&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

2%の物価目標水準に到達との判断へ

10月21日に共同通信は、10月29日・30日に開く金融政策決定会合で、基調的な物価上昇率が目標の2%に到達したかの判断を示す、と報じた。10月5日の時点で時事通信は、日本銀行が金融政策決定会合でそうした判断を示すことを検討している、と報じていた(コラム「日銀は基調的な物価上昇率が2%に到達との判断を示すとの報道」、2026年10月6日)。こうした報道を踏まえると、実際、日本銀行が2%の物価目標到達との判断を次の決定会合で示す可能性は高まっているだろう。その場合、日本銀行は基調的な物価上昇率を2%で安定させること、つまり物価目標の達成を引き続き目指すことになる。

一方、10月29日・30日の決定会合では利上げは見送られる可能性は高い。次回の利上げは今年12月17・18日の決定会合となるだろう。日本銀行が物価の目標水準到達の判断を示しても、当面の金融政策には直接影響せず、少なくとも12月までは「利上げペースの加速」局面が続き、その後も利上げ局面は続くとみられる。

当初、日本銀行の執行部は、基調的な物価上昇率が2%に達するのと同時に、政策金利を中立水準まで引き上げることを目指していたと推察される。しかし、中立水準の不確実性が高い一方、原油価格高騰等の影響で基調的な物価上昇率が2%を超えるリスクが生じたことから、日本銀行は政策金利が中立水準を上回り、金融政策が金融緩和の縮小から金融引き締めの領域に入ることを覚悟して、9月に「利上げペースの加速」に踏み切ったと考えられる。

2%の物価目標到達との判断を示しても、中立水準についての不確実性は残り、日本銀行はその水準を引き続き模索するとみられる。しかしながら、今後利上げを進める中では、政策金利が中立水準を上回り、金融引き締めの領域に入る可能性はより高まっていく。そのため、金融引き締めによる経済悪化を懸念する政治からの牽制を受けやすくなることも考えられる。

2%到達との判断は政治的圧力の後退が背景か

基調的な物価上昇率は、特定の経済指標によって示されるのではなく、日本銀行が独自に判断するものであり、国民や金融市場にとっては分かりにくい。

日本銀行は今まで、基調的な物価上昇率が2%にかなり近づいているが、まだ到達していないと繰り返し説明してきた。こうした説明は政治的な背景による部分が大きいと思われる。

高市政権は、日本銀行の利上げは景気を悪化させることを警戒し、利上げを牽制してきたとみられる。日本銀行は、利上げをしてもまだ金融緩和の状態にあり、そうした中での利上げは金融引き締めではなく金融緩和の縮小であるとして、高市政権に対して利上げへの理解を求めてきたのだろう。

日本銀行が基調的な物価上昇率が2%に到達との判断を示す場合には、そうした政治的配慮の必要性が低下したと考えたためではないか。トランプ政権は、高市政権による日本銀行の利上げ牽制を批判してきた。それは円安を助長し、米国経済にもドル高という弊害が及ぶためだ。

高市政権はこうしたトランプ政権からの働きかけを受けて、日本銀行の利上げに対するけん制姿勢をかなり後退させてきているとみられる。これは、日本銀行の金融政策の独立性を回復させ、政策決定の自由度を高めるものだ。

政策運営の2つの柱

現在の日本銀行の政策方針は、2本柱に基づいて進められている。第1の柱は、経済・物価が展望レポートの見通しに沿っており、基調的な物価上昇率が2%に近づいている確度に応じて、政策金利を緩やかに引き上げ、金融緩和の縮小を徐々に進めるというものだ。これが、2024年3月以降の金融政策正常化の過程で進められてきた政策方針だ。

他方、第2の柱は、基調的な物価上昇率が2%を超えて高まることを回避するための政策対応だ。9月から、日本銀行の政策は「利上げペースの加速」局面に入った。
政策金利の中立水準に関わる不確実性は残るため、第1の柱は、しばらくは続くだろうが、第2の柱の重要性がより高まっていく。

第2の柱について、利上げの時期やペースを決めるのは、①中東情勢、②AI、③為替の3点と日本銀行は説明している。この3つの要因によって基調的な物価上昇率が2%を超えて高まるリスクがある場合には、さらに利上げを進める一方、そうしたリスクが後退すれば、利上げを停止する、あるいは利下げを行う余地も出てくるだろう。

日本銀行が基調的な物価上昇率について次回会合で2%程度に到達したとの判断を示すか否かに関わらず、日本銀行は今年12月に政策金利を1.5%に引き上げ、来年から再来年にかけて1.75%~2.0%まで引き上げると筆者は予想する。その後、物価上昇率及びインフレ期待が低下していけば、利下げの余地も出てくると考える。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。