
株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。
企業活動では、限られた予算の使い道や配分状況をしっかりと把握・管理することが求められます。では、デジタル化推進のための予算配分については、十分に管理できているでしょうか。
(1)デジタル化予算の把握状況
本調査では、調査対象企業に、デジタル化に関わる予算をどのように確保し、把握しているかを尋ねています。(図1)
その結果、「デジタル化予算は全社単位で一括して確保し、管理している」「デジタル化予算は各部門で個別に確保しているが、全社で一括して把握している」と回答した企業は、合計で70.8%でした。一方、「デジタル化予算は各部門で個別に確保していて、全社単位では把握していない」と回答した企業は29.2%で、全社単位でデジタル化予算を把握していない企業が全体の3割に上りました。
図1:デジタル化予算の把握

(n=339)
(2)デジタル化予算の管理方法と投資成果の関係
これらの予算管理方法の違いは、投資の成果にどのような影響を与えているでしょうか。
本調査では、デジタル化に関わる投資から成果を得ているかどうかを、3つの領域に分けて調査しています。(図2)
- ①顧客に対する活動のデジタル化
―デジタル技術を使った顧客体験価値の向上、デジタルマーケティングなど - ②業務プロセスのデジタル化
―デジタル技術を使った業務の効率化や最適化、SCM改革、管理精度の向上など - ③デジタル化による事業やビジネスモデルの変革
―デジタル技術を使った新事業、新たなビジネスモデルの実現など
次の図は、各領域のデジタル化に関わる投資から成果を得ているかどうかを、デジタル化予算の把握状況別に示したものです。
図2:投資の成果

(①:n=171 ②:n=166 ③:n=131)
グラフには、①②③どの領域においても、デジタル化予算を全社一括で管理している企業ほど、デジタル化に対する投資の成果を得られているという傾向が表れています。
具体的には、①顧客に対する活動のデジタル化において、「デジタル化予算は全社単位で確保し、管理している」と回答した企業のうち、合計で67.9%の企業が「財務上の成果が得られている」または「他の定量的な成果を得られている」と回答しています。これに対し、デジタル化予算を全社単位では把握していないと回答した企業では、「成果を得られている」と回答した企業は合計で49.0%にとどまっており、全社単位で管理している企業の方が18.9ポイント高い結果となっています。
②業務プロセスのデジタル化の成果、③デジタル化による事業やビジネスモデルの変革の成果についても同様に、デジタル化予算を全社単位で管理している企業のほうが、デジタル化投資の成果を得られていると回答した割合が多い傾向がみられます。
これらは、顧客に対する活動、業務プロセス、事業変革のいずれの領域でも、デジタル化予算の管理方法と投資成果に関連があることを示しています。
(3)デジタル化予算の管理において目指すべき方向性
デジタル化予算を部門別で管理する場合、各部門が自らの業務に必要な範囲で予算を確保し投資を行うため、現行システムの改修や法制度対応など、目先の必須案件に予算配分が偏りがちです。その結果、全社的・長期的な視点を持った戦略的な投資が行われにくくなり、競争力強化や市場環境変化への対応が遅れてしまう場合があります。
そのような状況に陥らないためにも、デジタル化予算の管理は全社単位で行うことが重要です。個々の投資案件が企業全体の戦略にどのように貢献するかを俯瞰的に評価し、優先順位をつけて予算配分を行うことで、より効果的に投資の成果を得ることができるでしょう。
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プロフィール
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竹内 あかね
ITマネジメントコンサルティング部
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