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木内登英の経済の潮流――「国内景気の悪化は第2ステージへ;この先はU字型かL字型か」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2020/07/09

新型コロナウイルス感染拡大の収束とともに世界経済は「Ⅴ字型」回復を遂げる、との当初の楽観論はすっかり影を潜める一方、感染拡大第2波によって「W字型」回復になる、との見方も後退しています。多くの国で感染拡大が収まらない中、景気は長らく底這いを続ける「U字型」、あるいは「L字型」の様相を強めています。日本についても同様です。

景気悪化は非製造業から製造業へ広がる

7月1日に日本銀行が発表した短観(6月調査)で、大企業製造業の現状判断DIは「-34」と、前回3月調査から-26ポイントの劇的な悪化を示しました。DIはリーマン・ショック後の2009年以来、約11年ぶりの低水準です。
3月調査で既に深刻な悪化が確認されていた非製造業でも、景況感はさらに大きな幅で悪化しました。飲食・サービス、対個人サービスなどで景況感悪化が一段と強まったことに加え、不動産、情報サービス等、悪化業種がさらに広がりを見せています。
前回調査では、製造業(全規模)の現状判断DIの下落幅よりも、非製造業(全規模)のDIの下落幅の方が大きかったのですが、今回の調査ではこれが逆転しています。輸出の急激な悪化等の影響から、製造業が景況感の悪化をリードする形へと、ステージが変わってきました。

自動車の生産調整の波及効果に注目

製造業の中でも現状判断DIの前回調査比悪化が特に際立っているのが、自動車です(-55ポイント)。こうした傾向は、鉱工業生産統計でも明確に確認できます。5月の鉱工業生産(速報値)は、前月比-8.4%と4月の同-9.8%に続いて劇的な悪化を見せました。これが、今回の短観の製造業・現状判断DIの悪化に明確に表れています。6月の製造業予測指数も、経済産業省による補正値によれば、前月比+0.2%となお横ばい見通しです。
5月には自動車工業の生産が前月比-23.2%と、全体15業種の中で最も大幅に減少しました。4-6月期の鉱工業生産は、前期比-17%程度の大幅減が見込まれますが、そのうち自動車のマイナス寄与が半分以上と考えられます。
自動車産業はすそ野が広く、その生産調整は多くの産業に調整圧力をもたらします。今回の調査でも、それは、鉄鋼業の景況悪化に明確に表れています。
内閣府の産業連関表によると、ある業種の生産が1単位増加した場合に経済全体で何単位の生産が増加するかを示す「生産誘発係数」は、自動車を含む輸送機械では2.30と、全業種の中で最大です。

ストック調整で国内景気の悪化は長期化

今回の調査では、コロナショックによる企業の経営環境の悪化が、雇用、設備といったストックの調整に繋がってきたことが確認できたことも見逃せない重要な点です。これは、景気悪化が第2ステージに入ったことを意味します。
2020年度の設備投資計画は、総じて下方修正となりました。大企業の計画は、前回3月調査と比べて前年度比増加率を幾分高めましたが、3月調査から6月調査にかけて増加率は大きく引き上げられるという通常の修正パターンを踏まえれば、実質的にはかなりの下方修正になったと言えるでしょう。また中小企業の投資計画で、前年度比増加率は通常の修正パターンを大きく覆す形で、下方修正されています。これらの点から、2020年度の設備投資はマイナス基調に転じたと見るべきでしょう。
他方、日銀短観の雇用人員判断DI(全規模全産業、「過剰」-「不足」)は、前回調査では3ポイントの上昇と小幅な悪化にとどまっていましたが、今回は22ポイントの上昇と予想外の劇的な悪化となっています。新卒採用計画も、2020年度が前年度比+0.2%、2021年度が同-5.6%(全産業・全規模合計)と、先行きかなり抑制的となってきました。

日本経済も「U字型」あるいは「L字型」へ

今回の短観調査では、経済の悪化が非製造業から製造業へと比重を移す新たな局面に入ったことが確認できました。また、自動車産業の生産調整の影響や、企業が雇用、設備といったストックの調整を本格化させる第2ステージに入ったことで、コロナショックをきっかけにする経済の調整は、もはや一時的なもので終わらずに、より本格化、長期化する可能性が高まったと言えます。
実際、先行き判断DIを見ると、製造業(全規模)、非製造業(全規模)ともにさらなる悪化(それぞれ-1ポイント、-3ポイント)が見込まれています。景況感の底は未だ見えない状況なのです。
新型コロナウイルス感染症の収束と共に経済活動が急速に回復に転じる、といったシナリオの蓋然性は、既にかなり低下しています。他国と同様に、日本経済も景気の底這い状態が長引く「U字型」あるいは「L字型」の様相を確実に強めているのです。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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