
ENEOS株式会社 IT戦略部長 田中 祐一(中央・手前)
ENEOS株式会社 IT戦略部 IT企画総括グループマネージャ 田辺 聡(後列右)
ITマネジメントコンサルティング部グループマネージャ 佐竹 真悟(後列中央)
ITマネジメントコンサルティング部エキスパートシステムコンサルタント 高木 大輔(後列左)
業界を問わず、経営戦略や事業戦略の実践には、IT/デジタル人材が欠かせなくなる一方で、質、量ともにそうした人材の確保が各社の大きな課題となっています。経済産業省は、2030年までに41~79万人のIT/デジタル人材が不足すると予測しています。ENEOSとNRIは社内でDX(デジタル・トランスフォーメーション)を担える人材を増やすために、ロールモデルの育成とその仕組みづくりに挑みました。本プロジェクトを推進した4人に、構想から成果、今後の展望まで、語ってもらいました。
2段構えの構想

DXプロジェクトとして、PoC(概念実証)を積み上げても、成功事例がなかなか見えてこない--そうした悩みを抱える企業が少なくありません。ENEOSではDXの成功率を高める施策の一環として、社員のデジタルリテラシー向上やDXプロジェクトを推進する人材の育成に着手しました。中でもIT部門には、従来の情報システムだけでなく、新技術やビジネスも理解するとともに、事業部門のDXプロジェクトを支援する際も、企画段階から議論に加わり、意見を言える人材が求められています。「人材像やスキルの定義から実案件を通じた育成までを一貫して相談したいと思い、コンサルティングとSIer(システムインテグレーター)両方の顔を持つNRIに協力を仰ぎました」と、ENEOSの田辺聡さんはコラボレーションの経緯を説明します。

最初に行ったのが、DXプロジェクト全般でヒト、モノ、カネ、データを管理するITマネジメント人材、事業部門とタッグを組んでプロジェクトを推進するデジタルアドバイザー、システム全体のアーキテクチャを描くITアーキテクトや基盤スペシャリストなど、ENEOSに必要な人材像とスキルを明らかにすることです。次に、IT人材の現状スキルを可視化し、人材像(職種)ごとにスキル面で先頭を切るロールモデルを数人つくることにしました。「初年度はこれを学べばこの人材像(職種)の人が育つという学習モデルを開発し、次年度からそのプログラムを適用して後続者を育てるという2段構えの構想で進めました」と、NRIの佐竹真悟は説明します。
実践を通じて即戦力を磨く

「IT分野の人材育成は多くの場合、研修や資格取得など座学が中心となりますが、今回はNRIのコーチに1on1(ワンオンワン)でべったり張り付いてもらい、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて実践の中で学び取ることにこだわりました」と、ENEOSの田中祐一さんは特徴を挙げます。約8カ月間のOJTにより、「実際にやり方を見ながら学べたのは非常に有効でした」。
「育成対象者の進捗状況、ビフォアーアフターを逐一チェックし、何を体験すれば必要なスキルが伸びるのか、週次で話し合いました。高頻度で密にやりとりするなかで、ときには悩み事を吐き出してもらうこともありました。こうしたオープンなコミュニケーションを踏まえ、必要があれば軌道修正を図りました」と、NRIの高木大輔は育成状況を振り返ります。実際のプロジェクトでは途中で内容が変わり、当初想定した人材育成計画と、プロジェクトで体得できるスキルに乖離が生じることもあります。その場合には、疑似的なケーススタディや勉強会などを交えて、必要なスキルを習得できるように調整しました。
同時並行で、NRI及びENEOSが協働して、育成状況を可視化して関係者へ報告するために必要な資料・チャートや、それらを運営するプロセスなど、人材育成メソッドを整備していきました。「事務局が担う機能や蓄積すべきナレッジを設計してもらえたことで、ENEOSが独力で実行できるようになったことに非常に感謝しています」と、田辺さんは言います。「人材像やスキルを細かく定義し、ロールモデルの背中を見ながらシステマティックに人材育成を加速させる仕組みは、社内でも先駆的だと評価されました。今はIT部門だけでなく他の領域でも同様の試みが始まっています」
単発で終わらせず、仕組み化して加速させる

本業が忙しい中で、人材育成はどうしても後回しになりがちです。「ENEOSさんは育成対象者を決めて、システム開発など実プロジェクトにアサインしましたが、これはなかなかできることではありません」。育成対象者の上長を説得するなど背後では見えない苦労があったはずだと、高木は推察します。「選抜メンバーを育てて終わる単発の取り組みではなく、次の世代を育てるために人材育成の仕組み化まで実装されているところも素晴らしいです」
「我々コンサルタントにとって最大の成果はお客様が自走できるようになることです。その意味では、ENEOSさんは今年度も活動を継続されていて、昨年度に我々が伴走支援したトレーニング修了メンバーが教育係を務められているので、成功事例と言えます」と、佐竹は捉えています。「今回はNRIの部門全体から必要な人材像にフィットするコーチ役を探し出し、我々の普段の仕事の進め方や考え方を直接示しながら、対象者と1on1で取り組む形を取りました。座学だけでは伝えきれないところもあるので、伴走型の育成手法の有効性が改めて確認できました」
「トレーニーがコーチとなって後進を育てて、コーチができる人を増やすことをENEOSの文化として定着させたい」と、田中さんは今後を展望します。「今回はIT部門の取り組みでしたが、会社全体で事業とデジタルに精通する人材をもっと増やしたいと考えています。デジタルは手段にすぎませんが、DXを通じて会社をよりよい状態にすることに寄与できればと思っています」
プロフィール
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佐竹 真悟のポートレート 佐竹 真悟
システムコンサルティング事業本部
ITマネジメントコンサルティング部2008年に野村総合研究所に入社。公共系の業務改革・プロジェクトマネジメント支援業務に従事。
2016年に日系製造業のAPAC地域統括法人へ出向し、APACのIT戦略策定、SAP導入プロジェクトマネジメントを経験。
現在は、幅広い業界を対象にITマネジメントコンサルティング業務に従事。
専門分野は、DX戦略立案・推進支援、グローバルITマネジメント改革。 -
高木 大輔のポートレート 高木 大輔
ITマネジメントコンサルティング部
2013年、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、野村総合研究所に入社。
同年、NRIセキュアテクノロジーズへ出向し、セキュリティコンサルティングに従事。
2019年に出向解除後、デジタル/IT戦略、組織変革、人材育成、DX推進等、デジタル変革/ITマネジメント領域のコンサルティングに従事。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。