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プラットフォーム論読み比べ

2019/09/26

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GAFAやUber、Airbnbなどに代表される新たなビジネスモデルとして「プラットフォーム」が注目を集めている。そして、去年辺りから「プラットフォーム」ビジネスを体系的に分析した書籍が立て続けに出版されている。今回はそれらの「プラットフォーム本」を3冊取り上げて、それぞれの特徴を読み比べてみる。そこから見えてくるのは、既存ビジネスとは異なるメカニズムで価値を創造するプラットフォームビジネスの生態系であり、また予想外の方角から既存ビジネスに「破壊」をもたらしつつある競争相手の姿である。

■取り上げた本

  1. 『プラットフォーム革命』アレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン著
  2. 『プラットフォームの経済学』アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著
  3. 『プラットフォーム・レボリューション』ジェフリー・G・パーカー他著

準備運動1:プラットフォームと既存ビジネスの違い

最初に、ここで取り上げる「プラットフォーム」と呼ばれるビジネスモデルが持つ、これまでのビジネスとは異なる特徴について簡単にまとめておく。それぞれの本でも既存のビジネスとプラットフォームビジネスの違いは説明されているが、ここではパーカー他「プラットフォーム・レボリューション」の説明に基づいてまとめることにする。

既存のビジネスは、マーケティング、企画・設計、製造から卸・小売の流通過程を経て消費者のもとに届き、その製品が日々利用されることで価値を生み出す。これは「直線的なバリューチェーン」であり、企業は自ら設備や在庫を所有し、モノやサービスを上流から下流まで滞りなく流通させることを目指す。言い換えれば、この既存のビジネスモデルは「パイプライン型」と呼べる。

一方、プラットフォームビジネスでは、外部の生産者と消費者が相互に取引・交換・交流を行うことで価値を新たに創造する。これらの取引・交換・交流(これを「インタラクション」と呼ぶ)を可能にするために、プラットフォーマー(プラットフォームを提供する主体)は、オープンで参加型のインフラを提供し、そのインフラのメンテナンスやガバナンスを担う。このビジネスモデルでは、上流や下流といった一方向の価値の流れは存在せず、それぞれの参加者の間でのネットワーク状の価値の移動が起きている。

特に注意すべきは、プラットフォームビジネスでは「パイプライン型」ビジネスと異なり、自前の設備や在庫をほとんど持たないという点である。この差異があるため、プラットフォームビジネスは既存ビジネスでは想像できないスピードで事業を拡大し、さらに事業範囲も拡張しうるのである。想像を超える成長スピードと、予想外の方角からの参入相手の登場という2つの面で、プラットフォームビジネスは既存ビジネスの脅威となりうるのである。

準備運動2:プラットフォームビジネスを動かす運動則

さて、既存の「パイプライン型」ビジネスとプラットフォームとの違いを頭に入れた上で、プラットフォームビジネスを構成している特徴的な運動則(経済原則、と言ってもいい)についても簡単にまとめておこう。これもそれぞれの本で詳細な説明が行われているので、最大公約数的な要点に絞って紹介する。

  • ネットワーク外部性
    これは以前「Information Rules」でも紹介したことがあるが、要は「使う人が増えれば増えるほど利用者個々人にとっての価値が高まっていく」仕組みのことである。
  • 規模の経済
    一般的には「ビジネス規模が大きくなることで限界費用が低下し、コスト競争力や市場支配力が増すこと」という意味になる。ただし、「パイプライン型」ビジネスの場合の規模の経済は「供給側(企業側)」の規模の経済に注目するのに対し、プラットフォームビジネスでは「需要側(ユーザ側)」の規模の経済に着目する点が異なっている。
  • スケーラビリティ
    一般的には「ビジネスの規模の拡大を可能にする拡張性」を指す。簡単に言えば、「明日利用者が10倍になっても対応できる能力」と思っておいてもらえばいい。
  • マッチング
    「提供したい人」と「欲しい人」をうまく引き合わせるための仕組み。パイプライン型企業は流通チャネルを通じて自社製品を顧客に届けるが、プラットフォームでは、オープンなネットワークを通じて、直接両者を引き合わせる。

まずはこんなところだろうか。さて、それではそれぞれの本の読み比べをしてみよう(どうでもいいことだが、3冊の総ページ数は1,400ページ弱だったことを記しておく)。

『プラットフォーム革命』モザド、ジョンソン

[著]アレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン
[翻訳]藤原朝子
[発行日]2018年2月
[出版社]英治出版
[定価]1,900円+税

【総合評価】取り上げている事例に馴染みのあるものが多く、読みやすい。理論面もカバー
 事例の面白さ:★★★★
 理論面の解説:★★★
 将来の見通し:★★★

2018年2月に邦訳が出版されている。プラットフォーム本の中では比較的早い時期に出た本だと言える。著者は自らもプラットフォームビジネスを手掛ける経営者である。この3冊の中では最もページ数が少ない(357ページ)ため、比較的読みやすいだろう。

本書の特徴は、取り上げる事例の多くが情報通信産業の有名企業(の失敗例)で構成されており、「あ、あの話か」とすんなり頭に入ってきやすい点である。冒頭に、3G世代の携帯電話で世界を席巻したNokiaが4G時代のアプリ競争に負けていく姿を描き、さらにアメリカのビジネスマンの必需品とも言われたRIMのBlackberry端末がiPhoneに飲み込まれていく過程を詳述する。うん、気持ちいい。

本書はプラットフォームのビジネスモデルを体系的に解説しており、この点では他の2冊と比較しても遜色がない。また、プラットフォームの「成功法則」だけではなく、「失敗法則」にも言及がある点は行き届いている。新しいビジネスモデルに飛びついても、そのビジネスモデルのメカニズムを理解していないとうまく行かないという当たり前の話をきちんと書いてくれているのは好感が持てる。

しかし、本書にはひとつだけ読む際に注意してほしい点がある。本書が出版されたのは2016年5月である(英語版)。そのため、2019年現在の状況から見ると多少プラットフォーマーに対して楽観的すぎる傾向があることである。昨年あたりから、独占的地位を築いているプラットフォーマーには規制当局から厳しい目が向けられている。GoogleはEUから競争法違反を問われ多額の賠償金を課されている。またFacebookやAmazonも自らの独占的地位の濫用が競争を阻害しているとして調査が行われている。さらには新たな規制の導入や、企業の分割までが議論されるようになっている。日本でも先ごろのリクナビの内定辞退率問題によって、プラットフォーマーの情報利用のあり方が問題として認識されるようになっている。

本書の原題は「MODERN MONOPOLIES: What It Takes to Dominate the 21st-Century Economy(現代の独占:21世紀の経済を支配するもの)」であり、執筆当時は「プラットフォーマーによる独占」が現代のビジネスの到達点だと考えられていた。しかし、状況は変わりつつある。この点は注意しておくべきだろう。

『プラットフォームの経済学』マカフィー、ブリニョルフソン

[著]アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン
[翻訳]村井 章子
[発行日]2018年3月27日
[出版社]日経BP社
[定価]2,600円+税

【総合評価】スコープが広く、テクノロジーの進化とプラットフォームの登場の因果関係がクリアに理解できる
 事例の面白さ:★★★★
 理論面の解説:★★★★
 将来の見通し:★★★★★

AIのインパクトを世に知らしめたベストセラーの「ザ・セカンド・マシン・エイジ」の名コンビの著作である。本書の最大の特徴は、現在起きている技術革新から議論をスタートし、その後、それらの技術革新を有効に活用するビジネスモデルとしてプラットフォームに至る論理展開である。テクノロジーの進化とプラットフォームの登場の因果関係を理解することは、今後のプラットフォームビジネスの進化の方向性(と同時に既存ビジネスに迫っている脅威)を予想するための重要な羅針盤として機能するだろう。

本書では、議論の軸として新たに登場している3つのトレンドと、それぞれのトレンドと対になっている既存のビジネス要素とで整理している。新しい3つのトレンドはそれぞれ「マシン(AIやロボットなど)」「プラットフォーム」「クラウド(このクラウドはクラウドコンピューティングの「雲(Cloud)」ではなく、「群衆」の方の「Crowd」である)」であり、それぞれに対応する既存の要素が「人間」「物理的なモノやサービス」「コア(これは組織内で培われてきた知識や仕組みなどの閉じた無形資産を指す)」となる。本書は、これからの時代、この3つの要素のバランスの見直しが求められるという。

最初の対である「人間」と「マシン」では、以前紹介した「予測マシンの世紀」と同様の考察が展開される。そして最近ではほぼ標準的な理解となりつつある結論、つまり「人間には特有のバイアスがあるため、客観的かつ定型的な領域はマシンに任せたほうがいい」という結論に至る。そして、これはプラットフォームで重要な「マッチング」の正確性や効率性の重要な要素技術となる。

ついで、「プラットフォーム」と「物理的なモノやサービス」のバランスでは、一言で言えば「自ら資産を持たないビジネス」へのシフトの重要性が語られる。よく言われることだが、「Airbnbは一部屋も部屋を持っていない」し、「Uberは一台のタクシーも持っていない」のである。プラットフォームは、自ら資産(や在庫)を持たず、世の中にある遊休資産を有効活用することによってビジネスを行っている。そしてこの資産の有無は、既存企業にとって全く異なるコスト構造の競争相手の登場を意味する。これまで既存企業は自社の持つ資産こそが競争優位の源泉だと考えてきた。しかし、これからは「持たざる資産」の活用が競争優位の源泉になる可能性がある。その点の見極めが既存企業には求められるだろう。

そして最後の対、「クラウド」と「コア」に関して、プラットフォームビジネスでは、オープンなネットワークによる「群衆の知」のほうが、一組織で培われた経験や仕組みを上回る成果をあげることが示される。そしてその象徴として非中央集権的なネットワーク構造を持つビットコインの例があげられる。実際、既存の企業でも例えばクラウドファンディングを新製品のコンセプト開発のプロセスに組み込むような、外部の「知」を活用する動きも出てきている。自社の「コア」の優位性を公平な目で見直すべき時が来ているのである。

さて、こう見てくると既存企業は自らのビジネスをプラットフォームに転換しないと生き残れないという気になってくる。しかし、と著者たちは言う。「既存の企業にはまだまだ果たすべき役割がある」と。創造性は「人間」にしか(今のところ)期待できない能力である。また、プラットフォーム上で成立した取引の成果が実際にユーザの手元に届くには、「物理的なモノやサービス(例えば物流網でありスマートフォンの端末など)」が必要である。また「コア」を持つ企業は、責任を負う主体となりうるため、「クラウド(群衆)」とは異なるリスクテイクが行える。これらの特徴をどう活かしていくのかが、既存企業には問われているのである。そして、これらの特徴を最大限に活かせた企業にとって、その未来は必ずしも暗いものではないだろう。

本書は物理的に「うっ」となる外見だが(534ページ!)、読み始めると思ったより読みやすいと思う。それは著者たちが経済学者であることと無関係ではないだろう。経済学者は「比較優位」という概念が好きである。「比較優位」とは、仮に圧倒的に生産性の高いAと、それに比べて生産性の低いBがいた場合でも、すべてをAに任せるのではなく、Aは最も得意なものに集中し、それ以外の部分をBに任せる(分業する)ほうが、全体のアウトプットは増えるという経済法則である。プラットフォームビジネスが仮にどれほど優れていても、既存企業が担う機能は必ずあるはずだと考えるのが経済学者の思考法である。

『プラットフォーム・レボリューション』パーカー他

[著]ジェフリー・G・パーカー、マーシャル・W・ヴァン・アルスタイン、サンジート・ポール・チョーダリー
[翻訳]妹尾 堅一郎(監訳)、渡部 典子(訳)
[発行日]2018年8月
[出版社]ダイヤモンド社
[定価]2,400円+税

【総合評価】最も理論的に洗練されており、かつ体系的。プラットフォームを立ち上げるつもりであれば必読の書
 事例の面白さ:★★★
 理論面の解説:★★★★★
 将来の見通し:★★★★★

さて、最後の本になる。著者たちは大学の経済学部の教授陣でありまた、MITデジタル・エコノミー・イニシアチブのメンバーでもある(ちなみに2冊めの「プラットフォームの経済学」の著者のふたりともMITデジタル・エコノミー・イニシアチブのディレクターを務めている)。

本書の最大の特徴は、プラットフォームビジネスの体系的な理論面の分析である。さらに言えば、既存ビジネスを凌駕するための詳細な方法論が詰まった本とも言える。本書では、プラットフォームをかなり厳密に定義することから始まる。そのため、中身の伴わない「なんちゃってプラットフォーム」はそもそも分析の対象から外れている。一方で、「真の」プラットフォームが既存ビジネスを破壊するプロセスが明確に描き出される。

プラットフォームが狙うべき既存ビジネスの持つ弱みとして以下のようなものがあげられている。

  • スケーラビリティを制約するゲートキーパーの存在
    例えば出版社は「編集者」というゲートキーパーを抱えている。編集者が一人で扱える作者や原稿の数には上限があり、この制約を短時間で拡大することはできない。一方、Amazonのダイレクト・パブリッシング、いわゆるセルフ出版には編集者は存在しない。作者は自ら作品を出品し、単に読者がその作品を評価するだけである。多くはあまり読まれない凡庸な作品だろうが、中には大ヒット作も出てくる。
  • 自己資本を活用したビジネスモデル
    これは前掲書でも触れたが、既存ビジネスは自社で事業資産を保有する。一方、プラットフォームは世の中の未利用の遊休資産という潜在的な供給力を活用できる。そのため、固定費・在庫が小さいビジネスが展開できる。
  • 高い取引コスト
    企業であれば、調達にせよ販売にせよ契約や手続きが必要になる。ただ、継続的な関係構築ができれば、その取引コストは下がる。一方で、プラットフォームのほうは、以前であれば見ず知らずに他人との取引はリスクが高すぎたので、取引コストは非常に高かったが、保険の発達や評価システムなどのイノベーションによって、取引コストは非常に低くなっている。

このように、本書はプラットフォームビジネスを展開する上で、既存ビジネスのどこを攻めるべきかを丁寧に解説してくれる。また、プラットフォームビジネスのアーキテクチャ、「鶏と卵問題(ユーザが先か、ビジネスが先か)の解決法、プラットフォームの課金・マネタイズ戦略など、プラットフォームビジネスの肝となる戦略上の要点が体系的に記述されている。さらに、競合するプラットフォームとの競争への対処といった、更にその先まで含まれているのはさすがというほかない。

このご時世、プラットフォーム企業に対して経営者はなんらかの脅威を感じているだろう。また、自らの既存のビジネスをプラットフォームへと転換するアイデアを模索している経営者もいるだろうし、新規事業としてプラットフォームビジネスの立ち上げを検討しているマネージャーもいるかもしれない。それらの人たちにとって、本書は(消化するには多少骨が折れるが)最良の教科書になるだろう。また、論点として規制や法律のあるべき姿についても論じられており、現時点で盛り込むべき内容が網羅されていると言えるだろう。

そして、邦訳書の特典でもあるが、巻末に本書の監訳者でもある妹尾堅一郎氏による解説がついている。まずはこの解説から本書を読みすすめるのも一案である。

蛇足ながら

以上、3冊を紹介したがどれもそれなりのボリュームがあり、また事例も海外の物が多いため、若干とっつきにくいかもしれない。多少遠回りになるかもしれないが、早稲田大学の根来教授による『プラットフォームの教科書 超速成長ネットワーク効果の基本と応用』(日経BP)をまずは読んで見るのも登山ルートとしておすすめできる。

[著]根来 龍之
[発行日]2017年5月29日
[出版社]日経BP
[定価]1,700円+税

執筆者情報

  • 柏木 亮二

    金融イノベーション研究部

    上級研究員

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