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デジタル人材育成は「個人」から「組織」へ

システムコンサルティング事業本部 清水 一史 中川 裕貴

2023/04/10

ここ数年、多くの企業が手探りでDX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り出し、デジタル人材に関する仕組みを整備してきました。一定の経験を積み、デジタル戦略の方向性が定まってきた企業の間で、新たなDX人材ニーズが生じていると、野村総合研究所(NRI)システムコンサルティング事業本部の清水一史と中川裕貴は指摘します。個人よりも組織レベルでDX実践力を磨く人材育成について聞きました。

育成しても、実行や成果に結びつかない?

これまでDXを模索してきた企業は、社長直轄のデジタル組織などを設置し、外部からデジタル人材を獲得。また、個人のスキル向上のためにテクノロジー活用やデータサイエンスの研修やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などの仕組みを整備してきました。それが一巡した企業の間で課題になっているのが、デジタル人材を育てても、それが現場でのDX実行や成果になかなか結びつかないことです。たとえば、小さな繰返しの中で成功と失敗を重ね、チーム力を高めるアジャイルな仕事の進め方も、一部のメンバーだけがスキルを習得しても実践にはつながりません。組織のみながDXの考えや手法を理解し、共有しなければ意味がないのです。知識やスキルを発揮できず、せっかく獲得や育成したデジタル人材が離職していく状況さえ起こっています。

その一因は企業がイメージするデジタル人材像と活用実態とのギャップにあると、清水は分析します。「NRIでは、業務プロセスの変革やサービスの高度化に寄与するデジタル活用をDX1.0、ビジネスモデルや事業を新たに創り出すデジタル活用をDX2.0と呼んでいます。ほとんどの企業はこれまで、デジタルを使って新しいサービスや市場を作り出すDX2.0タイプのデジタル人材像を想定して、仕組みを整備してきました」
一方、NRIが行ったIT活用実態調査 では、デジタル化の効果として「業務プロセスの改善、生産性向上」と「業務に関わる人数や労働時間の削減」を挙げる企業が多く見られました。「この2つの項目は、個人のスキルやリーダーシップがより重要なDX2.0ではなく、DX1.0の世界です。DX1.0で求められるのは、個人よりも組織単位でデジタルのケイパビリティ(組織能力)を高めることです」

上司・部下セットの実践型研修

DX1.0を進める際に、優秀な頭脳を集めた社長直轄組織がソリューションを考えて、それを現場に持ち込むという組織を切り離したやり方ではうまくいきません。現場の人はこれまでの活動を否定されたように感じ、軋轢が生じやすくなります。また、単純にITツールの使用を促すのではなく、データ分析をしながら業務プロセスの改善やサービスの高度化を図っていくため、現場の知見が欠かせません。デジタルに精通していない人も含めて全員を巻き込み、組織単位でデジタルを活用して効果につなげる必要があります。

そこでNRIが注力しているのが、プロジェクト実践型研修です。組織内の若手や適性のある個人を選んで、日常とは違う場所で研修を受けさせるのではなく、実務を理解する現場リーダーと権限を持つマネジャーがタッグを組み、自社のデジタル戦略に沿って業務課題に取り組む中で、デジタル活用を体験し、必要なスキルを身につけてもらいます。さまざまな企業のデジタル人材育成に関わってきた中川は、次のように述べます。「一見すると通常のプロジェクトのようですが、最初に人材育成の観点をどう活動に織り込むかを一緒に議論しておくことが重要です。自分たちが何を身に着けなければならないかを意識して臨むことで、研修効果が高まります」

プロジェクト型研修では、システムやツールなどの成果物だけでなく、それを生み出すノウハウが組織や人材に残ると、中川は指摘します。「最近は外部ベンダーに丸投げするのではなく、企画立案や業務要件定義等の重要な要素は内製化しようとする企業が増えているため、その流れにも合っています。そして何よりも、組織内の関係者が同じ課題に取り組み、同じフレームワークやツールを使ったという経験が得られます。それは同じ研修を別々に受けるのとはまったく異なる体験であり、組織としてデジタル活用力の向上につながります」

人数よりも組織力を見える化

企業の中には、デジタル活用が必要な部門もあれば、それほど要らない部門もあります。特に景気が悪化し、予算に制約がある場合、必要な部門に絞ってケイパビリティを高める人材投資を検討することも大切です。「全員一律、あるいは、個人の適性や意欲に基づいたデジタル研修を否定するつもりはありませんが、人から組織へと育成のフォーカスを変えてみてはいかがでしょうか」と、中川は提案します。

それと同時に、目標設定やKPI(重要業績評価指標)を見直すことが重要だと、業務改革プロジェクトを多数経験している清水は指摘します。「DX白書やレポートでは、組織全体で何割あるいは何人がデジタル研修を受けたかという人数ベースのKPIがよく記載されています。経済産業省などが選定するDX銘柄企業をめざす場合、若手や新人全員に受けさせてボリュームを稼ぐ施策は確かに有効です。しかし、DX1.0で本当に成果を出すためには、組織全体として研修を受けたか、マネジメント層が参画したかなど、組織内のDX人材密度を示すKPIのほうが役立ちます」

企業を取り巻く変化のスピードは速くなる一方で、組織と人材の在り方も従来通りでは立ち行かなくなる時代がすぐそこに迫っています。デジタル時代を踏まえた人材育成には、既存のシステムや人材を活かしながら、マネジメント層がデジタルの本質に刮目し、組織単位での変革が必要となっているのです。

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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