&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

深まるフランスの社会不安

フランスでの抗議活動が一層激化している。10月17日にはリモージュで、覆面の暴徒が1883年竣工の市庁舎に押し入って放火した。マルセイユやリール、カレー、アンジェでも市庁舎への突入が試みられた。19日には複数の都市で夜間外出禁止令が出され、抗議団体は今週土曜にも新たなデモを予告している。
 
抗議活動は、劣悪な教育環境の改善を訴える学生主導のデモから、生活費の高騰、公共支出の削減、政府への不満を背景とする、より広範な運動へとエスカレートしてきている。

金融市場への影響

社会不安がさらなる財政悪化につながるとの懸念から、金融市場ではフランス長期国債の金利が大幅に上昇している(コラム「フランス政局と国債市場の混乱」、2026年10月15日)。10年債利回りは現在4.95%程度であるが、10月初めには2002年7月以来の高水準となる4.9937%をつけた。対ドイツ国債スプレッド(金利差)はイタリアやギリシャを上回っており、フランスの高格付け社債の約38%が国債より低い利回りで取引されるという逆転現象も起きている。
 
フランス国債の海外投資家の保有比率が2022年初めの約48%から2026年初めには約60%に上昇しており、海外市場との連動が強まっている。10月23日に予定されるムーディーズの格付け見直しが注目されている。

2027年フランス大統領選への影響

フランスの大統領選挙は、2027年4月18日と5月2日に2回投票制で行われる。右派ポピュリスト政党「国民連合(RN)」では、控訴審判決で被選挙権の制限が外れたマリーヌ・ルペン氏が出馬を表明している。マクロン大統領が連続3選禁止の規定により出馬しない中、現時点で最も有力とされる候補者はルペン氏であり、それに続くのが、極左政党「不屈のフランス(LFI)」のジャンリュック・メランション氏だ。
 
両氏が決選投票に進む可能性が高まっているが、世論調査では、両氏の決選投票となった場合、ルペン氏が圧勝すると予想されている。
 
ルペン氏は10年以上にわたり、フランスは移民と無法状態の波に翻弄され、国の社会構造が引き裂かれていると主張し続けてきた。そのため、大統領選の候補者の中でフランスに秩序を取り戻す用意があるのは自分しかいない、とアピールしやすい状況にある。今回の抗議活動は、大統領選挙に向けてルペン氏に強い追い風となっているのである。
 
RNは政府予算への対案として、2030年に財政赤字をGDP比3%未満、2032年に政府債務をGDP比112%(現在119%)に引き下げることを掲げている。
 
他方、ルペン氏自身は、法定退職年齢を62歳に戻し、早くから働いてきた人には60歳での退職を認めることを公約に掲げている。これは同国の年間財政赤字を数十億ユーロ単位で拡大させることになるとされる。このため、ルペン氏が大統領になると財政環境が一段と悪化するとの懸念が、金融市場に強く残っている。
 
しかしルペン氏は、欧州議会資金の流用を巡る2025年の有罪判決に端を発する法的な問題を抱えている。今年7月、控訴院は有罪判決を維持したうえで量刑を修正し、同氏に禁錮3年(うち2年は執行猶予付き)を言い渡した。裁判官は残る1年について、電子ブレスレットを装着して服役することが可能であるとしている。ルペン氏は破毀院(最高裁)に上告すると表明している。破毀院が控訴審判決を支持すれば、司法の監視下で選挙運動を行わなければならなくなる。
 
そうなれば、選挙戦には大きな逆風となるだろう。こうした点から、来年の大統領選挙の不確実性もなお大きい状況だ。
 
(参考資料)
“Marine Le Pen Seizes on French Chaos to Present Herself as Leader in Waiting(フランス騒乱に乗じるルペン氏「次期大統領」へ猛アピール)”, Wall Street Journal, October 20, 2026

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。