
アーバンイノベーションコンサルティング部 小林 一幸、矢崎 圭、大石 純、村井 智也
事業共創コンサルティング部 酒嶋 亮太、三浦 俊一
2024年4月、トラックドライバーの労務管理厳格化がスタートしました。しかし、ドライバー不足改善の兆しは見えず、物流危機はこれからも続きそうです。物流危機は今、どのようなフェーズにあるのでしょうか。また、今後持続可能な物流を構築するために、企業はどうすれば良いのでしょうか。本テーマに詳しいアーバンイノベーションコンサルティング部の小林 一幸、矢崎 圭、大石 純、村井 智也、事業共創コンサルティング部の酒嶋 亮太、三浦 俊一に聞きました。
2030年度の輸送費は34%増、荷主企業の利益は半減も
トラックドライバー不足問題は今後どうなるのでしょうか。野村総合研究所(NRI)の推計では、2030年度の営業用トラックドライバー数は48万人と推計され、2015年度比で25%減となる見込みです。一方で、2030年度に営業用トラックが担う輸送量は14.0億トンと推計され、2015年度比で11%減となる見込みです。また、需給のバランスを見ると2030年度にドライバーは36%不足すると予測されており、ドライバー不足は依然として続きそうです。
こうしたトラックドライバー不足は、荷主企業の経営に大きなダメージを与えかねません。トラックドライバーが不足すると、ドライバーの賃金が上がります。上昇分のコストは輸送費に転嫁され、荷主企業の物流費を押し上げます。その結果、経営を圧迫する恐れがあるのです。
NRIの推計では、トラックドライバー賃金は2030年度には2022年度比で27%増の5,770千円、輸送費(運賃指数※)は34%増となる見込みです。これによって、2030年度の荷主企業の営業利益は2022年度から4分の1程度押し下げられる可能性があります。さらに倉庫作業等の物流費全体が輸送費の上昇と同等に上がる場合、営業利益が2分の1程度押し下げられる可能性も出てきています。
こうしたトラックドライバー不足は、荷主企業の経営に大きなダメージを与えかねません。トラックドライバーが不足すると、ドライバーの賃金が上がります。上昇分のコストは輸送費に転嫁され、荷主企業の物流費を押し上げます。その結果、経営を圧迫する恐れがあるのです。
NRIの推計では、トラックドライバー賃金は2030年度には2022年度比で27%増の5,770千円、輸送費(運賃指数※)は34%増となる見込みです。これによって、2030年度の荷主企業の営業利益は2022年度から4分の1程度押し下げられる可能性があります。さらに倉庫作業等の物流費全体が輸送費の上昇と同等に上がる場合、営業利益が2分の1程度押し下げられる可能性も出てきています。

- ※2022年度4月の運賃を100とした場合、現在の運賃がどの程度変化したのかを表す指標。
省人化や共同輸配送は課題が山積
物流オペレーション人材が不足する中、荷主企業が持続可能な物流を構築するためには様々な工夫が必要です。まず考えられる打ち手は、人手をかけずに運ぶこと(省人化・無人化)です。デジタル技術などによって倉庫内作業や輸配送を自動化したり、事務作業や労務管理を効率化したりといった取り組みが挙げられます。
コープさっぽろは、庫内作業の自動化に向けて2018年に9億円を投資し、海外の先端自動倉庫技術を導入しました。その結果、必要となる作業員を55人から35人に削減しました。また、道内で構築した完全自前の物流網と併せて、道内の他社の物流も受託することで、2020年以降毎年約80億円の営業利益を獲得する宅配事業を支えています。その後もコープさっぽろは数十億円規模での物流投資を継続しており、宅配事業の売上高は2018年度867億円から2024年度1,130億円と、CAGR(年平均成長率)5%で成長しています。物流を高効率な自動化ソリューションで支えた好事例と言えるでしょう。
ただし、物流オペレーションの省人化には多大な初期投資に加えて、業務の標準化や最適な機器の選定と活用が必要です。担当者によって業務の進め方が異なる、機器を選定と活用できる人材が不足しているという障壁を乗り越えなければいけません。
配送頻度の調整や倉庫の共同利用などによって、できるだけまとめて運ぶこと(共同化)も有効な工夫です。中でも共同輸配送の取り組みは、食品業界や日雑業界などの同業種内を中心に広がりを見せています。今後はより多くの荷主企業による業種・業界を超えた共同輸配送が課題になりそうです。
業種・業界を超えた共同輸配送では、自社や他社の物流状況が把握できずパートナー探しが難航する、時間や車格などのルール調整がうまくいかないといった悩みがつきものです。こうした壁を乗り越えるには、物流の可視化・共有化に加えて、各プレイヤーが既存の商習慣にとらわれない意思決定を行う必要があります。
デジタル技術を活用し、需要予測の高度化や消費者近傍での生産によって運ぶ量を減らす(サプライチェーンマネジメントの高度化)企業も増えています。ライオン、PALTAC、スギ薬局の3社は、連携して需要予測の高度化・販促強化を進めて在庫の適正化や返品の削減を図るとともに、これらを販促につなげるツールを導入し、販促ツールを導入した店舗では40%の売上拡大を達成しました。こうしたサプライチェーンマネジメントの高度化には、アナログデータのデジタル化やデータの一元化はもちろん、それらをもとに最適なアウトプットを生み出す分析力も必要になります。
コープさっぽろは、庫内作業の自動化に向けて2018年に9億円を投資し、海外の先端自動倉庫技術を導入しました。その結果、必要となる作業員を55人から35人に削減しました。また、道内で構築した完全自前の物流網と併せて、道内の他社の物流も受託することで、2020年以降毎年約80億円の営業利益を獲得する宅配事業を支えています。その後もコープさっぽろは数十億円規模での物流投資を継続しており、宅配事業の売上高は2018年度867億円から2024年度1,130億円と、CAGR(年平均成長率)5%で成長しています。物流を高効率な自動化ソリューションで支えた好事例と言えるでしょう。
ただし、物流オペレーションの省人化には多大な初期投資に加えて、業務の標準化や最適な機器の選定と活用が必要です。担当者によって業務の進め方が異なる、機器を選定と活用できる人材が不足しているという障壁を乗り越えなければいけません。
配送頻度の調整や倉庫の共同利用などによって、できるだけまとめて運ぶこと(共同化)も有効な工夫です。中でも共同輸配送の取り組みは、食品業界や日雑業界などの同業種内を中心に広がりを見せています。今後はより多くの荷主企業による業種・業界を超えた共同輸配送が課題になりそうです。
業種・業界を超えた共同輸配送では、自社や他社の物流状況が把握できずパートナー探しが難航する、時間や車格などのルール調整がうまくいかないといった悩みがつきものです。こうした壁を乗り越えるには、物流の可視化・共有化に加えて、各プレイヤーが既存の商習慣にとらわれない意思決定を行う必要があります。
デジタル技術を活用し、需要予測の高度化や消費者近傍での生産によって運ぶ量を減らす(サプライチェーンマネジメントの高度化)企業も増えています。ライオン、PALTAC、スギ薬局の3社は、連携して需要予測の高度化・販促強化を進めて在庫の適正化や返品の削減を図るとともに、これらを販促につなげるツールを導入し、販促ツールを導入した店舗では40%の売上拡大を達成しました。こうしたサプライチェーンマネジメントの高度化には、アナログデータのデジタル化やデータの一元化はもちろん、それらをもとに最適なアウトプットを生み出す分析力も必要になります。
「現状の可視化」と「経営イシュー化」で抜本的な物流改革を
人手をかけずに運ぶ(省人化・無人化)、まとめて運ぶ(共同化)、運ぶ量を減らす(サプライチェーンマネジメントの高度化)。3つの打ち手にはそれぞれ障壁がありますが、共通する課題は現状の可視化です。荷主企業はデジタル技術を活用して、自社の物流をデータとして可視化していくことが重要になるでしょう。
その糸口となる可能性があるのが、車載機器を用いた物流実態の可視化です。アメリカでは2018年にELD(電子運行記録装置)が義務化され、標準化されたトラック走行データの取得が可能になりました。これによって、各社の物流の可視化や企業横断でのデータ活用がしやすくなっています。近年では車載機器メーカーからデータを取得することで共同輸配送のマッチングを行うサービスも登場し、物流の可視化を後押ししています。
会社の枠を超えた調整が必要になる物流改革には、経営目線が不可欠です。そのため国は2024年5月に「物資の流通の効率化に関する法律」を施行し、年間の取扱貨物が9万トン以上の企業に対してCLO(Chief Logistics Officer:物流管理統括者)の設置を推奨し、物流改革を経営イシューとしてとらえるよう促しています。
キユーピーは2度も生じた欠品問題の解消を経営イシューと位置づけ、物流改革を徹底して推進してきました。具体的には、物流負担の軽減と店舗への安定供給のため、納品リードタイムの延長を目指してきました。同社のリーダーシップのもと、製造を担当するメーカーと配送を担当する卸、販売を担当する小売という三者が連携し、それぞれが少しずつ譲歩することで、リードタイム延長が実現したのです。
人手不足と輸送費の上昇は今後も続く見込みです。何も手を打たなければ、今と同じような物流体制を維持できなくなることも考えられます。2024年問題で注目が集まっている今こそ、抜本的な改革を行う絶好のチャンスです。全プレイヤーが主体的に取り組み、持続可能な物流を構築していかなければなりません。
その糸口となる可能性があるのが、車載機器を用いた物流実態の可視化です。アメリカでは2018年にELD(電子運行記録装置)が義務化され、標準化されたトラック走行データの取得が可能になりました。これによって、各社の物流の可視化や企業横断でのデータ活用がしやすくなっています。近年では車載機器メーカーからデータを取得することで共同輸配送のマッチングを行うサービスも登場し、物流の可視化を後押ししています。
会社の枠を超えた調整が必要になる物流改革には、経営目線が不可欠です。そのため国は2024年5月に「物資の流通の効率化に関する法律」を施行し、年間の取扱貨物が9万トン以上の企業に対してCLO(Chief Logistics Officer:物流管理統括者)の設置を推奨し、物流改革を経営イシューとしてとらえるよう促しています。
キユーピーは2度も生じた欠品問題の解消を経営イシューと位置づけ、物流改革を徹底して推進してきました。具体的には、物流負担の軽減と店舗への安定供給のため、納品リードタイムの延長を目指してきました。同社のリーダーシップのもと、製造を担当するメーカーと配送を担当する卸、販売を担当する小売という三者が連携し、それぞれが少しずつ譲歩することで、リードタイム延長が実現したのです。
人手不足と輸送費の上昇は今後も続く見込みです。何も手を打たなければ、今と同じような物流体制を維持できなくなることも考えられます。2024年問題で注目が集まっている今こそ、抜本的な改革を行う絶好のチャンスです。全プレイヤーが主体的に取り組み、持続可能な物流を構築していかなければなりません。
プロフィール
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小林 一幸のポートレート 小林 一幸
コンサルティング事業本部 アーバンイノベーションコンサルティング部
筑波大学大学院環境科学研究科修了後、2005年に野村総合研究所に入社。
行政などの公的組織の改革・民営化支援、インフラ企業の改革支援などを経て、現在は主に運輸・物流企業の事業戦略や経営改革、製造業等の企業の物流やサプライチェーンマネジメント改革支援などの案件に従事。物流の専門家として、人手不足やデジタル化対応した次世代の物流のあり方を検討する社内R&D活動もリードしている。 -
矢崎 圭
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大石 純
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村井 智也
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酒嶋 亮太
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三浦 俊一
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。