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企業のオープンイノベーションを促進する「出島」戦略――コストセンターではない投資回収の仕掛けづくり

コーポレートイノベーションコンサルティング部 ソリューションプリンシパル 柳沢 樹里

2020/01/28

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デジタル化が進み、様々な業界でこれまで想定されていなかったプレイヤーの参入が容易になり、新たな競争が生まれています。そうした環境下で、多くの企業が従来の延長線上では生き残れないという危機感を持っています。既存のリソースを活かしつつ、イノベーションを起こして、企業をさらに100年持続させるには、どうすればよいのでしょうか。野村総合研究所(NRI)では20年近くにわたり、その解の1つとなる「出島」戦略を提唱しています。オープンイノベーション案件に長年携わり、人材活用戦略にも詳しい柳沢樹里に聞きました。

「出島」戦略で外部の力を活用する

――今なぜ「出島」なのでしょうか。

大企業は、これまで不要な業務プロセスを削り、効率的に四半期利益を上げることを主眼として意思決定をする体制を築いてきました。その結果、新しいことに挑戦したり、試行錯誤したりすることが難しい組織構造になっています。長崎の「出島」は、江戸時代の鎖国政策下で国内と違うルールが適用され、異文化の人々の出入りや貿易が許されていた場所です。現在の大企業でも、企業本体と切り離して自由に活動できる出島のような組織をつくることが有効であると、2018年頃から日本経済団体連合会においても議論されるようになりました。

――新規事業を推進するために、企業では過去にも社長直轄プロジェクトなどの別動隊を設けることがありました。出島戦略との共通点や相違点は何でしょうか。

ふたつに共通するのは、まず、治外法権で既存事業とは異なる意思決定ができることです。また、社長がコミットメントをすることや、既存のルールで縛られないことも共通しています。一方、出島戦略が従来の社長直轄プロジェクトと少し違うのは、多様な人材を集める際に、部門を横断するだけでなく、外部人材やオープンイノベーションの要素も入れているところです。描いた戦略を実現するスキルやツールを補完するためだけでなく、新たな視点で構想を練り直すために外部リソースを活用するのです。AI(人工知能)の専門家のような、既存の人事制度では獲得しにくい高報酬人材を登用できるように、別会社をつくり、待遇面でも柔軟なルールを設ける企業も増えています。

社長直轄プロジェクトは、社長が任期満了で交代すると、継続できなくなる場合があります。トライアル&エラーで多くの案件をイノベーションプロセスに投入し、ステージを進めながら絞り込む「多産多死のマネジメント」を出島という形で仕組み化することで、トップ交代の影響を回避できます。

中長期的視野で「出島」戦略に取り組む

――先進企業はどのように「出島」を活用していますか。

ある企業は、「顧客起点で事業をつくる」「既存組織の文化をイノベーティブにする」という2つの目的を掲げて、日本だけでなく、アジアや欧州など、自社の市場に近い5拠点に「出島」を開設しました。「出島」に本体組織の人材を送り込むと、従前の自前主義や技術起点の文化を引きずってしまうため、当初は外部から採用したメンバーを主体として、顧客と共創しながらビジネス・イノベーションに取り組めるようにしました。

その後、社内からやる気のある優秀な若手人材を「出島」に送り、そこで経験を積ませてから本体に戻したり、本体で行う研修の講師として、「出島」で用いている手法や考え方を啓蒙したりしました。さらに、本体で「出島」戦略への理解が深まり、イノベーションの成功事例が出てきた段階で、本体から「出島」に派遣する人数を大幅に増やしていき、現在では、外部人材と内部人材とのハイブリット型でイノベーションを運営できるようになっています。

――「出島」をうまく機能させるポイントを教えてください。

第1に、出島に誰を送り込むかが重要です。多くの失敗から新しい価値を見出し、それを磨いていく働き方を楽しめるメンバーを集める必要があります。出島のマネジャーもまた、そのようなタイプの人材か、少なくとも「出島」機能の重要性を理解できる人材に任せることが大切です。新規事業を立ち上げた経験や、異文化環境でマネジメントした経験のある人材が「出島」のトップになると、スムーズにいくことが多いように感じます。
第2のポイントが、プロセスの整備です。短期的な収益よりも、顧客価値創造につながるトライアルを実行したり、様々な失敗から学習したりする行動を重視し、それを適切に評価する指標を導入する必要があります。2~3年程度で効果が出ないと、出島自体の中止を検討し始める企業も多いのですが、出島戦略による成果が出るまでには、より長い期間を要します。いくつも芽が出て、本体から見ても成果が出たといえるようになるまでには、少なくとも数年はかかることを覚悟しなくてはなりません。

――「出島」の活用を検討中の企業にアドバイスをお願いします。

目指す出島像が同じであっても、各社の組織文化や新規事案へのチャレンジ経験の多寡によって、到達するまでの道筋は異なります。最初に現状分析を行い、必要なステップを考えたうえで、「出島」自体もトライアル&エラーで理想形に近づけるというマインドで臨むことが大切です。

「出島」はもともと幕府が長崎の豪商に出資させて作らせた仕組みです。商人は将来的に貿易で利益を確保できると理解していたから応じたのです。出島は単なるコストセンターではなく、中長期の投資をして回収するモデルです。箱だけ作って満足するのでなく、将来の事業の糧を生み出す場所として機能させなくてはなりません。私自身もそのためのプロセス設計や人材育成、事業創造に向けた支援ができればと思っています。


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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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