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コアウィーブ・ショックと金融市場の動揺

先週以来、世界の金融市場では、株安・債券高(長期金利低下)のリスクオフ相場が続いている(コラム「AI・半導体関連を中心に株価は大幅下落:株安・円高・債券高のリスクオフ相場に」、2026年10月15日)。背景には、米国AI関連企業での経営不安がある。特に注目を集めているのが、コアウィーブ(CoreWeave)だ。
 
コアウィーブは、AI半導体を搭載したデータセンターを、AI開発企業やクラウド大手に貸し出し、ハイパースケーラーと競合する一方で、ハイパースケーラーにもサービスを提供する「ネオクラウド事業者」と呼ばれる新興企業群の一社である。
 
大手企業のような規模や収益性を持たないこれらの新興企業は、事業拡大を負債に大きく依存してきた。コアウィーブも、データセンターとそこに設置するエヌビディアの半導体の資金調達を主に負債に頼っている。6月時点で、コアウィーブの無担保債はS&Pグローバル・レーティングから「B」格付け、つまり投機的格付けを受けている。6月30日時点で、借入金は約351億ドル、リース負債は165億ドル、合計で約516億ドルと報じられている。
 
こうした負債リスクを抱えるコアウィーブの信用状況は、足もとの長期金利上昇によって悪化した。デフォルト・リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で、コアウィーブの5年物保証料率は10月15日に一時11.4%程度にまで上昇した。これを前提にすると今後5年間のデフォルト確率は6割に及ぶという。社債価格の下落は同社の株価の下落を引き起こし、株式市場全体に調整圧力を生じさせている。

3つの逆風

売上に対して巨額の債務を抱えた同社の経営上の問題は明らかであるが、これが大手も含めたAI関連業界全体に一気に広がるかどうかはまだ分からない。しかし、同社の抱える問題が、程度の差はあれAI関連業界全体に共通する面があることは確かだろう。

それは、第1に、巨額の資金調達を伴う投資が、将来の売上・収益の増加によって賄われるかどうかについての不確実性だ。コロンビア・ビジネススクールのステイン・ファン・ニューウェンバーグ教授の論文(”Financing the AI Buildout,” Brookings Papers on economic activity)によると(コラム「米国AI投資ブームの持続性と金融リスク」、2026年10月1日)、米国のAIインフラ投資全体の回収に必要な収益水準を、OpenAIとAnthropicの2社の売上高だけで満たすには、売上高が年率約80%で増加し続ける必要があるという。この条件をクリアするのは簡単ではないだろう。

第2に、フランスでの政情不安、日本での財政悪化懸念、米国での利上げ観測、原油価格高騰などの様々な要因によって、足もとでは長期金利の上昇傾向が強まっている。また、それによって株価も調整している。

長期金利の上昇や株価の調整は、AI関連投資を制約する要因となる。投資が鈍化すれば将来の売上・収益の見通しが下方修正され、既存の債務の返済についての不安が広がることになる。AI関連大手5社の設備投資は2026年に初めて営業キャッシュフローを上回る見込みであり、社内で稼いだ現金だけでは投資ペースを支えきれなくなる転換点を迎えている(コラム「米国AI投資ブームの持続性と金融リスク」、2026年10月1日)。必要な投資額が最大手企業でもバランスシート上で賄いきれない規模となった結果、外部資金への依存度が高まり、金融市場に対するストレスを高めている面があるだろう。

一方、こうした構造の下では、金融環境の変化がAI関連投資に一段と大きな影響を及ぼしかねない。AI関連投資と金融市場との相互依存関係が強まっており、それがAIビジネスの弱点ともなっている(コラム「AI・半導体関連を中心に株価は大幅下落:株安・円高・債券高のリスクオフ相場に」、2026年10月15日)。

第3の逆風は、AI規制強化の動きだ。これは、将来のAI関連売上の見通しの下方修正につながり、その結果、AI関連企業の債務リスクを増幅させる。この点から、11月3日の米国中間選挙で、AI規制の強化を目指す民主党が議会勢力を伸ばすかどうかが注目される(コラム「2026年米国中間選挙展望:シナリオ別の経済政策と金融市場への影響」、2026年10月8日)。

現状では金融市場で浮上しているAI関連ビジネスの問題は、信用力、経営力が弱い新興企業の問題として概ね認識されている状況だろう。しかし、大手企業がそうした新興企業に信用補完を行っているのが、AI業界の特徴の一つでもある。そのもとでは、新興企業への経営不安が業界全体へ波及するリスクも小さくない点に留意する必要がある。

(参考資料)
“The Riskiest Corner of the AI Trade Is Crashing Into Higher Rates(AIトレードの高リスク銘柄、金利上昇で打撃)”, Wall Street Journal, October 16, 2026
「コアウィーブに信用リスク 株乱高下 負債額、売上高の6倍に」、2026年10月17日、日本経済新聞
「DJ-【WSJ】コアウィーブ株、下落さらに深刻化」、2026年10月17日、ダウ・ジョーンズ債券・為替情報  
「【今、この人に聞く】「懸念はコアウィーブの信用リスク」エヌビディア補完必要 みずほ証券大橋氏」、2026年10月16日、日経ビジネス電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。