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木内登英の経済の潮流――「これから本格化する国内雇用情勢の未曽有の悪化」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2020/06/12

5月25日に緊急事態宣言が全面的に解除され、個人消費はとりあえず底を打ちつつあります。しかし、日本の雇用情勢の未曽有の悪化は、まさにこれから本格化していくのです。その中で、「隠れ休業者」の救済が喫緊の政策課題となるでしょう。

日本と米国の雇用情勢の違いにレイオフ(一時帰休)制度

米国労働省が6月5日に発表した5月分雇用統計は、事前の悪化予想に反して改善し、コロナショックで急激に悪化した米国経済が、とりあえず底打ちしつつあることを裏付けました。非農業部門雇用者数は前月比250万9,000人増加し、失業率は1948年の統計開始以来で最高値を記録した4月の14.7%から、13.3%へと低下しました。事前には、さらなる雇用者数の減少と失業率の上昇が予想されていました。
ところで日本では、米国のように雇用情勢が急激な悪化から一気に改善するというようなことは考えられません。米国で就業者と失業者との間の入れ替えが急速に起こるのは、レイオフ(一時帰休)制度があるためです。
自動車などの製造業には、経営環境が改善した際に再雇用することを前提にした解雇の慣例があります。レイオフされた労働者は、失業保険を申請して失業者となりますが、職探しをすることなく、同じ企業に再雇用されることを待つケースが多いでしょう。
他方、企業にとっては、経営状況が悪化する際に従業員を一時的に失業者とし、失業手当という公的支援を受けてもらいます。そして経営状況が改善すれば、新たに求人活動をすることなく、レイオフされた人を再雇用するのです。ここに、米国で労働市場がダイナミックに変化する理由の一つがあるのでしょう。

日本では休業制度に注目

ところが日本では、再雇用を前提にして解雇された人には、原則、失業手当を受給する資格が与えられません。あくまでも職を完全に失い、なおかつ働く意志があって求職活動をしている人が、失業手当を受給することができ、失業者となるのです。
米国でのレイオフ制度に近いのは、日本では休業制度と言えるのかもしれません。自宅待機を命じられ、企業から休業手当を受け取る休業者の数は4月に597万人と、前月から350万人近くも急増しました。日本では、雇用情勢の変化を探る際には、この休業者数の動きに注目しておくことが有効なのです。

日本の失業率のピークは来年前半か

こうした会社都合の休業者は、失業予備軍でもあります。会社が休業手当を払い続ける余裕がなくなる、あるいは会社が倒産や廃業となれば、休業者らは失業者となってしまいます。経済危機の下でも企業は何とか経営を維持しようとしますが、厳しい経済情勢が続けば、いよいよ持ちこたえることができなくなり、倒産あるいは廃業に追いこまれます。それはしばしば、経済情勢が底打ちしてから時間差を持って生じるものです。
このように、日本では雇用情勢の変化は、景気情勢の変化に遅れて生じやすいのです。仮に日本経済が現在、最悪期を過ぎて底打ちしつつある状況だとしても、急回復するようなことがない限り、雇用情勢の悪化傾向はなお続き、失業率がピークを付けるのは来年前半になると思われます。その時の失業率は、6%程度に達することも予想されます。

深刻化する「隠れ休業者」問題

ところで今、政府が最も手を差し伸べる必要があるのは、実はこうした休業者や失業者ではありません。企業との雇用契約は維持されながらも休業者とはなっていない、いわば「隠れ休業者」です。「隠れ休業者」は自宅待機を求められて休業状態にありますが、企業からの休業手当も失業手当もどちらも受け取れないのです。
労働基準法は、景気悪化、経営悪化など会社側の都合で従業員を休業させる場合には、平均給与の6割以上を支払うことを企業に義務付けていますが、実際には、休業手当が支払われていない「隠れ休業者」が相当数存在します。
経営環境が厳しい中、休業手当を支払う余裕がない、あるいは支払うと企業が資金繰りに行き詰って倒産してしまうリスクがある、といったケースもあるのでしょう。

雇用調整助成金制度の問題

こうした「隠れ休業者」を減らすことが期待されてきたのが、企業の休業手当の相当部分を国が補助する、雇用調整助成金制度です。ところが、この常設の制度は、危機時には十分に機能してこなかったように思います。同制度への企業の申請は思うように増えていないのです。
申請を阻んでいる要因として挙げられるのは、第1に、大量の記入書類、証明書類の提出を求められるという、企業にとっての大きな事務負担です。第2に、厚労省は申請から支給までに最短2週間を目指すとしながらも、実際には1~2か月かかるケースが多いという点です。第3に、企業が休業手当を支給した後に初めて助成金を受け取ることができる、いわゆる「後払い方式」であることです。厳しい資金繰りに直面する企業は、申請する余裕はないでしょう。
手続きの簡素化などを受けて、足もとで申請件数はようやく増え始めているようですが、救えているのは「隠れ休業者」のうち、まだごく一部にとどまっているでしょう。

新たな休業者支援制度は「隠れ休業者」を救えるか

そこで、企業が申請するのではなく、事実上休業状態にある従業員が自ら申請して、失業手当てに相当する手当てを受け取れるようにする新しい制度が、政府の2次補正予算案に盛り込まれました。同制度は東日本大震災の際にも適用され、「みなし失業制度」とも呼ばれます。
事実上の休業者は企業から休業証明を受け取り、自らオンラインなどでハローワークに申請することになります。申請から1週間程度で支給できる可能性があるといいます。
この新たな制度によって、極めて厳しい生活環境に置かれている「隠れ休業者」が、早急に救われることを強く期待したいと思います。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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