&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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社会システムコンサルティング部 坂田 彩衣、小松 隆、白賀 可奈


高齢者就労は、これまで労働力不足の緩和や社会保障制度の持続といった「社会的要請」の文脈で語られることが多くありました。しかし、実際に働く高齢者一人ひとりの立場に目を向けると、就労の意味は必ずしも社会的役割だけで語り尽くせるものではありません。テクノロジーの進展は、働き続けたい高齢者に新たな就労機会を創出し、働き方そのものを再設計する可能性を秘めています。
NRIが実施したプレシニア就業者※1へのアンケート調査と先進事例の分析からは、テクノロジーが高齢者の能力を引き出し、新しい働き方を形づくる可能性が見えてきました。その調査結果をもとに、テクノロジーが拓く高齢者就労の新たな可能性を展望します。

社会的要請から個人のウェルビーイングへ ― 高齢者就労の再定義

少子高齢化が進展する日本において、高齢者就労は重要な政策課題です。これまでは、労働力人口の減少を補い、年金財政や医療費の抑制に寄与するという観点から、その必要性が語られてきました。高齢者が働くことは、社会の持続性を支える要素の一つであることは間違いありません。
 
しかしながら、この議論が社会的要請に偏りすぎると、「社会のために働き続けなければならない」という印象を与えかねません。高齢者本人にとって、働くことは生活維持手段であると同時に、生きがいや社会との接点の確保、孤立の防止、自己の強みの発揮といった面も持っています。すなわち、個人のウェルビーイングに直結する活動でもあります。
 
重要なのは、社会の持続性と個人のウェルビーイングの両立です。高齢者就労を社会的機能の補完としてのみ捉えるのではなく、本人の意思や希望を前提に再定義することが、今後の議論の出発点になります。

アンケートが示す現実 ― 関心は高いが、不安も大きい

全国の45~64歳の就業者約2,200人を対象に実施したアンケートでは、約4割が「65歳以降も働き続けたい」と回答しました。
 
65歳以降の働き方としては、男女ともに「体力の負担が少ない働き方を見つけて仕事を続けたい」「今の仕事をできるだけ長く続けたい」といった、持続可能な就労を志向する傾向が見られました。特に女性では、体力的な負担を抑えながら働き続けたいという意向がより強く表れています。
 
一方で、65歳以降も働き続ける場合の不安も明らかになりました。最も多かったのは、満足できる報酬が得られなくなることへの懸念ですが、それに加えて、健康状態の悪化により所定の日数や時間で働くことが困難になること、通勤が難しくなること、能力やスキルの低下によって望む仕事ができなくなることなどが挙げられました。特に女性では、不安要素が男性よりも幅広く認識されています。
 
職種別に見ると、販売・サービス職や技能的職業では体力や健康面に対する不安が大きく、事務的職業では生成AIなどデジタル技術の進展により、仕事の機会が減少することへの懸念が相対的に高い傾向が見られました。ただし全体としては、技術による代替よりも、健康面や働き方の持続可能性に関する不安のほうが強い結果となっています。
 
こうした不安があるにもかかわらず、テクノロジーを活用して想定より5年長く働けると仮定した場合、全体の5割超がそのことに関心を示しました。さらに、例えばアバターロボットによる遠隔接客や、アシストスーツを活用した作業支援といった具体的な事例を提示した上で「社会全体として普及すべきか」と尋ねたところ、いずれの事例でも6~7割が肯定的に評価しています。
 
この結果からは、働き方や将来に対する不安を抱えながらも、テクノロジーを活用した新しい働き方に対する受容可能性は決して低くないことがうかがえます。その一方で、具体像の共有と導入に向けた環境整備が、実現に向けた課題になるとの意見が寄せられました。

テクノロジーは仕事を「置き換える」のではなく「創出」する

テクノロジーの進展は、ともすれば人の仕事を「置き換える」ものとして語られがちです。しかし高齢者就労の文脈では、テクノロジーは仕事を奪うものというよりも、新たな就労機会を創出する可能性を持っています。本調査では、その具体的な姿を五つの観点から整理しました。
 
第1の観点は、次世代への技術継承です。VRを活用して熟練職人の作業手順や手元の動きを可視化し、デジタルデータとして保存・共有する取り組みが進んでいます。これにより、長期間に亘って磨いてきたベテランの知見や技能を時間や場所の制約を超えて継承者に伝えることが可能になります。
 
第2の観点は、ヒューマンスキルの社会的活用です。アバターロボットを通じて遠隔から接客や案内を行う事例では、身体的負担を抑えながら、長年培ったコミュニケーション能力や気配りを社会に還元できます。
 
第3の観点は身体的負担の軽減、第4の観点は安全性の確保です。例として、ドローンを活用した空き家管理や、アシストスーツによる作業支援が挙げられます。高所作業や重労働から解放されることで、高齢者がより安全に働き続ける環境を整えるものです。
 
第5の観点は、新たな挑戦を通じた充足感の獲得です。新しい技術に触れ、これまでとは異なる形で能力を発揮する経験そのものが、知的好奇心を刺激し、社会との接点を維持する契機となります。
 
これらの五つの観点から、テクノロジーは高齢者の能力を置き換えるのではなく、制約を取り払い、その可能性を広げることで、新たな就労機会を創出するパートナーとして機能していることが見て取れます。実際に、製造業や観光、地域管理、介護などの現場で活用が始まっており、規模は限定的ながらも具体的な成果が蓄積されつつあります。

普及の鍵は技術と雇用現場をつなぐ仕組み

こうした取り組みは各地で始まっているものの、社会全体に十分に広がっているとはいえません。テクノロジーを開発する企業側が高齢者就労への応用可能性に十分気づいていない場合もあれば、高齢者雇用に取り組む企業側が適切な技術を把握していないケースもあります。両者の間に、情報や理解のギャップが存在している状況です。
 
今後は、具体的な事例の共有や実証機会の創出を通じて、技術側と雇用側をつなぐ仕組みが求められます。そうした動きを加速するためには、政策がその橋渡し役として、マッチングの場を整備し、効果検証を支援する役割を担うことが期待されます。
 
高齢者就労をめぐる議論は、「どこまで働いてもらうか/どこまで働きたいか」という問いから、「どのように働いてもらうか/どのように働きたいか」という問いへと転換する局面にあります。テクノロジーは、その選択肢を広げる基盤や契機となり得ます。社会の持続性と個人のウェルビーイングを両立させるための環境整備として、官民が連携した実証事業の早期取り組みが求められます。
※1 本調査では、45~64歳の就労者を「プレシニア就労者」と表現する

プロフィール

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    坂田 彩衣

    コンサルティング事業本部 社会システムコンサルティング部
    未来創発センター 雇用・生活研究室

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    小松 隆

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    白賀 可奈

    社会システムコンサルティング部

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