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話題を呼ぶDAT企業

最近、「暗号資産トレジャリー(DAT: Digital Asset Treasury)企業」が株式市場で話題になっている。DATとは、ビットコインなどの暗号資産を保有する財務戦略で、DATを事業の中核に据える企業がDAT企業である。様々な暗号資産がある中でビットコインの保有に特化する場合は、ビットコイン・トレジャリー企業と呼ばれることもある。
 
DAT企業の先駆けとされるのは、米国のストラテジー(2025年2月、マイクロストラテジーから社名変更)社である。同社は1989年に創立され、データ・マイニングやビジネス・インテリジェンス関連のソフトウェア開発事業を行っていた。1998年6月、ナスダック市場で株式新規公開(IPO)を実施して上場会社となり、2020年8月からビットコインへの投資を開始し、現在は、世界初の、かつ最大のビットコイン・トレジャリー企業と自認している。
 
日本でも東証スタンダード市場上場会社のメタプラネットが、2024年4月、ビットコイン・トレジャリー戦略の導入を発表し、約1年で株価が100倍に高騰、時価総額1兆円に達して注目された。現在、日本市場では、同社のほか、リミックスポイント、ANAPホールディングス、コンヴァノなど上場会社約10社が、DAT企業だとされる(注1)。

DAT企業の問題点

上場企業がビットコインなどの暗号資産を購入・保有すること自体に、何か深刻な問題が伴うわけではない。上場企業が本業とは別に、株式などの有価証券や不動産への投資に資金を振り向けることは、ごく一般的である。その投資の対象が、有価証券や不動産から暗号資産に変わったとしても、それだけで問題視されるべきではあるまい。
 
しかしDAT企業は、暗号資産の購入・保有を自社の主要事業として位置づけるわけで、従来型の上場企業による余資運用と同視することは適切でない。
 
しかも暗号資産は、最古参のビットコインですら誕生して20年にも満たない。市場では相場が乱高下し、数か月先の価格の動向すら見通しにくい。幅広い投資家が中長期的な投資対象とする上場企業が、大量に保有すべき資産とは思えないという見方もあるだろう。
 
DAT企業の株価形成が、保有する暗号資産の価格以上に不安定だという問題もある。ビットコイン戦略が注目を集めたことで、メタプラネットの株価は保有するビットコインの時価上昇を大きく上回るペースで上昇した。逆もまたしかりである。一時は1兆円に達した同社の時価総額は、直近(2月2日時点)では6千億円に減少している。
 
少なからぬ数のDAT企業が、いわば苦し紛れにビットコイン保有に走ったのではないかという懸念もある。メタプラネットが日本初のビットコイン・トレジャリー企業としての名乗りを上げて以降、計30社の上場会社がビットコインの購入・保有を発表したが、そのうち19社の有価証券報告書に経営危機に瀕していることを示唆する「継続企業の前提に関する注記」や「重要事象等」が記載されているという(注2)。ビットコイン戦略の発表後一時的に株価が高騰するが、その後下落する傾向があるとも指摘されている。

DATへの業態転換は許されるのか?

DAT企業をめぐっては、株価の乱高下に加えて、そもそも上場会社が突如DATの採用を発表して、いわば業態を転換することの妥当性を疑問視する向きもある。例えば、世界最大のDAT企業とされるストラテジーは、自社開発のビジネス・インテリジェンス・プラットフォームの更新をビットコインへの投資を開始した2020年以降、本格的には行っていないともされる。日本最大のDAT企業メタプラネットは、もともとホテルの運営やメディア事業を手がけていた。2025年11月に社名を Bitcoin Japan に変えた堀田丸正は、和装用品などで知られ1861年創業という老舗である。
 
もちろん、上場会社の事業内容が時代とともに変化すること自体は当然とも言える。祖業にとらわれ過ぎることなく、業態転換を大胆に進めることは、企業としての持続可能性という観点からは褒められこそすれ、否定されることではないという見方もあろう。更に言えば、ビットコイン・トレジャリーのような新しい事業を手掛けるためには、通常は定款変更が必要であり、その場合、株主総会の特別決議による株主の賛同なしには行えない。
 
さはさりながら、一般投資家が十分に認識しないまま、上場会社が、DAT企業への転換という大幅で、かつリスクが小さいとは言えない変化を生じさせてしまうことが許されるのかという問題提起にも一定の理があるだろう。
 
2025年11月、東京証券取引所(以下、東証)を傘下に有する日本取引所グループ(JPX)が、ビットコインなどの暗号資産を保有することを事業の中核とする「暗号資産トレジャリー(DAT: Digital Asset Treasury)企業」に対する規制を検討しているといった報道がなされた。これに対して東証は、DAT企業の規制強化について具体的に決まっている方針はないとしながらも、「DAT企業に限らず、リスクやガバナンスの観点から懸念のある場合については、株主・投資者保護の観点から対応しており、引き続き必要な検討を進めて」いくとコメントした(注3)。
 
東証の上場規則では、上場会社が非上場会社と合併することで、実質上は合併相手となる非上場会社が上場審査を経ずに上場するという途を塞ぐために、上場会社が実質的な存続会社とは認められず、かつ一定期間内に新規上場審査基準に準じた基準に適合しない場合には、「不適当な合併等」として上場廃止となることが定められている(有価証券上場規程601条1項5号)。しかし、非上場会社との関わりが生じない、上場会社単独での業態の変更に対しては、特段の規制は設けられていない。
 

「主要業務対象の変更」を上場廃止基準に加えたNYSE

この点をめぐっては、近年、米国で興味深い動きがあった。2024年7月、ニューヨーク証券取引所(NYSE)が上場基準等を定めた規則である「上場会社マニュアル」を改正し、上場会社が「主要な業務の対象(primary business focus)」を変更する場合を新たに上場廃止基準に加えることとしたのである(上場会社マニュアル802.01 D)。
 
すなわち、上場会社が「主要な事業の対象」を新規株式公開(IPO)の時点で手掛けていた事業とは著しく異なる(substantially different)事業やIPO時点では当該会社の事業運営に重要な影響を及ぼさない事業へと変更した場合には、当該変更を取引所に書面で通知しなければならない。取引所は、当該会社が変更後も上場を維持することが適切かどうかを主要事業対象の変更に関連して生じた経営陣、取締役会メンバー、議決権や株主の分布、財務構成等の変化も考慮しつつ審査する。取引所による審査の重点は、変更後の主要事業対象が、IPO時点で既に主要事業対象であった場合に上場を承認したかどうかという点に置かれる。取引所が、上場を維持することが適切でないと判断した場合、当該会社の株式の取引停止または上場廃止が直ちに行われる。
 
この規則変更を承認した証券取引委員会(SEC)の発表文は、主要事業対象の変更を理由とする上場廃止が、取引所の裁量の下で行われること、例外的(extraordinary)な場合にのみ行われることを強調している(注4)。
 
NYSEによる上場規則の改正は、明示的にDAT企業をターゲットとしたものではない。しかし、NYSEは、規則改正の理由の一つとして、主要事業対象の変更がきっかけとなって株価が急落し、投資家に大きなリスクを負わせることが懸念されると主張しており、その際に具体例として引き合いに出したのはDAT企業 Bit Brother 社(以下、BB社)のケースである。
 
BB社は、英領ヴァージン諸島に本社を置く中国系企業で、ナスダック証券取引所に株式を上場していた。もともと Urban Tea Inc. という紅茶や菓子の販売などを行う会社だったが、2021年6月、社名を変更して暗号資産事業に本格的に乗り出した。その後BB社の株価は乱高下し、1,000株を1株にするという大幅な併合を含む3回の株式併合にもかかわらず、終値が11取引日連続で10セントを下回るという状況に陥り、一定水準以上の株価を維持しなければならないという上場維持基準に抵触したことで、2024年2月に上場廃止となった。
 
なお、ナスダック証券取引所は、NYSEと並ぶ米国におけるIPOの主要な場だが、今までのところNYSEと同じような趣旨の上場規則改正は行っていない。また、上記の規則改正後、NYSEが主要事業対象の変更を理由として上場廃止を行った例もないようである。

おわりに

今後、東証が、DAT企業やそれに類する大幅な事業変更を行う上場会社に関して、規則改正を含むような対応を講じるのかどうかが注目される。仮に、東証がNYSEの規則改正のような制度見直しを行うとすればどのような効果を生むのであろうか。その観点から注目されるのは、DAT企業に関して、東証市場の上場審査を担う日本取引所自主規制法人の中島淳一理事長が、「仮想通貨を購入するだけというビジネスでは上場審査は通らない」と述べたとされることである(注1)。前述のように、NYSEの主要事業対象の変更に係る上場廃止基準では、審査にあたっては、新たな主要事業が、IPO時に主要事業であったとすれば上場が承認されたかどうかという観点が重視されるという。仮に中島氏の見解が正しいとすれば、NYSE流の上場廃止基準が東証に導入されていれば、DAT企業は上場廃止に至る可能性が小さくないということのようにも思われる。
 

(注1)「暗号資産保有の専門上場企業、世界で倍増 投資に妙味も株価が急変動」日本経済新聞電子版(2025年12月8日)参照。

(注2)大川哲拓「メタプラネットだけじゃない「ビットコイン財務戦略」を打ち出した全30社リストを大公開!“倒産危機”から暗号資産投資にすがる企業の実態」ダイヤモンド・オンライン(2026年1月19日)参照。

(注3)日本取引所グループ「本日の一部報道について」(2025年11月13日)。

(注4)SEC, "Self-Regulatory Organizations; New York Stock Exchange LLC; Notice of Filing of Amendment No. 2 and Order Granting Accelerated Approval of a Proposed Rule Change, as Modified by Amendment No. 2, to Amend Section 802.01D of the NYSE Listed Company Manual Concerning the Suspension and Delisting of a Listed Company that has Changed its Primary Business Focus", July 24, 2024

プロフィール

  • 大崎 貞和のポートレート

    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。