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AI関連投資の回収への不安

10月30日の米国市場では、ナスダック総合指数が前日比2.86%安と大きく下落した。ナスダック100指数の下落率は6月以来の大きさとなり、取引時間中には10月6日の最高値から10%下落し、一時「調整局面」の水準に達した。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)も7.2%安と急落した。
 
きっかけは、29日に発表されたインテルとアマゾン・ドット・コムの四半期決算が期待外れの内容となったことだ。インテルは第4四半期の売上高・利益の見通しが市場予想を下回り、株価は29%安と、1980年代以降で1日の下落率として最大となった。AI関連企業による巨額支出への懸念も一段と強まり、新興のAIクラウド企業(ネオクラウド)であるコアウィーブの株価も10%超下落した(コラム「コアウィーブ・ショックとAIブームの3つの逆風」、2026年10月19日)。
 
東京市場でも、30日にインテルを主要顧客とするイビデンがストップ安となるなど、影響はすでに表れている。今回の米国でのAI関連株の調整は、週明け11月2日の東京市場にも大きな影響を及ぼす可能性が高い。
 
AI関連株の調整の主な背景には、①AI関連投資の回収可能性への不安、②債務拡大と高金利によるクレジットリスク、③中間選挙後のAI規制への警戒、の3点があると考えられる。
 
AI関連株については、年初から投資額と回収のバランスが問われ続けてきた。巨額の投資を、今後AI関連の売上から得られる収益で回収できるのか、という根強い懸念である。今回の決算では、その懸念を裏付ける材料が相次いだ。
 
アマゾンは、利益率が過去最高となった一方で、フリーキャッシュフローが赤字に転じた点が嫌気された。アルファベットでは、検索結果にAIによる要約を表示する「AIオーバービュー」が中核の検索広告収入を圧迫しているとの見方が広がり、決算後に株価が下落し、時価総額が5,000億ドル以上失われた。AIが既存の収益源を侵食するという新たな懸念も意識され始めている。
 
市場の評価軸は、投資規模の大きさを成長の証とみる段階から、その投資をいつ、どの程度回収できるのかを問う段階へと移りつつある。

債務拡大と高金利がクレジットリスクを意識させる

巨額投資に伴う債務の増加は、AI関連企業全体のクレジットリスクを強く意識させ始めている。ハイパースケーラー(超大手クラウド事業者)による投資適格社債の年初からの発行額は、10月上旬時点で2,181億ドルに達し、2025年通年の1,073億ドルの2倍を超えた。そうした中、需給悪化などから社債スプレッドは拡大している。10月時点のハイパースケーラーのスプレッド(OAS)は119bpと、社債指数全体の86bpを33bp上回る。
 
また、AI関連の発行体の間で値動きの相関が高まり、テック企業の社債が単一のテーマとして取引される傾向が強まっていることも指摘されている。メタが株式による大規模な資金調達の計画を示したことは、債券投資家には財務面での安心材料となった一方、株主には株式の希薄化への懸念をもたらした。
 
金利環境も逆風となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に約3年ぶりとなる利上げに踏み切った。10月28日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利を据え置いたが、2名の委員が利上げを主張して反対票を投じ、市場は12月の追加利上げを7~8割の確率で織り込んでいる。米10年国債利回りは、10月5日に5.31%と2002年以来の高水準をつけた後も、5%前後の高い水準にとどまっている。
 
長期金利の高止まりはAI関連企業の資金調達コストを押し上げ、債務に依存した投資の採算を一段と厳しくする。社債スプレッドの拡大と株価下落が同時に進む構図は、AI関連企業のリスクが株式と債券の双方で再評価されていることを示している。

米国中間選挙後のAI規制への警戒

11月3日に迫る米国中間選挙後の新議会の下で、AI規制が強化されることへの警戒も、AI関連株の下落につながっている面がある。
 
今回の選挙の特徴は、AI、特にデータセンター建設が有権者レベルの争点になったことだ。キニピアック大学の9月の調査では、地元でのAIデータセンター建設に反対する人が73%に達し、賛成の21%を大きく上回った。反対の割合は民主党支持者で85%、無党派で76%、共和党支持者でも55%と過半数に達した。ロイター・イプソスの調査では、建設制限を支持する割合は民主党支持者で69%、共和党支持者で43%である。党派による差はあるものの、AIインフラへの反発は党派を超えて広がっている。
 
選挙情勢は民主党が優勢である。米選挙予測サイトのディシジョン・デスクHQ(10月31日時点)は、民主党が下院で過半数を獲得する確率を83%、上院では63%とみている。
 
民主党が下院、あるいは両院を制すれば、委員会の過半数を握り、AIなどの分野で法案提出や公聴会の開催が可能となる。AI関連企業に対しては、競争政策やデータプライバシーなどの面で監視が強まる可能性があるだろう。さらに、AIの推進を狙って共和党が現在進めている法制化の動きが妨げられる可能性もある。
 
州レベルで注目されているのは、テキサス州知事選の行方だ。アボット知事は8月に、送電網への接続を待つデータセンター計画について州電力当局に審査を命じ、審査が終わるまで接続手続きを止めた。電力と土地の制約は、AI投資の物理的なボトルネックに直結する。
 
AI規制の動きは党派を超えて広がってる面があるが、民主党が下院を制すれば、トランプ政権によるAI推進の法制を進める動きが妨げられる。中間選挙での民主党勝利への見方が強まるにつれて、株式市場ではAI規制の強化を警戒してAI関連株が売られやすい流れとなっている。

リスク回避での円高は日本株の下落幅を増幅

中間選挙の結果は、財政政策と金融政策の両面からドル円相場に影響を与える。民主党が下院を制すれば、トランプ政権が進める積極財政は阻まれやすくなる。財政規律への信認が高まればドルを支える要因となる。また、民主党が上院を制すれば、上院の人事承認権を通じて、トランプ政権がFRBの主要人事で金融緩和に積極的な人物を指名することを阻むことも可能となる。これも、FRBの信認向上を通じてドル高要因となる。
 
しかし、より短期的には、AI関連株の下落が金融市場全体のリスク回避(リスクオフ)にまで広がるかどうかが、為替の方向を左右する可能性があるだろう。ドル円は足もとで157~158円台で推移しているが、中間選挙後のAI規制への懸念も影響しているAI関連株の調整がさらに進み、リスク回避の動きが強まれば、円は買われやすくなる。そうした傾向が続く場合には、民主党が勝利しても、当面の為替市場はドル安・円高に振れる可能性があるだろう。
 
その場合、円高による逆風が加わり、米国を震源とするAI関連株下落の影響は、半導体関連の比重が高い日本の株式市場に、より大きく表れる可能性がある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。