フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRIグループ2021年カレンダー 地方創生をけん引するために、拠点となる都市の形成を

地方創生をけん引するために、拠点となる都市の形成を

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2021/11/01

日本では、大都市圏と地方圏との間で人口や経済活動の格差があり、大都市圏、特に東京圏への人口集中が解消されません。人が集中することによるリスクが広く認識されたコロナ禍の2020年でも、東京圏に地方圏から転入してくる人が、地方圏に転出する人に比べて10万人ほど多く、東京圏への集中がやんでいるとは言えません。
人口の東京一極集中を是正し、地方圏の活力を高めていくためには、教育や医療といった都市機能が充実し、所得の高い職種を生み出す力をもった都市(拠点)を育成していく必要があります。日本と同じ人口減少・高齢化に苛まれるドイツでは、地方部にも活力のある都市が息づいています。人口規模が大きくなくても、生産性の高い(給与の高い)産業・職種が多くあり、世界とつながるグローバルな中堅企業が多数息づく都市があるのです。日本でも、地方圏においてドイツと同じような自立して稼ぐ力のある都市(以下、ローカルハブと称します)を複数形成していくことが必要になると思います。

新たなビジネスが生まれてきた地方都市の雄、鶴岡市

山形県鶴岡市は、日本における「ローカルハブ」の有力候補だと筆者は考えています。鶴岡市の人口は約12.3万人(2021年9月末現在)で、山形県第二の規模です。また、2005年に6市町村が合併し、東北一広い面積を誇ります。
このような鶴岡市には産業・経済面でいくつもの特徴があります。一つ目は生産性の高さです。市内産業の売上高に占める付加価値額(人件費、投資の引き当てなど)の割合をみると、農林漁業、医療・福祉、製造の3業種で全国平均を上回る値を示しており、同じ産業であっても所得の高い職種が相対的に多いことがわかります。二つ目は、研究開発に関わる雇用が多くあるということです。就業者数に占める研究者の割合をみると、東北地方の人口10万人以上の都市で、鶴岡市は仙台市、盛岡市に次いで三番目の高いレベルにあります。2001年に設立された慶應義塾大学先端生命科学研究所が中心となって、国立がん研究センター、理化学研究所、山形大学農学部、鶴岡工業高等専門学校などが研究開発コミュニティを形成しており、ゲノム、メタボローム(遺伝子)などの研究を行っているのです。三つ目は、これらの研究活動の中で、さまざまなベンチャー企業が生まれているということです。人工のクモ糸繊維の量産を世界初で成功させたSpiber株式会社は鶴岡発の代表的なバイオベンチャー企業の一つと言えます。自然的にも空間的にも豊かな鶴岡市では、次世代の研究開発やビジネスを展開する多くのリーダーが活躍しています。

対市民と対産業の両面で進められている鶴岡市のデジタル化の取り組み

鶴岡市は、2020年度に国が指定するSDGs未来都市に認定されました。それを受けるかたちで、市民の利便性を確保し、産業や雇用を生み出すべく、デジタル化の戦略づくりが進められています。例えば、鶴岡市の行政・企業・小売店舗・大学学術機関などで生み出されたさまざまなデータを、地域住民・企業で活用できるような仕組みを整えています。スマホアプリを通じて、多目的運動施設の予約が可能となり、マイナンバーカードで行政手続きを効率的に処理できることを目指しています。また、高齢者の見守り、市民に対する健康・医療情報の提供や、水害時の避難指示情報等の通知などのサービスも、このアプリを通じて利用できるようになります。デジタル技術を介して市民が行政の施策に参画する仕組み、エネルギーや下水道などの社会インフラの状態を見える化し適切に管理するための仕組みなども戦略に盛り込まれる予定です。

デジタル化によって、遠く離れた場所にいる人々のコミュニケーションが円滑にできる時代になっています。だからこそ、人々が集い、語らい、新しいビジネスを生み出せるリアルな空間が重要になります。鶴岡市は、デジタル技術の力を借りて、経済と生活の豊かさを生み出しうる「ローカルハブ」として成長していくことが期待されます。

執筆者


神尾 文彦

神尾 文彦

研究理事
未来創発センター副センター長
コンサルティング事業本部副本部長


  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn