&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部 冨田 勝己、田邊 陽紀
金融コンサルティング部 田中 大輔


キャッシュレス決済やポイント利用は、消費者の多様な生活シーンに急速に浸透しています。野村総合研究所(NRI)は、各種キャッシュレス決済やポイント・マイルの認知および利用実態を明らかにするため、2024年9月~11月の期間にかけて全国8,000人を対象に訪問留置法によるアンケート調査を実施しました。その調査結果をもとに、生活者の購買や決済における選択基準・行動変容の背景を分析しました。また、利便性・還元率を意識した使い分けの傾向についても考察しています。本テーマに詳しいヘルスケア・サービス産業コンサルティング部の冨田 勝己、田邊 陽紀、金融コンサルティング部の田中 大輔に聞きました。

キャッシュレス決済の選択基準は「スムーズな決済」と「ポイントのお得さ・使いやすさ」

キャッシュレス決済にはさまざまな種類がありますが、それらの利用度は、クレジットカードでは接触型で66%、非接触型で47%の利用率となっています。全体におけるQRコード決済・バーコード決済の利用率は45%で、また4人に1人は日常的に利用していました。中でもPayPayは顕著に高く、約半数が利用しています。電子マネーは、カード型・モバイル型問わず、全体の半数弱に利用されています。
 
消費者は、なぜこれほどさまざまな決済サービスを使い分けるのでしょうか。直近1年間以内に申し込んだ各種決済サービスについてその理由を尋ねたところ、無料や特典、ポイントといった経済的利得に加えて、スマートフォンアプリの利便性を重視する消費者が多数を占める結果になりました。決済のスムーズさや、付与されるポイントの利便性・還元率によって、利用する決済サービスを選択する傾向は以前からもありましたが、今後はアプリの利便性にも注目していく必要があります。
 
一方で、決済サービスに申し込まない人も依然として存在します。その理由として、90%超の人が「現金や他の決済手段で満足しているから」と回答しました。また、キャッシュレスではなく現金で支払った理由では、迅速性と管理のしやすさが主な要因でした。キャッシュレス決済が着実に普及する中、消費者は「スムーズな決済」と「ポイントのお得さ・使いやすさ」に価値を感じており、シーンごとに決済手段を使い分けています。今後は速さ、お得さ、多様な利用シーンに合わせた利便性の3つを兼ね備えた決済体験が求められるでしょう。

ポイントの利用は店舗や商品選びにも影響

付与されるポイントの利便性・還元率は、決済サービスを選ぶ決め手のひとつです。そこで、ポイント・マイルの利用実態についても調査を行いました。
 
店舗利用時にポイントをためる・使う頻度について調べたところ、ドラッグストアや家電量販店、飲食店など日常的に利用されやすい店舗では、毎回ポイントをためる・使う人の割合が多くなりました。なお、過半数の人がポイントを積極的に利用し、店舗や商品・サービス選びにも影響を受けています。
また楽天ポイントやPayPayポイントといった各主要共通ポイントについては、日本の生活者の約半数が会員になっています。中でも興味深いのは、ポイントの会員規模(マインドアクティブユーザー比率)が大きいほど、その会員に占める肯定的な利用意向者の比率(マインドロイヤルユーザー比率)も高くなる傾向にあったことです。ただし、個別に見てみるとマインドロイヤルユーザー比率にはある程度のばらつきがあり、先の共通ポイントでも約20%~約50%弱と差がありました。


ポイントをためてお得に生活する「ポイ活」が以前から注目されていますが、現在では約半数の人がなんらかのポイ活を行っています。中でも多くの人がほぼ毎日行っているポイ活としては、「散歩・移動」(9%)や「くじ引き・ルーレット・ミニゲーム」(7%)、「広告閲覧」(5%)があげられます。
 
ポイントの使い方では、多くの人が店頭やオンラインサービスでの支払いに使っています。一方、ポイント投資や金融商品への交換に使っている人は、6%という結果になりました。ポイントを使うことを意識するタイミングについては、40%前後の人が「一定以上のポイントがたまった(獲得した)」「失効期限が近づいた」タイミングをあげています。残高や有効期限に関する事業者からの案内で意識する人も、14%いました。
 
ポイントプログラムやマイレージプログラムへの入会理由では、ポイントの利便性および使用範囲の広さ、還元率や還元額の高さ、そして取扱店舗の数と種類の多さが上位を占めています。一方で、ポイントの休眠・退会の主な理由は、利用機会の少なさや利便性の低さ、その結果とも言える失効でした。また今回の調査では、カードが廃止されてアプリのみ利用可能になることは、大きな退会理由にならないことが示されました。ポイントカード利用者の過半数は、アプリへ移行してサービス利用を継続する意向がありました。

企業に求められる「決済×ポイント」戦略

日本の生活者の85%はキャッシュレス利用者であり、そのうち62%はポイントの積極的な獲得と利用を行っています。主要な共通ポイントの加盟店では、そのポイント会員の44%~61%が同じポイントがたまる決済手段を選択しました。ポイントの会員規模が大きいほど、決済手段として積極的に利用する人の割合も高くなる傾向があります。
キャッシュレス決済とポイントの利用は相互に関係しており、ポイント付与が充実した決済は、利用率が上昇する傾向が見られます。企業にとっては決済手段とポイントプログラムを組み合わせた戦略を構築することが、顧客のロイヤルティや購買行動に大きな影響を及ぼすことが予測されます。

プロフィール

  • 冨田 勝己のポートレート

    冨田 勝己

    ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部

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    田邊 陽紀

    ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部

  • 田中 大輔のポートレート

    田中 大輔

    金融コンサルティング部

    京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、2002年にNRIに入社。現在はヘルスケア・サービスコンサルティング部。
    NRIでは、ICT、インターネットビジネスを経て、キャッシュレスやFinTech、ブロックチェーンおよびWeb3領域における事業戦略や参入戦略、顧客戦略などのコンサルティングに従事。
    2019年2月から2023年2月まで、経済産業省 産業構造審議会商務流通情報分科会 割賦販売小委員会 委員。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。