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野村総合研究所と
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アーバンイノベーションコンサルティング部 大西 直彌、南條 慶次、横田 悠斗
社会システムコンサルティング二部 出口 満 


国内の住宅市場は、大きな転換点を迎えています。人口減少に伴う住宅需要の縮小に加え、住宅価格の上昇やライフスタイル・価値観の変化などを背景に、新設住宅着工戸数は想定以上のペースで減少しています。一方で、2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、新築住宅の省エネ性能向上だけでなく、既存住宅を含めた住宅ストック※1全体の性能向上が欠かせません。
野村総合研究所(NRI)は、2040年までの住宅市場を予測するとともに、2050年に国が掲げる「住宅ストック平均でのZEH※2水準の省エネ性能確保」の実現に向け、必要となる住宅ストックの姿を試算しました。その結果から見えてきたのは、新築住宅を供給する時代から、既存住宅を活かしながら住宅ストック全体の価値を高める時代への転換です。

住宅市場は構造転換局面へ

NRIが昨年度公表した予測では、2025年度の新設住宅着工戸数を85.3万戸としていました。しかし実績は71.1万戸となり、予測を14万戸以上も下回る結果となりました。
 
その背景には、2025年4月の省エネ基準適合義務化を控えた想定以上の駆け込み需要と、その反動減があります。制度改正前の2025年3月には着工が大きく増加した一方、4月以降は反動による急減が発生し、市場全体を押し下げました。
 
もっとも、住宅市場の低迷は制度改正だけでは説明できません。より大きな要因となっているのが、住宅価格と所得の乖離です。建築費や地価の上昇に加え、住宅ローン金利も上昇局面に入り、住宅取得の負担はここ数年で大きく増しています。今回の予測と実績の乖離について分析した結果でも、その約半分は住宅価格と所得の乖離による影響と推計されました。
 
住宅需要そのものにも構造的な変化が生じています。結婚や出産といった住宅取得のきっかけとなるライフイベントは減少傾向が続き、「持家に住みたい」「新築を購入したい」と考える人の割合も長期的に低下しています。住み替えのしやすさを重視し、賃貸住宅や中古住宅を選択する人が増えるなど、住まいに対する価値観も変わり始めています。
 
供給側でも、人手不足や労働時間規制による施工能力の低下、部材の調達難や建築費高騰による開発見送りなどが重なり、新規着工を押し下げています。これら需給双方の要因が複合的に作用しているため、現在の住宅市場の冷え込みは一過性ではなく構造的な問題であり、その解消には一定の時間を要すると考えています。
 
この変化は2040年の住宅市場だけでなく、2050年に向けた住宅政策や脱炭素への取り組みにも大きな影響を及ぼします。

新築からストック活用へ

では、この構造転換は2040年に向けてどのように進むのでしょうか。NRIが人口・世帯動向や住宅ストックの状況、経済成長率などをもとに行った予測では、新築住宅需要の縮小は避けられないものの、直近の冷え込み要因が中長期的に解消されることで、新設住宅着工戸数は2030年度に約80万戸となる見通しです。その後は漸減し、2040年度には61万戸まで減少すると見込んでいます。 


利用関係別では、持家・分譲住宅・貸家のいずれも減少します。なかでも持家の減少幅が大きく、住宅価格の上昇を背景に、注文住宅から分譲住宅へ需要が移る流れも続くと考えられます。
 
一方、リフォーム市場は既存住宅の老朽化を背景に緩やかな成長を続け、2040年度には約9.2兆円規模になる見通しです。新築住宅の供給が減る中、既存住宅を維持・更新しながら長く使う重要性は一段と高まります。
 
今回の予測が示しているのは、住宅需要がなくなるのではなく、その向かう先が変わるということです。住宅市場は、新築住宅を供給するフロー中心から、既存住宅というストックを活用する市場へと重心を移しつつあります。
 
この変化は住宅産業のビジネスモデルだけでなく、脱炭素へのアプローチも変えます。国は2050年までに「住宅ストック平均でZEH水準の省エネ性能を確保する」という目標を掲げています。しかし、新築住宅の割合が相対的に小さくなる中では、新築だけの省エネ化で目標を達成することはできません。
 
重要になるのは、既存住宅を含めた住宅ストック全体の性能向上です。そのためには、新築住宅の供給だけでなく、既存住宅の省エネ改修や老朽化住宅の計画的な除却を一体的に進めていくことが欠かせません。

「1.6戸建て3戸直し2戸壊す」が示す住宅ストック時代

私たちは2050年の目標から逆算する「バックキャスティング」※3の手法を用い、住宅ストックのあるべき姿を試算しました。
 
その結果、2026年度から2050年度までの25年間で、高い省エネ性能を備えた新築住宅約1,566万戸に加え、既存住宅約3,000万戸の省エネ改修と、省エネ性能の低い住宅約2,025万戸の除却が必要になることが分かりました。(ただし、この試算結果は、2050年の住宅ストックのあるべき姿としての一つのシナリオであり、新築住宅の省エネ性能向上の取組で牽引するのか(新設住宅着工戸数が減少する時代が確実になるのであれば、一つ一つの新築住宅の省エネ性能を高めて付加価値を上げる等)、既存住宅の省エネ改修の取組で牽引するのかについては複数のシナリオが存在します。)
 
これを分かりやすく表したのが、「1.6戸建て3戸直し2戸壊す」というメッセージです。


高性能な新築住宅を供給するだけでは、2050年の目標は達成できません。既存住宅の改修と老朽化住宅の除却を進め、住宅ストック全体の質を高めていくことが不可欠です。
 
もちろん、新築住宅の省エネ性能向上は引き続き重要です。しかし、新設住宅着工戸数が減少していく中では、それだけで住宅ストック全体の性能を引き上げることはできません。「建てる」に加え、「直す」「減らす」という視点を住宅市場全体へ広げることが求められます。
 
もっとも、この取り組みは容易ではありません。試算では、省エネ改修は年間平均約120万件が必要になりますが、これは現在の主要な補助事業による支援件数を上回ります。そのため、政府による補助金だけでなく、民間企業による住宅診断や住宅価値の適切な評価、金融機関による融資、地域単位でのエリアマネジメントなど、市場が自律的に機能する仕組みづくりも重要になります。
 
また、老朽化住宅については、災害リスクも踏まえた計画的な除却に加え、解体資材を資源として有効活用する仕組みづくりも求められます。
 
今回の試算から見えてきたのは、新設住宅着工戸数が減少する時代には、新築住宅の性能向上だけでは住宅ストック全体の脱炭素化は実現できないということです。これからは、新築・改修・除却を一体で進めながら、住宅ストック全体の価値を高めていく視点が欠かせません。
 
2040年に向けて住宅市場の重心は、新築住宅を供給するフロー市場から、既存住宅を活かすストック市場へと移りつつあります。住宅市場は、「どれだけ建てるか」を競う時代から、「どれだけ良質な住宅ストックを次世代へ引き継ぐか」を問う時代へ――。今回の住宅市場予測は、その転換がすでに始まっていることを示しています。
 
※1 住宅ストックとは、過去に建設されて現在も存在している住宅の総量を指す。
※2 ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称であり、"躯体強化"・"省エネ"・"創エネ"により「年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅」を指す。
※3 バックキャスティングとは、理想的な未来を実現するために必要なステップや行動を逆算する手法のこと。
※4 各種公表資料に基づくNRI推計(概算)。
※5 2050年度の居住ストック5,168万戸での省エネ目標量を確保できることを条件として、2026年度以降の新築のうち省エネ性能の配分、改修数と省エネ性能の配分、除却数を推計した。

プロフィール

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    出口 満

    社会システムコンサルティング二部

    大学時代に熱中したグリーン建築を社会に根付かせるべく、2012年にNRI入社。
    入社後は建築・都市の脱炭素・グリーントランスフォーメーション(GX)制度設計・社会実装のほか、行政のデジタル変革・データプラットフォーム構築に領域を拡げる。主に中央省庁や自治体のお客様に対して、政策立案から実行支援までの一気通貫の伴走、官民連携の橋渡し等の価値を提供してきた。
    また、NRIのキャリアにおいて、台湾拠点への駐在や経営コンサルティング部門の採用担当を経験しており、グローバルな視点でのリサーチ力や組織・人材開発の知見も蓄積してきた。

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