のペースで増加し続けることになるかどうかについては、不確実性が高い。個人がAIサービスにどの程度の価値を見出して対価を支払うのかも含めると、その先行きを見通すことは一層容易ではない。
(参考資料)
“Will America Spend 9% of Its GDP on AI? The Industry Is Counting on It(AIに米GDPの9%を支出? 業界の期待と現実)”, Wall Street Journal, October 5, 2026
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。