
常務執行役員 山﨑 政明
気候変動問題に対して2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、産業革命前からの気温上昇を1.5℃までに抑えることを世界共通の長期目標とするパリ協定が採択された。日本でも、2020年に発せられた「2050年カーボンニュートラル宣言」以来、官民が連携して深刻化する気候変動問題へ対応しており、その達成に向け、多くの企業がエネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの利用など、さまざまな努力を重ねてきている。また近年は、温室効果ガス(以降、GHG)削減効果をクレジットとして売買できるカーボンクレジットの仕組みも整備されつつある。
企業の気候変動対策、現状と課題
NRI(野村総合研究所)グループも、国内初の円建てグリーンボンドの発行(2016年)やデータセンターでの再生可能エネルギー電力の導入(2021年)を推進するなど、気候変動問題に対して先進的な取り組みを行ってきた。カーボンニュートラルに関しては、2050年度までにバリューチェーン全体でGHG排出量をネットゼロにする目標を公表し、国際的な環境イニシアチブであるSBTiからGHG排出量「ネットゼロ目標」の認定を取得した※1。また、カーボンクレジットに関しても、2023年度より、山形県鶴岡市内で「森林由来のJ-クレジットの創出・流通促進プロジェクト」を実施している※2。
こうした取り組みが評価され、NRIは2024年7月、IGES(地球環境戦略研究機関)が主催する「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム」に招待された。筆者はNRIを代表して、「2050年ネット・ゼロの達成に向けた質の高い炭素市場の構築と実践」と題したパネルディスカッションに参加する機会を得た。
アゼルバイジャンや英国、タイの政府機関、VCMI(自主的炭素市場十全性イニシアチブ)、ICVCM(自主的炭素市場のための十全性委員会)といった国際イニシアチブの代表者が、カーボン市場の発展に向けた国際的な動向について発言する中、筆者は、日本企業のカーボンクレジットへの関心の高さを説明するとともに、企業による取り組みの実践や、国内外でのさらなる議論の重要性を指摘させていただいた。
このように国際機関、国家、産業界が積極的に取り組んできているにもかかわらず、気候変動問題は、残念ながら深刻さを増しているのが実情である。そのため、今、企業においては、自社が直接排出するGHG(スコープ1)や自社が間接的に排出するGHG(スコープ2)を抑制するだけでなく、サプライチェーン上において自社以外が排出するGHG(スコープ3)も抑制することが求められている。すなわち、部品・素材などの製造、輸送配送、販売した製品の使用などの際に排出されるGHGも削減する必要がある。
スコープ3までを対象にすれば、個社だけでは解決できない問題も顕在化してこよう。たとえば、GHG削減に資する素材や部品を製造するには従来以上にコストがかかり、輸送の際のGHG削減もコスト増の要因になる。消費者の気候変動問題に対する意識が高まっているとはいえ、コスト増加分をそのまま価格に転嫁することは難しいのではないか。この問題に関しては、政府による補助金や業界を挙げた啓蒙活動が必要になってくると考える。
また、企業が努力をしても削減できない部分については、先述したカーボンクレジットの利用も必要になってこよう。ただし、カーボンクレジットに関しては、クレジットの発行や取引の信頼性に疑問が生じる透明性の欠如、官民のさまざまな運用主体が併存することによる制度の分かりづらさといった問題が指摘されている。また企業側にも、環境問題に取り組んでいるように見せかけて、不当に広告効果を得たり投資や税制面での優遇措置を受けたりするグリーンウォッシュの問題などがある。
こうした取り組みが評価され、NRIは2024年7月、IGES(地球環境戦略研究機関)が主催する「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム」に招待された。筆者はNRIを代表して、「2050年ネット・ゼロの達成に向けた質の高い炭素市場の構築と実践」と題したパネルディスカッションに参加する機会を得た。
アゼルバイジャンや英国、タイの政府機関、VCMI(自主的炭素市場十全性イニシアチブ)、ICVCM(自主的炭素市場のための十全性委員会)といった国際イニシアチブの代表者が、カーボン市場の発展に向けた国際的な動向について発言する中、筆者は、日本企業のカーボンクレジットへの関心の高さを説明するとともに、企業による取り組みの実践や、国内外でのさらなる議論の重要性を指摘させていただいた。
このように国際機関、国家、産業界が積極的に取り組んできているにもかかわらず、気候変動問題は、残念ながら深刻さを増しているのが実情である。そのため、今、企業においては、自社が直接排出するGHG(スコープ1)や自社が間接的に排出するGHG(スコープ2)を抑制するだけでなく、サプライチェーン上において自社以外が排出するGHG(スコープ3)も抑制することが求められている。すなわち、部品・素材などの製造、輸送配送、販売した製品の使用などの際に排出されるGHGも削減する必要がある。
スコープ3までを対象にすれば、個社だけでは解決できない問題も顕在化してこよう。たとえば、GHG削減に資する素材や部品を製造するには従来以上にコストがかかり、輸送の際のGHG削減もコスト増の要因になる。消費者の気候変動問題に対する意識が高まっているとはいえ、コスト増加分をそのまま価格に転嫁することは難しいのではないか。この問題に関しては、政府による補助金や業界を挙げた啓蒙活動が必要になってくると考える。
また、企業が努力をしても削減できない部分については、先述したカーボンクレジットの利用も必要になってこよう。ただし、カーボンクレジットに関しては、クレジットの発行や取引の信頼性に疑問が生じる透明性の欠如、官民のさまざまな運用主体が併存することによる制度の分かりづらさといった問題が指摘されている。また企業側にも、環境問題に取り組んでいるように見せかけて、不当に広告効果を得たり投資や税制面での優遇措置を受けたりするグリーンウォッシュの問題などがある。
自助・共助・公助で実現する、カーボン市場の未来
有識者の中には、気候変動問題により地球は限界を迎えつつあると警鐘を鳴らす人もいる。この状況において、われわれ民間企業としては、まずはスコープ3までを視野に入れ、GHG排出削減に向けた自助努力を愚直に続けることが重要である。カーボンクレジットについては、今後、より効果的な活用が進んでいくと思われるが、それでも排出削減努力が第一であり、それを後回しにした活用はあってはならない。質の高いカーボン市場の構築に向けても、サプライチェーン上でのGHG排出量開示が必要である。その際には、プロセスによってGHG削減の方法やコストに違いがあるため、官民が連携して標準化やルール化とともに、その削減努力を的確に評価できる仕組みづくりを進めることが望ましい。民間企業をはじめ関係機関によるこうした自助・共助・公助の取り組みの積み重ねが、中長期的な観点で気候変動問題の解消につながるのではないか。
プロフィール
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山﨑 政明のポートレート 山﨑 政明
常務執行役員
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。