
『WIRED』誌創刊エグゼクティヴ・エディター ケヴィン・ケリー氏
NRI未来創発センター 未来社会・経済研究室長 森 健
2025年12月にNRIは『WIRED』創刊エグゼクティヴ・エディターのケヴィン・ケリー氏を招き、「AI(人工知能)の性格 ここまで見えてきた姿」と題した特別講演を開催しました。Part2では講演後に行われたケリー氏とモデレーターを務めた野村総合研究所(NRI)未来創発センターの森健による特別対談の模様をお届けします。AIとの「適切な距離」とは?その「信頼」はどう築くのか?核心に迫る二人の対話が、私たちの思考をさらに深めます。
AIとの「適切な距離」とは?――アライメントの罠と可能性
AIをめぐる不確実性に関して、NRIの森健は「人間とAIの距離感、つまりアライメント(AIを人間の価値観に沿わせること)をどう考えるべきか」という論点を提示しました。「開発者はAIを人間に近づけて、コントロールしようと試みます。しかし、あえて人間にアラインしないAIがあったほうが、世の中は豊かで面白くなるかもしれません」
ケリー氏はアライメントの留意点を2つ挙げました。「1つ目は、AIに人間の価値に寄り添ってもらうこと。人間のように考える必要はないが、人間の価値観に沿って振る舞ってもらいたい。そうした価値をコードとしてAIの中に埋め込むのは、それほど難しくはありません」
2つ目は「何をもって『人間の価値』とするか」だと、ケリー氏は指摘します。「私たち人間の価値観は一貫していないし、時として深くもない。その1例が有名なトロッコ問題※です。運転手が優先するのは1人の安全か、複数の人たちの命か。AIに教えるためにはその答えを決めねばなりませんが、人間社会にはその合意形成が存在しない。私たちは、自分たちでさえ答えを出せない倫理観をAIに求めているのです」
AIの信頼性をどう担保すべきか?
ケリー氏はこの問いを「素晴らしい謎であり、まだ良い答えがないフロンティアだ」と表現します。「問題はいろいろあります。誰がそのAIを所有しているのか。その信頼はどこに置くべきなのか。インターネットのように誰もオーナーがいないシステムの中か、個人か。そして究極的には、政府、企業、さらに、NPO(非営利団体)のように分散化されたコモンズなど、私たちは誰を信頼するべきか」
こうした問題に対して、拙速に答えを出すのではなく、考え続ける姿勢が重要だと、ケリー氏は説きます。「難しいけれど、そこには素晴らしいチャンスもあり、企業やベンチャーなど皆さんがこれから検討し、イノベーションによって答えを見つけ出していくでしょう」
未来を信じて少しずつ前進する――プロトピアンの源泉
ケリー氏は2つのきっかけがあると語りました。「一つは、若き日にアジア中を旅した経験です。台湾、インド、パキスタン、アフガニスタンといった国や地域が、50年で貧しさから豊かさへと成長する姿を目の当たりにし、人は不可能なことを可能にできると心の底から信じるようになりました。もう1つは、デジタル世界の変遷を見てきたこと。インターネットが登場して人がお互いにつながることで、『善の力』を解き放つのを実感しました」
そして、ケリー氏は聴衆に向けてこう語りかけました。「インターネットの黎明期、『オンラインで食品や車を買う人などいない』と専門家は言いました。今、多くの人がAIについて同じように語っています。しかし、私はそうは思いません。自分の考え方を少し押し広げ、想像力を持ってベストケースのシナリオを描き、それに向かって一歩一歩近づいていく。不可能なことはないと信じる力が大切です」
「ケリーさんはまさに知識を行動に変えることを実践していらっしゃいますね。今日ここから、未来を悲観するのではなく、想像力を武器に最善の未来へ向かう準備を進めていきたいと思いました」と述べて、森は対話を締め括りました。
プロフィール
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森 健のポートレート 森 健
未来創発センター 未来社会・経済研究室長
1995年、慶應義塾大学経済学部卒業後NRIに入社。研究員、コンサルタントを経て、2012年から2019年には野村マネジメントスクールにて経営幹部教育のプログラム・ディレクターを務める。2019年より、NRIのシンクタンク部門である未来創発センターにて研究員。2005年、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)にて修士課程(経済学)、2024年に一橋ビジネススクールにて博士課程(経営学)を修了。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。