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トランプ大統領が四半期開示の廃止を提案

2025年9 月15日、米国のドナルド・トランプ大統領は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿したメッセージで、上場会社など証券取引委員会(SEC)の登録を受ける株式等の発行者に求められている四半期報告書の開示義務を撤廃し、年2回の半期開示に改めるべきだと主張した。
 
トランプ氏は、そうした制度見直しは、費用の節約になるし、経営者を企業の正しい運営に集中させることになると主張する。同氏は、「中国では企業経営を50年から100年単位で考えているのに対し、我々は四半期ベースで経営しているというではないか?これは良くない」とも述べた。

一期目にも同じような主張

トランプ大統領は、1期目の大統領在任中にも四半期開示の廃止を提唱しており、この点に関する問題提起は、今回が初めてではない。2018年8月17日にも、四半期開示を廃止して半期開示に改めることを検討するようSECに対して指示したというメッセージをSNSに投稿していた(注1)。
 
これに対して当時のジェイ・クレイトンSEC委員長は、「大統領は米国企業の重要な課題を浮き彫りにした」と評価する姿勢を示す声明を発表したものの、SECとして公開企業の情報開示制度については開示の頻度という点を含め継続的に検討を行っているという一般論を述べるにとどまった。その後SECが四半期開示制度の見直しを真剣に検討した形跡は見当たらず、規則改正等の具体的な動きにつながることはなかったのである。
 

前回とは異なるSECの反応

しかしながら、今回は様相が大きく異なる。SECのポール・アトキンス委員長は、9月19日、報道機関のインタビューに答える形で、「大統領の提案を歓迎する。半期開示は決して我が国の市場にとって無縁のものではない。外国企業等の発行者は現在も行っているし、1970年にSECが10-Q(四半期報告書の様式)を導入するまでは、規則でそれが定められていた」と述べたのである(注2)。9月29日には、アトキンス氏が有力経済紙『フィナンシャル・タイムズ』に論評記事を寄せ、「企業を現在の四半期報告制度に縛り付けておくのではなく、半期報告という選択肢も与えるというトランプ大統領の提案を早急に検討する(fast-tracking)」と明言した(注3)。
 
この論評記事でアトキンス氏は、SECは合理的な投資家が投資判断にとって重要であると考える情報の開示だけを企業に対して求めるべきだという原則に立ち返る必要性を強調する。その上で、米国の取引所に上場する外国企業は半期開示を義務づけられているだけだが、四半期開示を行っている会社もあるとか、英国が2014年に四半期開示制度を廃止した後も、一部の大企業は四半期開示を行っているといった事実を指摘し、半期開示という選択肢を容認しても市場の透明性の低下にはつながらないとして、すべての企業に対して一律に四半期開示を求める必要はないと述べたのである。
 
なお、この論評記事でアトキンス氏は、EUが2023年に制定した企業サステナビリティ報告指令(CSRD)と2024年に制定された企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)に言及し、これらの指令は、投資リターンを極大化するという観点からは重要ではないが社会的に重要な意義のある情報を開示させる「ダブル・マテリアリティ」のアプローチを採用しているという見方を示した上で、情報開示制度は、そのような「政治的な流行や歪められた目的(political fad or distorted objectives)」によって左右されてはならないとも主張している。

見直しに法律改正は不要

米国の1934年証券取引所法は、SEC登録証券の発行者が定期的に提出すべき書面として、登録時に開示された重要な事項の内容をアップデイトする臨時報告と並んで、年次報告(annual reports)と四半期報告(quarterly reports)に言及している(13条(a)項(2))(注4)。
 
ただし、同法は、四半期報告については「委員会(SEC)の定めに従って」提出するものとしており、しかもSECはそうした定めを設けることができる(may)と規定している。つまり、法律はすべての発行者に対して一律に四半期報告を行うよう義務づけているわけではなく、SEC規則の建付け次第で、四半期報告の提出義務者を限定したり、提出義務を課さなかったりすることも可能だと解釈できるのである。この点は、そうしたSECによる裁量の余地を認めていないように読める年次報告に関する規定とは異なっている。
 
事実、アトキンスSEC委員長も指摘した通り、SEC登録証券の発行者であり、米国の証券取引所に発行証券を上場する外国企業に対しては、様式20-Fを用いて行う年次報告と経営成績を含む重要な事項の変化を記載する様式6-Kによる報告が課されているのみで、四半期報告の開示義務は課されていない。米国内企業についても、1955年から1970年までは半期報告書の開示のみが義務付けられていたが、1970年の規則改正で当時の半期報告書様式9-Kに代わる四半期報告書様式10-Qが設けられたという経緯がある。
 
したがって、法技術的に言えば、年次報告書様式10-Kを提出したすべてのSEC登録証券の発行者に対して、原則として様式10-Qによる四半期報告の提出を義務づけているSEC規則13a-13及び規則15d-13の現行規定を改正すれば、議会による法律改正といった手続きを経ることなく、四半期報告制度を廃止したり、適用範囲を縮減したりすることは、十分可能なのである。

LTSEによる規則改正の請願

こうした中で、9月30日には、長期的な視点に立ちながら企業の成長を支援することを取引所の目的として掲げる新興証券取引所ロングターム証券取引所(LTSE)が(注5)、長期的な企業価値創造を阻害する短期的な圧力を排除するといった狙いから四半期報告に代わって半期報告を採用するという選択肢を認めるよう、規則13a-13及び規則15d-13を改正することを求める請願書(petition)をSECに提出した(注6)。
 
このような規則改正を求める請願が行われることは決して珍しくなく、それが常に規則改正へ向けたSECによる検討につながるわけではない。しかし、今回は大統領の発言に加え、SECの委員長が、自ら規則改正の可能性に具体的に触れているだけに、LTSEによる請願が今後の検討に一定の影響を及ぼす可能性は大きいだろう。

今後の見通し

四半期開示制度の見直しが必要とされる理由として指摘されるのは、情報開示に伴う企業のコスト負担が重いことに加え、投資家の関心が短期的な業績動向に集中することで企業の経営姿勢の短期化につながることへの懸念である。LTSEによる規則改正請願においても、それらの点が指摘され、かつそれが新規株式公開(IPO)を躊躇させる要因となっているという主張が展開されている。
 
今回のトランプ大統領による発信は、前回の場合とは異なり、SECによる具体的な規則改正検討へと進む可能性が高い。もっとも、半世紀以上にわたって米国の資本市場に定着している四半期開示を取りやめることには、開示情報の利用者である投資家からの強い抵抗が予想される。既に法律上は四半期開示制度を廃止した欧州でも、国際的な投資対象となる有力企業を中心に四半期の業績開示が続けられていることなども踏まえれば、SECとしても四半期開示の全面廃止を提唱する可能性は高くない。前述のように、アトキンス委員長も、半期報告という選択肢を設ける、開示の頻度を市場に委ねるといった発言を行っている。
 
日本でも2006年の法改正で設けられた四半期報告書制度が、主として取引所の適時開示制度の一環としての四半期決算短信制度との重複を排するといった観点から見直されることになり、2023年の法改正で、法定情報開示としての四半期報告書制度は廃止された。現在、上場会社は、取引所規則に基づいて、四半期決算短信による業績情報開示を行っている。
 
一方、トランプ大統領が、企業が50年、100年の単位で経営を考えていると称賛した中国では、上場会社が法律によって求められる定期的な情報開示は、年次報告(年度終了後4か月以内)と半期報告(半期終了後2か月以内)の二つとされるが(証券法79条、上場会社情報開示弁法12条、13条)、取引所規則では第1四半期と第3四半期の業績情報開示が義務づけられており、四半期開示が実際上は行われている。
 
米国でも、SEC規則に基づく四半期開示が大きく見直されたとしても、取引所規則のレベルで従来と大きく変わらない情報開示が続けられるといった可能性もある。いずれによせ、今後作成されるであろうSECによる規則改正案の内容がどのようなものとなるのか、また上場企業や投資家がどのような反応を示すのか、大いに注目されよう。

(注1)当コラム「四半期開示制度をめぐるトランプ大統領のツイッター発言」(2018年8月28日)参照。
(注2)"Paul Atkins Backs Trump’s Call To End Quarterly Financial Reporting: Report", stockwits, Sep 19, 2025
(注3)"Let the market decide how often companies report", Financial Times, Sep 29, 2025
(注4)同法15条(d)項は、一定の要件を満たす非上場証券の発行者にも同様の報告義務を課している。
(注5)当コラム「米国における新しい株式取引所の開設」(2020年10月22日)参照
(注6)LTSE "Re: Petition for Rulemaking to Amend Quarterly Reporting Requirements Under
the Securities Exchange Act of 1934
", September 30, 2025

プロフィール

  • 大崎 貞和のポートレート

    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。