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社会システムコンサルティング部 坂田 彩衣、佐藤 花、一丸 紗月


平均寿命の延伸、初婚年齢や離婚率の上昇、女性の社会進出および経済的自立、性や家族のあり方の多様化などから、「結婚は希望しておらず、選択的に未婚である状態」を指す「選択的シングル」という属性が注目されています。野村総合研究所(NRI)では、シングル・既婚者含め、現在の婚姻状態に限らず、シングルという期間をいかにウェルビーイングを保って生きる準備ができているかについて、「『選択的シングル』時代の価値観に関する調査」と題してインターネットアンケート調査を行いました。本記事は、その調査結果に加えて、「選択的シングル」を対象に行ったグループインタビューで得られた生声、シングルやシングル期間を対象とした商品・サービス、制度・政策の事例などの分析をまとめたものです。本テーマに詳しい社会システムコンサルティング部の坂田 彩衣、佐藤 花、一丸 紗月に聞きました。

「選択的シングル」の定義とその特徴

結婚は希望しておらず、選択的に未婚である状態を指す「選択的シングル」は、シングル全体の63%を占めます。20~30代を除いて男性よりも女性の方が「自身は『選択的シングル』である」と回答する割合が高くなりました。また、男女ともに年代が上がるにつれて「選択的シングル」の割合が増加するのは想定範囲内でしたが、20~30代という、いわゆる結婚適齢期とされる年代の男性のうち約半数が「選択的シングル」であることは意外な結果でした。


自分自身が「選択的シングル」かどうかという考え方は、就労状況や年収と関係しています。「選択的シングル」は正社員が28%、無職が36%であるのに対して、「非選択的シングル」は正社員52%、無職19%と、「非選択的シングル」の方が有職である率が高くなりました。また、年収別にみると「選択的シングル」が占める割合は、年収400万円以上より400万円未満の層が多いことがわかりました。
 
「選択的シングル」か「非選択的シングル」かは、幸福度に影響するのでしょうか。シングルを対象に、現在の幸福度を0点(とても不幸/不満)から10点(とても幸せ/満足)で評価してもらった結果、「選択的シングル」の平均スコアは5.3点、「非選択的シングル」は5.6点(未婚者全体の平均は5.4点)で大きな差はありませんでした。一方で「選択的シングル」のうち、個人年収400万円以上の層(年収が中央値以上)の平均スコアは6.2点であり、シングルの中で最も高い幸福度を示しました。
前述の結果より、「選択的シングル」は、時間的・金銭的に余裕があって生活に満足している層と、時間的・金銭的な問題から消極的にシングルを選択している層に分類されると考えます。このうち前者の幸福度は、特に年収が中央値より高い場合、高いスコアを示すことが考えられます。

シングル期間を自分らしく幸せに生きるための具体的な準備

誰しもが経験するシングル期間を自分らしく幸せに生きるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。現在シングルの人に今後の生き方に関する考えとその準備有無について尋ねたところ、「選択的シングル」の中で「このままシングルで居続ける予定のため、準備をしている」と回答した人は30%のみでした。
さらに、現在シングルの人や既婚者を含む全体に対して、シングル期間が長くなる時代の準備として大切なことを尋ねたところ、資産形成が重要だと全体の67.6%が回答し、その他には、趣味を持つ、老後のプランを練る、頼れる人を持っておく、住居を整えておくといった声が高い割合で挙げられました。男女差では、女性の方が男性よりもシングル期間の準備の必要性を強く感じており、平均寿命などの関係が背景にあると考えられます。
 
既婚者に今後の生き方を聞いた結果でも、すべての性・年代の約9割が既婚でいたいと回答したものの、いずれの年代も女性は男性より「シングルになることも想定して準備している」と回答する割合が約10ポイント高く、女性の準備に対する意識の高さが表れる結果となりました。
また、既婚者の3割が離婚を考えたことがあると回答していることから、既婚であってもシングルに戻る潜在的可能性はどの性・年代にも存在することがわかります。

シングルが不満を感じる商品・サービスは「住宅」が首位

「選択的シングル」時代において、商品・サービス、制度・政策に対するニーズはどのように変化するのでしょうか。調査によれば、既婚者は「旅行」「住宅」など家族で活用することが想定される項目に費用をかけるケースが多く、一方でシングルは「趣味」「身だしなみ」など自己投資に重点を置いていることがわかりました。
シングルが利用してみたいサービスとして需要が高いのは、1人向けツアー旅行や飲食、特に女性の間で緊急時サービス、身元保証サービス、死後の事後代行サービスなどがあります。年代を問わずシングル向けのコミュニティやシェアハウス、1人参加型のイベントや施設のニーズも高まっています。
 
現在シングルが不満を感じている商品・サービスの分野としては「住宅」が首位となりました。
「住宅」分野における具体的な不満としては「価格が高い」に次いで「シングルに向けたプラン・商品のバリエーションが乏しい」という意見が多く見受けられます。特に年収400万円以上の層では、約半数がこの問題を指摘しており、住宅プランの多様化が期待されます。
 
生活面や職場においては、夫婦・子育て世帯と比較して、自身への恩恵がないことに不満を感じる、という声が複数ありました。具体的には、税制面で控除や給付の対象外になっていると感じる、シングルに対して職場での負担が大きい、入院時の保証人や面会など家族であることを条件とした制度が多く不便を感じるといった意見が挙げられました。
こうしたシングルの生きづらさや不公平感を解消するための政策・制度は、既に一部の国・地域で導入されています。職場の制度に注目すると、韓国では、一部の企業で「非婚手当」を導入し、結婚祝い金と同じ水準の手当を非婚者にも提供することで、独身者が疎外感を抱かないよう配慮しているそうです。国内でも、出産育児祝い金とともに、育休中の社員の業務をフォローする社員への「応援手当」を導入するような企業が増加しています。
 
「選択的シングル」時代においては、現在の婚姻状態に関わらず、誰もがシングル期間を自分らしく幸せに生きるための準備を整えることが重要です。産業・政策双方の面からそれを支援する社会づくりが求められています。

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