&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

急速な政策転換を進める第二期トランプ政権

2025年1月20日に二期目の政権を発足させた米国のドナルド・トランプ大統領は、バイデン前政権からの大幅な政策転換を矢継ぎ早に打ち出している。金融資本市場規制の分野も例外ではない。トランプ大統領が1月23日に署名した大統領令(14178号)(注1)では、ビットコイン等のマイニングの権利を保障することやドルと連動するステーブル・コインの普及を促進することなどがうたわれるとともに、関係省庁や証券取引委員会(SEC)、商品先物取引委員会(CFTC)などのトップで構成するホワイトハウスの作業部会が設置されることになった。同作業部会では、暗号資産規制の整備や連邦政府によるデジタル資産の備蓄(stockpile)へ向けた検討が行われる。
 
暗号資産の規制をめぐっては、SECも暗号資産業界の理解者として知られ「クリプト・マム(暗号資産の母)」の異名をとるへスター・ピアース委員をトップとする規制見直しのためのタスクフォースを発足させた。2月21日には、米国最大手の暗号資産交換業者であるコインベースが、SECが2023年6月に提起した、同社が違法な無登録証券取引所を運営したとする訴訟を取り下げることに同意したと発表している。
 
こうした中で、2月11日から12日にかけて、上場会社と機関投資家とのエンゲージメント(建設的な対話)やアクティビスト・ファンド(いわゆる「物言う株主」)の活動に影響をもたらすような規制上の見直しが相次いで実施された。一つは、2月11日に公表された、大量保有報告制度に関する解釈を明らかにするための Q&A の改訂である(注2)。もう一つは、2月12日に公表されたSEC企業金融局スタッフによる法律意見書(Staff Legal Bulletin)の改訂である(No.14M(CF))(注3)。

 

大量保有報告制度における特例報告

大量保有報告制度とは、上場会社の株式等を大量に保有する者の存在やその保有目的が対象会社の支配に影響を与えることや大量保有者の売買状況が対象株式等の需給関係に影響を与えることに鑑み、大量保有者に保有目的や売買状況を開示させることで一般投資家に対して投資判断資料を提供するための制度である。米国ではSEC規則で詳細が定められており、2023年10月に成立した規則改正に伴い、2024年9月末から大量保有報告書や変更報告書の提出期限短縮などの制度改正が実施されている(注4)。
 
米国の大量保有報告制度では、ある上場会社等の株式等の5%超を実質的に保有することとなった者は、5営業日以内に、資金の出所、保有株式数、保有目的等を記載するスケジュール13Dと呼ばれる報告様式を用いて、SEC、関係する証券取引所および当該会社に報告しなければならないのが原則である(規則13d-1)。その後、保有割合の1%超の変動など、記載事項に重要な変更が生じた場合にも報告が求められる(規則13d-2)。
 
ただし、5%超を保有することとなった者が一定の要件を満たす適格機関投資家(QII:Qualified Institutional Investors)である場合等には、スケジュール13Dよりも記載内容が簡素化された報告様式であるスケジュール13Gによる報告が認められる(規則13d-1(b)項、(c)項)。いわば特例報告制度である。適格機関投資家がスケジュール13Gの利用が認められるのは、「通常の業務の過程で(in the ordinary course of the person's business)、株式発行会社の経営支配に影響を与える目的でなく、影響を与えることなく(not with the purpose nor with the effect of changing or influencing the control of the issuer)」株式を保有する場合に限られる(規則13d-1(b)(1)(i))。
 

SECの解釈変更

登録投資顧問業者であり、適格機関投資家に該当する米国の機関投資家にとって、規制遵守のコスト負担の小さいスケジュール13Gによる大量保有報告書提出を認められることは、実務上極めて重要である。このため、5%超の株式保有が、「通常の業務の過程で経営支配に影響を与えることなく」行われたとはどのような状況を指すのかは、重大な関心事である。
 
2月11日に改訂されたSECのガイダンスでは、この点に関する新たな解釈が提示された。すなわち、Q&A形式で示されたガイダンスに「投資先企業の経営者との特定のトピックをめぐるエンゲージメント(建設的な対話)が経営支配に影響を与える目的または経営支配に影響や変化をもたらすものとされるのはどのような場合でしょう」という問いとその答えが追加されたのである(Question 103.12)。
 
そこでは、エンゲージメントで取り上げられる話題によってはスケジュール13Gの利用が認められなくなる場合があるとして、①株式発行企業の身売りや多額の資産の売却を具体的に求めること、②株式発行企業の事業再構築(restructuring)を求めること、③株式発行企業が指名した候補以外の取締役候補の選任を求めること、が具体的な例として挙げられている。
 
また、エンゲージメントでどのような話題が取り上げられるかに加えて、エンゲージメントがどのような文脈で行われるかが、経営支配に「影響を与える」目的や結果の有無の判定には極めて重要だとし、株主側が特定の話題に関する自らの意見を伝えたり、議決権行使の意向を伝えたりすることだけでは、スケジュール13Gの利用が認められなくなるわけではないとする。
 
ただし、株主が単に自らの意見や議決権行使の意向を伝達するだけでなく、経営者に特定の措置を講じさせたり経営方針を変更させたりするような圧力をかけた場合には、経営支配に影響を与えるものと判断されるとし、具体的に次のような例を挙げている。
  • 一回の株主総会での改選で取締役全員を交代させることを不可能にするスタッガード・ボード(staggered board)の廃止を推奨すること。
  • 対立候補がない取締役選挙でも選任に過半数の支持を必要とする仕組みに移行するよう推奨すること。
  • 買収防衛策ポイズン・ピルの廃止を推奨すること。
  • 役員報酬制度の改定を推奨すること。
  • 社会問題、環境問題、政治的な政策について特定の行動をとるよう推奨すること。
  • 次回の取締役選任での議決権行使について、自らが推奨した対応を講じたかどうかを賛否の暗黙または明示的な条件とすること。
  • 特定の事項についての議決権行使方針について経営者と議論したり、経営者が特定の事項について株主の期待を満たしていないかどうかを議論したりすること。
  • 特定の事項について株主の期待に応えられなければ次回の取締役選任の際に経営者が指名する一人または複数の候補を支持することができないという意見を明示的または暗黙に伝えて経営者に圧力をかけること。
 
併せて、これまでQ&Aに掲げられていた、「経営支配に影響を与える目的からではなく、役員報酬や社会的・公益的な問題(例えば環境政策など)について株式発行企業の経営者と対話を行うことは、一般的にはスケジュール13Gの利用を排除することにはつながらない」、「スタッガード・ボードの廃止や取締役選任投票の過半数への移行、ポイズン・ピルの廃止といったコーポレートガバナンス上のトピックについて、特定企業の具体的な変化を促す目的からではなく、投資先企業全体のコーポレートガバナンス向上のため幅広い努力の一環として対話することは、一般的にスケジュール13Gの利用資格を失わせることにはならない」といった記述が削除された(Question 103.11)。

有力機関投資家は投資先企業との対話を中止

SECが Q&A で経営支配に影響を与えたと判断される可能性のあるエンゲージメントのトピックとして例示したスタッガード・ボードの廃止、取締役選任投票の過半数制への移行、ポイズン・ピルの廃止などは、いずれもかなり以前から多くの機関投資家が要求してきた事項である。また、「社会問題、環境問題、政治的な政策について特定の行動をとるよう推奨すること」は、漠然とした表現ではあるが、いわゆるESGの観点から具体的な方針を打ち出すこと、例えば、「2050年までのカーボン・ニュートラル達成」や「3年以内に女性管理職比率30%以上達成」といった具体的な経営目標を提示するよう求めるといった行動が該当するのだろう。
 
もちろん、今回新設された Q&A の記述でも、そうした話題に経営者との対話の中で言及することが、すべて「経営者に特定の措置を講じさせたり経営方針を変更させたりするような圧力をかけた」とみなされてスケジュール13Dによる情報開示義務を生じさせる契機となるとは述べていないが、多くの機関投資家がエンゲージメント活動を通じて行ってきたような経営者との対話に伴う規制上のリスクが、これまでになく大きくなったことは否定できないだろう。
 
有力経済紙『フィナンシャル・タイムズ』電子版の報道によれば、世界最大の投資運用会社であるブラックロックや有力機関投資家ヴァンガードは、SECによるガイダンス改訂を受けて、一時的にスチュワードシップ活動のための投資先企業とのミーティングを中止したとのことである。

委任状勧誘規制に関する法律意見書の改訂

一方、2月12日に公表された法律意見書の改訂は、いわゆる委任状勧誘規制に関するSEC規則であるレギュレーション14Aのうち、上場会社による株主提案の取り扱いについて定める規則14a-8の解釈に係るものである。委任状勧誘規制をめぐっては、近年、民主党と共和党の党派的対立が深まっており(注5)、民主党から共和党への政権交代を受けて、早速規則の解釈を見直すことになったものと考えられる。
 
米国には、日本のような株主総会における書面投票制度は存在せず、上場会社は、株主総会における会社提出議案の内容を説明し、経営者への委任状提出を呼びかける委任状説明書(proxy statement)を含む株主総会招集通知を株主に対して送付する。これが上場会社自身による委任状勧誘であり、多くの株主は、これに応じて経営者に議決権の行使を委任する。一方、株主が会社提案とは異なる内容の株主提案を行う場合、自ら委任状説明書を作成して株主に対する委任状勧誘を行うことも可能だが、それには多額の費用を要する。そこでSEC規則14a-8は、株主提案のうち一定の要件を満たすものについては、その内容を会社が作成する委任状説明書に掲載することを義務づけている。
 
同規則は、次のいずれかに該当する提案については、会社は自ら作成・送付する委任状説明書への掲載を拒否することができるものする(規則14a-8(i)(1)~(13))。
  • 州法上不適切な内容の提案
  • 違法な行為を行わせることとなる提案
  • 委任状勧誘規制に違反する内容の提案
  • 私的な要求や特殊な利益に関する提案
  • 会社の総資産の5%未満、売上高または利益の5%未満に関連する経営意思決定に関するものなど、重要性を欠く提案
  • 会社の権限外の行為に関する提案
  • 会社の日常的な業務運営に関する提案
  • 特定の者の取締役への選任や任期途中での解任に関する提案
  • 会社の提出議案と直接的に対抗する提案
  • 既に会社によって実質的に実施されている内容の提案
  • 会社が作成する委任状書面に掲載される他の株主提案と重複する内容の提案
  • 過去5年以内に提案され、過去3年以内の株主総会において一定以上の株主の支持を得られなかった提案の再提案
  • 現金または株式による配当の額に関する提案
 
上場会社は、特定の株主提案が上の要件のいずれかに該当すると判断し、自ら作成・送付する委任状説明書への当該株主提案の掲載を拒否しようとする場合には、掲載拒否の理由をSECに対して届出なければならない(規則14a-8(j)(1))。この届出は、いわゆるノーアクション・レターの発給を求める手続きと同様の手続きを踏んで行われる。つまり、上場会社による届出を受けて、SECのスタッフが掲載拒否の理由の正当性について審査し、問題がなければ、SECとして直ちに法執行活動(エンフォースメント)を始動することはしないという判断を会社に伝達するのである。

会社による掲載拒否を難しくしたバイデン前政権

これまでSECは、複数回にわたって規則14a-8に規定される株主提案の掲載拒否に係る要件の解釈を説明する法律意見書を公表してきた。今回公表された法律意見書は、前述の会社が委任状説明書への掲載を拒否できる類型のうち、⑤会社の総資産の5%未満、売上高または利益の5%未満に関連する経営意思決定に関するものなど重要性を欠く提案、⑦会社の日常的な業務運営に関する提案、の2つに関する従来の解釈を変更するものである。
 
この2点に関する従来の法律意見書は、バイデン前政権時代の2021年3月に公表されたものである(14L(CF))。そこでは、重要な社会問題に関係する提案については、⑦の「会社の日常的な業務運営に関する提案」に過ぎないものとして委任状説明書への掲載を拒否することはできないという見解が示されていた。例えば、幅広い社会的な影響を持つ人的資本のマネジメントに関わる問題に関する提案については、提案者が、そのような問題が当該会社の経営に重大な影響を及ぼすことを明示できない場合でも、会社が送付する委任状説明書に掲載しなければならないとしたのである。
 
また、重要な社会問題に関する提案に関連して、一定の経営政策について日程表を示すといった株主提案についても、取締役会の裁量に委ねられるべき細かな経営管理事項(micromanagement)に過ぎないという考え方をとらず、委任状説明書への掲載を求める姿勢を打ち出した。
 
⑤の「重要性を欠く経営意思決定に関する提案」への該当性についても、幅広い社会的または倫理的な問題に関する提案が行われた場合には、当該提案に関係する事業が、会社の総資産の5%未満、売上高または利益の5%未満にとどまるものであったとしても、委任状説明書への掲載を拒否できないとした。
 
この法律意見書14L(CF)は、一般に、いわゆるESGの観点からの株主提案を積極的に会社が送付する委任状説明書に掲載することを求め、会社側から見れば、掲載拒否のハードルを引き上げたものと受け止められた。

バイデン政権発足前の状態に回帰するSEC

これに対して今回公表された新しい法律意見書14M(CF)は、14L(CF)が示した解釈を全面的に否定し、14L(CF)公表以前の状態に回帰しようとするものである。
 
すなわち、⑤の「重要性を欠く経営意思決定に関する提案」への該当性については、抽象的なレベルでは重要性の高い幅広い社会的または倫理的な問題に関する提案であっても、あくまで個々の会社の事業に影響するものであるかどうかを個別に判断するとしている。もっとも、実質的なコーポレートガバナンスに関する問題は、ほぼすべての会社に重要な関係のある事項だと解されると述べる。
 
また、自らの株主提案の内容が「重要性を欠く経営意思決定に関する提案」ではないと主張する株主は、原則として当該提案が提案先である会社の事業に重大な影響を及ぼすことを示さなければならないものとされるが、そのためには、ただ単に会社の評判を落とすレピュテーション・リスクがあるとか経済的な損害が生じる恐れがあるといったことを示すだけでは足りず、より具体的に当該会社の事業に重大な影響を及ぼす可能性があることを示されなければならないものとする。

おわりに

日本では、株主総会における株主提案や会社側提案への反対といった行動を通じて自らの要求を実現しようとする株主アクティビズムと言えば、「物言う株主」として行動するアクティビスト・ファンドが直ちに想起されるだろう。米国でもそうしたファンドによるアクティビズム(ヘッジファンド・アクティビズム)が活発だが、同時に米国では、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)の年金基金など、労働組合系の機関投資家によるアクティビズムも盛んである。
 
労働組合系のファンドによる株主アクティビズムの活動に対しては、労働争議が生じている上場会社に対する議決権行使といった場面における利益相反の危険が指摘され、実証データの分析から企業価値の向上につながっていないといった批判もなされてきた。株主提案の取り扱いをめぐる民主党と共和党の党派的対立が激しく、バイデン前政権下のSECが株主提案の会社側委任状説明書への掲載拒否要件を厳しくする方向に動いていた背景には、労働組合系ファンドがアクティビストとして大きな存在感を示しているという米国特有の事情がある。
 
地球温暖化対策に関するパリ協定からの離脱を表明して石油や天然ガスなど化石燃料の生産を促すとともに、「政府が認める性別は男性と女性のみ」と述べて、近年の「多様性・公平性・包摂性(DEI)」を重視する流れに背を向けるトランプ大統領の下で、米国ではESG投資やそうした観点からの株主提案権の行使に対する逆風が強まっている。
 
今回の大量保有報告制度をめぐる解釈変更や株主提案の取扱いをめぐる法律意見書の改訂は、それ自体としては些細な技術的な内容に過ぎないとも言えるが、そうした時代の流れを象徴するものでもある。今後の規制の展開やそれが金融資本市場のあり方に及ぼす影響がどのようなものとなるのかが、大いに注目される。

(注1)Federal Register"Strengthening American Leadership in Digital Financial Technology", 23 Jan, 2025
(注2)SEC "Compliance and Disclosure Interpretations: Regulation 13D-G", 11 Feb, 2025
(注3)SEC "Shareholder Proposals: Staff Legal Bulletin No. 14M (CF)", 12 Feb, 2025
(注4)当コラム「米国SECの大量保有報告規則改正」(2023年10月18日)
(注5)詳しくは、大崎貞和「米国の委任状勧誘規制をめぐる最近の動向」神田秀樹責任編集『企業法制の将来展望 資本市場制度の改革への提言2023年度版』財経詳報社(2022)109頁参照。

プロフィール

  • 大崎 貞和のポートレート

    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。