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米国中間選挙後はAI規制強化への懸念が広がる

11月5日の米国市場ではAI関連株が大幅に下落し、ナスダック総合指数は5%以上、ナスダック100指数は6%以上の大幅下落となった。海外市場で日経平均先物価格も急落しており、6日の東京市場での株価下落は歴史的な規模となる可能性がある。
 
AI関連株を中心とした株価大幅下落のきっかけとなったのは、11月3日に行われた米国中間選挙で民主党が上下両院を制する圧勝となったことだ。もっとも、選挙直後の4日には結果の不透明感が解消したとして株価は急騰しており、5日はその上げを帳消しにしてさらに下落した。
 
民主党の躍進を受けて、トランプ政権が進めようとしているAI推進策が阻まれ、民主党主導で州レベル、連邦レベルでAIの安全性や電力消費、個人情報保護などへの規制が強化されるとの観測が浮上した。
 
しかし、AI規制への懸念だけが、AI関連株下落の原因ではない。過去1か月程度、AI関連株の調整は続いてきた。その契機の一つは、夏場から10月初めにかけて、米国の長期金利が大幅に上昇したことだろう。巨額のAI関連投資を続けるハイパースケーラー(超大規模クラウド事業者)はそれを内部資金で賄うことが難しくなり、外部資金への依存を強める局面に入ってきた。そのため、AI投資は金融市場の環境に大きく左右されるようになっている。
 
長期金利の上昇は、社債発行による投資資金の調達のコストを高める。また、既に巨額の債務を抱える事業者にとっては、債務返済の負担を高め、経営不安にもつながる。10月にAI向けクラウドサービスを提供する新興企業(ネオクラウド)のコアウィーブの経営不安が表面化した背景には、この点があっただろう。金利上昇は特に、ハイテク株の株価には逆風となり、それによる株価の調整が資金調達を難しくする面もある。
 
また、巨額のAI関連投資を将来の利益で回収できるかどうかという点への不安は年初から株式市場に燻ぶり続けており、長期金利の上昇によってその懸念が再度蒸し返されている。

複雑な資金調達などの構造問題

さらに、ハイパースケーラーや半導体メーカーなどが、信用力の低いネオクラウドなどの中小事業者に対して信用供与を行うことで巨額の資金調達を可能にしているといった、AI投資の独特で複雑な資金調達構造も注目される。AI投資需要が鈍化する局面では、一蓮托生の構図のもとで、信用力の低い事業者にも経営不安が広がる可能性がある。
 
また、ハイパースケーラーが長期リース契約を行うデータセンターには、銀行が複雑に関与するプライベートクレジットが大きな役割を果たしている。AI投資需要が鈍化すれば、こうした複雑な資金調達の問題が一気に表面化し、ノンバンクだけでなく銀行の経営にも打撃が生じる可能性があるだろう(コラム「米国AI投資を支える特殊な資金調達構造と金融リスク」、2026年11月6日)。
 
このように、AI関連株下落の背景には、米国中間選挙だけではない根の深い構造的問題があり、選挙を受けたAI規制強化への懸念は株価下落のきっかけに過ぎないとも言える。そのため、株価下落は一時的には終わらず、またAI関連投資は鈍化局面に入りつつある可能性も考えられる。

日本経済や金融市場にも大きな影響

AI規制の強化は、AI技術の持続的な発展と社会への定着を確保するうえで必要な側面もあるだろう。また、金融市場の調整は、過去のインフラブームでも生じていることであり、新たな技術、インフラの発展初期には行き過ぎが生じるのは自然であり、それを経たうえで重要なインフラとして社会に根付いていくものとも考えられる。
 
ただし、現在の米国経済は「AI一本足」とも言える状況であり、AI投資需要への依存度が高い。そのもとでAI投資需要が鈍化すれば、米国経済は下振れることが避けられない。それは、利下げ観測を浮上させ、ドル安を後押しするだろう。
 
そして、米国でのAI投資需要の鈍化は、日本から米国への輸出にも打撃となり、日本経済にも悪影響を与える。日本の金融市場では円高、株安、債券高(長期金利低下)が進み、過去数年とは流れが逆転することも考えられる。こうした点から、米国でのAI関連株の下落、AI投資需要の鈍化は、日本経済と日本の金融市場の流れを大きく変える「ゲームチェンジャー」となり得る。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。