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日本を持続可能な国にするために求められる現役世代の「窮屈からの脱却」

未来創発センター 未来価値研究室 武田 佳奈

2019/10/23

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少子高齢化が進み、経済・社会環境も大きく変化するなかで、これまで社会の様々な仕組みの前提となってきたライフコース(個人が一生の間に辿る道筋)にも大きな変化が見られます。野村総合研究所(NRI)が実施した各種調査結果からも、数十年間の間に起こったライフコースの変化とそれにより現役世代が陥っている「窮屈な状態」が見えてきました。現役世代を取り囲む「窮屈な状態」の実態と解決策について、調査・分析に携わった未来創発センターの武田佳奈に聞きました。

現役世代のライフイベント発生状況は、35年前と比べて大きく変化

NRIは、2019年5月に全国の約3,700人を対象として「夫婦のライフイベントに関する調査」を実施しました。その調査結果をもとに、35年前と現在の現役世代(夫婦と子ども2人からなる世帯)について、様々なライフイベント発生時の夫の年齢を比較分析しました。その結果、35年前と比較して、結婚で2.9歳、第一子誕生で3.3歳、第二子の教育期間の終了時期で4.6歳ほど平均年齢が上昇していることがわかりました。

定年退職を60歳とすると、35年前は53.4歳で第二子が大学を卒業し、定年3年前には住宅ローンを完済するというのが平均的な世帯モデルでした。しかし現在の現役世代の平均では、第二子の大学卒業は58歳、そして定年とほぼ同時に住宅ローンの返済が終わるという結果になりました。
結婚から子どもの教育が終わるまでの期間を「家族形成・教育期間」、子どもの教育を終えてから定年後までの期間を「引退後に向けた準備期間」とすると、結婚年齢、出産の後ろ倒しに伴い、家族形成・教育期間全体が後ろ倒しになり、かつ長期化しています。引退後に向けた準備期間も、35年前の平均6.6年から現在は2.0年と5年近く短くなっています。この準備期間は引退後に向けた資産形成に改めて注力できる時間と捉えられますので、かつてと比べて時間が短くなった分、引退後に向けた資産形成が十分にできなくなっていると考えられます。
さらに、定年退職後の平均余命は現在23.5年で、約30年前と比べて約4年長くなっています。35年前の現役世代が「引退後に向けた準備期間」と「引退後の期間」のバランスが取れていたと仮定するなら、現在の現役世代は「引退後の期間」の長期化により、準備期間はより短く、引退後の期間がより長くなるというアンバランスな状態に陥っていることが明らかになりました。

子育て期における経済的不安が、少子化の大きな理由に

我が国では少子化が社会問題になって久しいのですが、実はもっと子どもを持ちたいと考える現役世代は決して少なくありません。NRIが2019年3月に実施した「保育サービスに関するアンケート調査」によると、現在未就学児を持つ母親の過半数が「もう一人子どもを持ちたい」と考えていることが分かりました。
一方、そのように考える母親が、希望を実現する上で不安に思うことを確認すると、第1位は「教育にかかる経済的負担の大きさ」であり、全体的に子どもを育てる上での経済的不安感が非常に強い様子がうかがえました。
しかし、世帯主の月間収入は1997年をピークに減少傾向にあり、2017年では20年前に比べて14%程度も落ち込んでいます。それを背景に共働き世帯が増えていますが、夫婦のいずれか、場合によっては双方が非正規雇用である場合が多く、経済的不安を解消するには不十分な状況にあります。
今回私たちは、引退後に向けた準備期間の圧縮、経済的ゆとりがない不安の中で家族を形成している状況を総称して、現在の現役世代が直面している「窮屈な状態」と名付けました。家族形成の遅れや、教育期間の延長によって現役引退後に向けた充分な準備ができないという「将来の不安」から来る窮屈、世帯の収入の減少・不安定化による「今の不安」から来る窮屈、その両方に阻まれているのが現役世代ではないのかと考えます。

現役世代の「窮屈な状態」が問題である3つの理由

社会の担い手である現役世代が窮屈な状態であることにより、日本は大きく3つの問題に直面することになります。
まず、希望の人数の子どもを持つという選択がしにくいことにより、出生率の低迷が続き、人口減少が避けられない状態を起こしてしまうこと(人口減少リスクの増大)。次に、強い経済的不安が現役世代の支出(消費)を抑制し、社会全体の経済活動が低迷すること(経済活動全体の抑制)。そして3つめは、窮屈を放置することは、すなわち、以前の現役世代のライフイベント発生状況を前提としたまま社会保障の議論を続けることであり、大きく変化した現在の現役世代のライフイベントに最適な社会保障の在り方の議論が進まないこと(真に必要な社会保障に関する議論の停滞)です。
現在の現役世代を「窮屈な状態」から解放すること、すなわち「窮屈からの脱却」の実現は、日本の経済と社会を維持・発展させていくことにつながることから、持続可能な国づくりに向けた最重要課題の一つだと考えます。私たちの調査結果が1つのファクトとなり、国を挙げた具体的な検討が進むことを期待します。

「窮屈からの脱却」には「現役世代」の定義変更と「共働き環境」の整備を

どのように社会の仕組みを作り替えるかについては、引き続き検討すべき点ですが、現在の現役世代のライフイベント発生に合わせた「企業や国による現役世代の定義変更」と、経済状況安定につながる「共働き2.0世帯の増加に向けた環境整備」の2つは必須と考えます。
35年前と比べて「現役期間」が明らかに変わってきています。大きく変わった「現役期間」を、企業と国でいかにサポートしていくのかという視点が重要です。企業においては、現在の現役世代のライフイベント発生に合わせた就労期間と処遇の見直しが必要だと考えます。しかし、企業だけが負担できる範囲と量にも限度もあります。そこで、例えば、国においても社会保障の給付と負担の時期、バランスの見直しを図り、企業の処遇と国の給付と負担をセットで組み立て、現役世代の経済不安を解消できる仕組みとしていくことなどが有効だと考えます。つまり国としても、現在の現役世代のライフイベント発生に合わせた各種制度(社会保障、税制など)の見直しを早急に検討すべきだと考えます。
また、夫婦ともに安定雇用・安定収入を実現している共働きを「共働き2.0」と呼んでいますが、現役世代が希望すれば、この「共働き2.0」を実現しやすくする環境整備に国や企業が積極的に投資をしていくことを期待します。必要な環境整備としては、少なくとも働く意欲のある母親が確実に保育サービスを利用できることは必須です。加えて、学童保育の充足や働き方改革の推進、男女ともに意識・行動変革も進める必要があります。
いずれも、以前と比べて取り巻く環境が大きく変化した現在の現役世代を、現状の「窮屈な状態」から解放させるためという新しい視点で早急に取り組むべき施策だという考えを持って推進していくべきだと考えます。

「窮屈からの脱却」の実現で出生率は1.8まで上昇

「窮屈からの脱却」が実現すれば、どういう未来が待っているのか、出生率の観点から見ると興味深い結果が明らかになりました。
調査を通じて把握した「もう一人子どもを持ちたい母親の割合」、「保育の受け皿が充足することによる実現可能性」などを総合し算出すると、期待できる合計特殊出生率は1.78人。これは偶然にも、国が目標として掲げた希望出生率1.8と非常に近い数字でした。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、出生率が1.8まで上昇した場合、2065年の日本の総人口は1億45万人とされ、1億人の人口を維持できると予想されています。現状では先細ることが予測されている年少人口、生産年齢人口が増加し、人口ピラミッドのバランスも改善していくことが見込めます。
現役世代は、「全ての世代が安心して暮らせる社会の実現」のための重要な担い手ですから、直面している「窮屈さ」にしっかりと着目して、窮屈から脱却できる社会の再構築を国全体で考えていくことが必要ではないかと考えます。

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