
システムコンサルティング事業本部 村川 友章、飯田 幹大
脱炭素や資源循環への意識が高まる中、アルミニウムのリサイクルに注目が集まっています。特に自動車分野では、軽量化と環境性能の両立を目指し、高品質なアルミニウム再生材の適用が模索されています。一方で、技術面・市場環境面の課題も多く、普及には多角的な取り組みが欠かせません。本テーマに詳しいシステムコンサルティング事業本部の村川友章、飯田幹大に聞きました。
アルミニウム需要の高まりとリサイクルの意義
アルミニウムは、軽量でありながら強度が高く、耐食性や加工性にも優れた金属であることから、さまざまな分野で広く利用されています。電気や熱をよく通す性質もあるため、輸送機器や建築資材、電気・電子機器など、多様な用途に対応できる素材として注目されています。
近年、自動車業界ではEV(電気自動車)化の加速や、厳格化する環境規制への対応が求められており、車体の軽量化が大きなテーマとなっています。こうした背景から、車体へのアルミニウムの採用が進み、その需要は今後さらに拡大していくと見込まれています。
しかし、自動車のボディなどに使われる展伸材の多くは、新地金(バージン材)から製造されており、新地金の製造には大量の電力を必要とします。一見すると環境負荷の低減に寄与するように思われるアルミニウムですが、ライフサイクル全体で見たときには、製造段階でのCO2排出が多くなるという課題があります。
さらに、日本では電力コストの問題から新地金の製錬施設がなく、全量を海外からの輸入に依存しています。そのため、価格変動や供給の不安定性に加えて、地政学的リスクなど経済安全保障の観点からも中長期的な課題が存在します。
新地金に依存することによる環境負荷や供給リスクといった課題を受けて、アルミニウム再生材の活用が重要な解決策として注目されています。
近年、自動車業界ではEV(電気自動車)化の加速や、厳格化する環境規制への対応が求められており、車体の軽量化が大きなテーマとなっています。こうした背景から、車体へのアルミニウムの採用が進み、その需要は今後さらに拡大していくと見込まれています。
しかし、自動車のボディなどに使われる展伸材の多くは、新地金(バージン材)から製造されており、新地金の製造には大量の電力を必要とします。一見すると環境負荷の低減に寄与するように思われるアルミニウムですが、ライフサイクル全体で見たときには、製造段階でのCO2排出が多くなるという課題があります。
さらに、日本では電力コストの問題から新地金の製錬施設がなく、全量を海外からの輸入に依存しています。そのため、価格変動や供給の不安定性に加えて、地政学的リスクなど経済安全保障の観点からも中長期的な課題が存在します。
新地金に依存することによる環境負荷や供給リスクといった課題を受けて、アルミニウム再生材の活用が重要な解決策として注目されています。
アルミニウム再生材の利用拡大に向けた技術的課題
アルミニウム再生材は、使用済みのアルミ製品から不純物を取り除き、溶かして再び素材として鋳造・加工することで製造されます。アルミニウム協会によると、その製造に必要なエネルギーは、新地金と比べてわずか3%程度とされており、CO2排出量を大幅に削減できる点が高く評価されています。このため、自動車のライフサイクル全体での環境負荷の低減に貢献する可能性が高く、持続可能な社会の実現に向けた有望な素材として位置づけられています。
一方で、再生材の品質確保には依然として大きな課題があります。リサイクルの過程では、他の金属や異物が混入しやすく、それによって材料特性が劣化してしまうことがあらげられます。特に展伸材のように高い純度が求められる分野では、再生材をそのまま再利用する「水平リサイクル」の実現は、技術的にも依然として難易度が高いのが実情です。
しかし近年、こうした技術的な壁を乗り越えるための新たなアプローチが登場しつつあり、アルミニウムリサイクルの高純度な再生材の確保に向けた開発が進展しています。
一方で、再生材の品質確保には依然として大きな課題があります。リサイクルの過程では、他の金属や異物が混入しやすく、それによって材料特性が劣化してしまうことがあらげられます。特に展伸材のように高い純度が求められる分野では、再生材をそのまま再利用する「水平リサイクル」の実現は、技術的にも依然として難易度が高いのが実情です。
しかし近年、こうした技術的な壁を乗り越えるための新たなアプローチが登場しつつあり、アルミニウムリサイクルの高純度な再生材の確保に向けた開発が進展しています。
技術革新によるブレイクスルー事例
以下に、アルミニウム再生材の品質課題を克服するための代表的な技術開発事例を2件紹介します。
一つ目は不純物元素低減技術として、株式会社UACJ、東京工業大学、NEDOの3者が共同で開発した「縦型高速双ロール鋳造機」です(※1)。この鋳造機は、アルミニウム溶湯を従来の数十倍という高い速度で冷却・凝固させることにより、不純物によって生じる晶出物を微細化・分散化します。これにより、リサイクル材に含まれる不純物の影響を最小限に抑え、展伸材として求められる品質基準を満たす材料を得ることを可能にします。この技術は世界初の試みであり、2030年以降の量産化、さらには2050年に業界全体で年間1800万トン規模のCO2削減を目指す構想も掲げられています。
もう一つは、高度選別技術である「LIBS選別機」です。これは、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)という元素分析技術をリサイクル分野に応用したもので、破砕された金属スクラップにレーザーを照射してその組成をリアルタイムで分析し、アルミニウム合金を種類ごとに高精度で選別することを可能にします。経済産業省の実証事業(LIBS PROJECT)の中で株式会社HARITAが世界初となる商業ベースでの開発に2016年に成功しました。さらに現在は、ドイツのシュタイナート社をはじめとするメーカーらも実機の販売に乗り出しています(※2)。
自動車には多様な種類のアルミ合金が使用されており、従来はそれらを正確に分別するのが困難でしたが、このような技術発展により、展伸材向けの高純度な再生材の確保が技術的に可能になってきています。
一つ目は不純物元素低減技術として、株式会社UACJ、東京工業大学、NEDOの3者が共同で開発した「縦型高速双ロール鋳造機」です(※1)。この鋳造機は、アルミニウム溶湯を従来の数十倍という高い速度で冷却・凝固させることにより、不純物によって生じる晶出物を微細化・分散化します。これにより、リサイクル材に含まれる不純物の影響を最小限に抑え、展伸材として求められる品質基準を満たす材料を得ることを可能にします。この技術は世界初の試みであり、2030年以降の量産化、さらには2050年に業界全体で年間1800万トン規模のCO2削減を目指す構想も掲げられています。
もう一つは、高度選別技術である「LIBS選別機」です。これは、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)という元素分析技術をリサイクル分野に応用したもので、破砕された金属スクラップにレーザーを照射してその組成をリアルタイムで分析し、アルミニウム合金を種類ごとに高精度で選別することを可能にします。経済産業省の実証事業(LIBS PROJECT)の中で株式会社HARITAが世界初となる商業ベースでの開発に2016年に成功しました。さらに現在は、ドイツのシュタイナート社をはじめとするメーカーらも実機の販売に乗り出しています(※2)。
自動車には多様な種類のアルミ合金が使用されており、従来はそれらを正確に分別するのが困難でしたが、このような技術発展により、展伸材向けの高純度な再生材の確保が技術的に可能になってきています。
市場形成と制度設計に関する社会的課題
アルミニウム再生材の活用を社会全体に広げていくには、技術的な進展だけでなく、経済的なインセンティブにつながる仕組みの整備や、最低使用率の設定など、市場形成に向けた制度的な取り組みも重要な要素です。
市場原理の中で環境負荷の低い再生材の利用が広がっていくことが望ましい形ではあるものの、現時点では、先進的なリサイクル技術を用いて製造された再生材は、どうしても製造コストが高くなる傾向があります。これは、技術導入や設備投資に関わるコストに加え、高品質なスクラップを安定的に確保するために、解体・破砕工程での手間や負担が増すためです。その結果として、価格面で優位にある新地金(バージン材)が依然として選ばれやすく、再生材の普及を妨げています。こうした状況を打開するためには、再生材の使用における経済的な利点や市場での競争性を高める要素が必要になってきます。たとえば、一定の再生材使用率を義務づける規制や、再生材を選ぶ企業に対する税制優遇などのインセンティブ措置が考えられます。
欧州ではすでに、持続可能な製品の設計を促進するためエコデザイン規則や自動車のプラスチック部品に対して再生材の最低使用率を定めたELV規制の導入に向けた検討が進んでおり、こうした枠組みが今後アルミニウム分野にも適用されていく可能性があります。国内においても、経済産業省が打ち出した「GX2040」構想の中で、カーボンプライシングの本格導入が明言されており、将来的には炭素税の導入や再生材活用に対する経済的支援が拡充される見込みです。
さらに、再生材の信頼性を高めるためには、その環境性能や品質基準を客観的に示す認証制度の整備が不可欠です。こうした制度の確立は、企業が安心して再生材を導入するうえでの前提条件となるでしょう。
市場原理の中で環境負荷の低い再生材の利用が広がっていくことが望ましい形ではあるものの、現時点では、先進的なリサイクル技術を用いて製造された再生材は、どうしても製造コストが高くなる傾向があります。これは、技術導入や設備投資に関わるコストに加え、高品質なスクラップを安定的に確保するために、解体・破砕工程での手間や負担が増すためです。その結果として、価格面で優位にある新地金(バージン材)が依然として選ばれやすく、再生材の普及を妨げています。こうした状況を打開するためには、再生材の使用における経済的な利点や市場での競争性を高める要素が必要になってきます。たとえば、一定の再生材使用率を義務づける規制や、再生材を選ぶ企業に対する税制優遇などのインセンティブ措置が考えられます。
欧州ではすでに、持続可能な製品の設計を促進するためエコデザイン規則や自動車のプラスチック部品に対して再生材の最低使用率を定めたELV規制の導入に向けた検討が進んでおり、こうした枠組みが今後アルミニウム分野にも適用されていく可能性があります。国内においても、経済産業省が打ち出した「GX2040」構想の中で、カーボンプライシングの本格導入が明言されており、将来的には炭素税の導入や再生材活用に対する経済的支援が拡充される見込みです。
さらに、再生材の信頼性を高めるためには、その環境性能や品質基準を客観的に示す認証制度の整備が不可欠です。こうした制度の確立は、企業が安心して再生材を導入するうえでの前提条件となるでしょう。
サプライチェーン連携とデータ基盤の必要性
高品質なアルミニウム再生材を安定的に供給していくためには、サプライチェーン全体での情報共有と連携も重要な前提となります。現在、自動車の解体・破砕事業者は自動車メーカーから十分な部品構成や素材情報を取得できておらず、その結果として、効率的かつ高精度な分別・回収が難しい状況が続いています。また、再生材メーカーが求めるスクラップの品質や純度に関する基準も、現場に十分に伝わっていないことが課題となっています。実際に、ある解体・破砕事業者からは、動脈側との密接な連携が課題との声も上がっています。
こうした情報の断絶を解消するには、製造(動脈側)とリサイクル(静脈側)をつなぐ、横断的なデータ基盤の構築が求められます。欧州ではすでに、製品に用いられている素材の種類や使用履歴、リサイクル性といった情報を製品ライフサイクル全体で一元管理する「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入や、自動車産業全体でサプライチェーンに関するデータを共有するエコシステムを実現する「Catena-X」の取り組みが進められており、動静脈間の情報連携とトレーサビリティを強化する取り組みとして注目されています。
日本においても、同様の考え方に基づく「ウラノス・エコシステム」の構想が検討されており、サプライチェーン全体における情報連携の仕組みが段階的に整備されつつあります。こうした仕組みは、自動車をはじめとしたリサイクルの高度化と、再生材活用の信頼性向上を同時に実現するための基盤として、大いに期待されています。
こうした情報の断絶を解消するには、製造(動脈側)とリサイクル(静脈側)をつなぐ、横断的なデータ基盤の構築が求められます。欧州ではすでに、製品に用いられている素材の種類や使用履歴、リサイクル性といった情報を製品ライフサイクル全体で一元管理する「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入や、自動車産業全体でサプライチェーンに関するデータを共有するエコシステムを実現する「Catena-X」の取り組みが進められており、動静脈間の情報連携とトレーサビリティを強化する取り組みとして注目されています。
日本においても、同様の考え方に基づく「ウラノス・エコシステム」の構想が検討されており、サプライチェーン全体における情報連携の仕組みが段階的に整備されつつあります。こうした仕組みは、自動車をはじめとしたリサイクルの高度化と、再生材活用の信頼性向上を同時に実現するための基盤として、大いに期待されています。
今後の展望と資源循環の戦略的課題
今後、アルミニウム再生材の利用拡大を持続可能な形で進めていくためには、国内資源の循環体制を戦略的に強化していくことが不可欠です。現在、日本では年間100万台以上の中古車が海外に輸出されており、それに伴って、EVバッテリーなどに使用されている希少金属やアルミニウムを含む有用資源が国外に流出しています。こうした動きは、国内におけるアルミニウム再生材の安定供給体制の構築を阻害する要因となり得ます。
さらに、近年注目を集めている「ギガキャスト」技術の普及も、今後のアルミスクラップ需要を大幅に押し上げる可能性があります。ギガキャストとは、これまで数十~数百点の部品で構成されていた車体構造部を、一体成型された大型アルミ部品に置き換える鋳造技術です。この手法は、部品点数の削減や軽量化に寄与する一方で、大量のアルミニウムが使用されるため、リサイクル段階も含めた資源確保がこれまで以上に重要になります。
このような背景を踏まえると、今後は産業界、学術界、行政が一体となり、アルミニウムスクラップの安定的な回収体制の整備、リサイクル工程におけるトレーサビリティの向上、そして国内資源の循環を支えるインフラの強化といった分野において、より一層の連携と取り組みが求められます。アルミニウム再生材の持続的活用を実現するには、こうした包括的な体制整備が不可欠といえるでしょう。
さらに、近年注目を集めている「ギガキャスト」技術の普及も、今後のアルミスクラップ需要を大幅に押し上げる可能性があります。ギガキャストとは、これまで数十~数百点の部品で構成されていた車体構造部を、一体成型された大型アルミ部品に置き換える鋳造技術です。この手法は、部品点数の削減や軽量化に寄与する一方で、大量のアルミニウムが使用されるため、リサイクル段階も含めた資源確保がこれまで以上に重要になります。
このような背景を踏まえると、今後は産業界、学術界、行政が一体となり、アルミニウムスクラップの安定的な回収体制の整備、リサイクル工程におけるトレーサビリティの向上、そして国内資源の循環を支えるインフラの強化といった分野において、より一層の連携と取り組みが求められます。アルミニウム再生材の持続的活用を実現するには、こうした包括的な体制整備が不可欠といえるでしょう。
※1 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構,ニュースリリース:サーキュラーエコノミー実現に向けた新技術「縦型高速双ロール鋳造機」を開発しました,2024/9/11, https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101776.html
※2 株式会社HARITA, リサイクル先進技術取り組み事例:LIBS PROJECT(経済産業省実証事業, https://www.harita.co.jp/technology/advanced-recycling/libs/
プロフィール
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村川 友章のポートレート 村川 友章
社会ITコンサルティング部
2007年に大手外資系ベンダに入社し、8年間システムエンジニアとして大規模システム設計・開発、プロジェクトマネジメント等の経験を経て、2014年に株式会社野村総合研究所に入社。 官公庁、自治体、社会インフラ関連企業において、重要情報システムのシステム化構想、要件定義、調達、PMO支援等のシステムコンサルティング業務の経験を有する。 システムの上流から下流までの一連の経験を活かしたシステムコンサルティングが強み。近年では、交通インフラ、資源リサイクル等の社会インフラ分野におけるDX推進のプロジェクトに数多く携わっている。
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飯田 幹大のポートレート 飯田 幹大
ITマネジメントコンサルティング部
2022年に野村総合研究所入社。公益団体や電力会社等におけるプロジェクトマネジメント支援業務、ITマネジメント支援業務、DX推進支援業務に従事。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。