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【COVID-19】フィクションの中のパンデミック:『首都感染』ほか

2020/04/30

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現在日本中に緊急事態宣言が発出され、外出自粛が要請されている。感染は徐々に収束しつつあるようにも見えるが、今回のGW期間中に3月の三連休の緩みを繰り返しては元の木阿弥になってしまう。そういうときは家で本を読み、動画コンテンツを見て過ごそう。フィクションの世界での感染爆発(パンデミック)を見てみるのも一興だろう。今回はパンデミック作品と、ちょっと不謹慎だが文明が滅んだ後の物語であるポストアポカリプス作品をいくつか選んでみた。

「道徳的ウイルス学者」(グレッグ・イーガン『しあわせの理由』所収)

[著]グレッグ・イーガン
[翻訳]山岸真
[発行日]2003年7月18日発行
[出版社]早川書房
[定価]920円+税

今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は現代社会の弱点を突く性質を持っているため、世界中に急速に感染が広がったと言われる。今までにわかっている今回の新型コロナウイルスの特徴を列挙してみる。

  1. 感染してから症状が出るまでの期間がインフルエンザなどの他の感染症に比べて長い
  2. 発症しても無症状もしくはほとんど症状がない人が多くいる
  3. 症状が出る前から他者への感染力を持つ
  4. おそらくインフルエンザなどよりも強い感染力を持つ
  5. 他のインフルエンザなどよりも重症化率が高く、致死率も高い

人と人との関わりが増えた社会、国境をまたいで多くの人が行き来する社会といった、現代社会の「サービス産業化」「グローバル化」といった性質を、SARS-CoV-2は最大限活用して大量の自己複製を実現しているようにみえる。特に特徴1~3はやっかいで、この「長い潜伏期間」「無症状」「発症前から感染力がある」ため、気づかずに他者へ感染させてしまったケースが多い。この嫌な特徴を「ステルス性」と表現する研究者もいる。

当然ながら、ウイルスが意思を持っているわけではないので、たまたま起きた変異によってこのような特性を持ったウイルスが誕生してしまったのである。この新型コロナウイルスは人々の行動を発生前と後では全く変えてしまった。

さて、では「もし、人間がある特定の『意思』を持って人間の行動を変えるようなウイルスを作り出してしまったら」というのが、紹介する「道徳的ウイルス学者」である。物語の主人公ショウクロスは、過剰なまでに敬虔なキリスト教信者である。彼は敬虔なカトリック的な信仰に基づき、人々が生涯でただ一人のパートナーとしか結ばれないようにするウイルスを生み出そうとする。この人造「道徳的」ウイルスがどのようにして人々に「貞操」を強制し「不義」を罰するかのメカニズムやこのウイルスのもたらした「現実」はどのようなものだったのか、というのは実際に作品を読んでいただきたい。

このグレッグ・イーガンの短編集はこの作品以外にもグロテクスに発達した医療・生命技術のもたらすディストピアを描き出す作品が収められている。お勧めだ。

『首都感染』

[著]高嶋哲夫
[発行日]2013年11月15日発行
[出版社]講談社
[定価]950円+税

次のお勧めは、高嶋哲夫『首都感染』である。タイトルからわかるように、この作品は日本、それも東京で、強毒性の新型インフルエンザのパンデミックが起きるという想定である。そして、作品内では東京の都心は「ロックダウン」される。そう、今回のCOVID-19で実際に中国の武漢や欧州の各都市で実際に行われた都市封鎖である。

感染発生から、世界的なパンデミックへの経緯、そして国内での発症、そして感染爆発を食い止めるための首都のロックダウンに至るまでの過程が、政府、医療従事者、市民、警察・自衛隊といったリアルな視点から描き出されており、フィクションなのに強烈な既視感を持ってしまう。

そしてこの作品が発表されたのは「2010年」である。実に10年前に現在の状況を予言していたかのような作品が書かれていたことに驚愕せざるを得ない。「もしかして武漢のロックダウンを決断した中国指導部はこの作品を参考にしたのでは?」という妄想を抱いてしまうくらいのリアリティだ。

本書は実際の書籍で入手するのは難しいだろう。ただAmazonのkindleではわずか935円で読める。まだkindleを試していない方はこの機会に是非。

『コンテイジョン』(Netflix)

コンテイジョン | Netflix

続いては映像作品である。紹介する「コンテイジョン」も2011年に制作された作品だが、これもまた現在の世界と気味が悪いくらいに符合している。ちなみにタイトルの「contagion」とは「接触感染」「伝染」という意味である。本作品も致死性の高い新型ウイルスによる世界的パンデミックを舞台にしている。しかし、本作品の特徴は、人間ドラマを極力排し、徹底して冷静な視点でパンデミックの推移を描き出している点である。

実際、本作品の脚本家のスコット・Z・バーンズはCDC(疾病対策センター)や多くの公衆衛生の専門家にインタビューを重ね、科学的な裏付けと予測に基づいたシナリオを書いたと言っている(「気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること」ニューズウィーク日本版 )。

これ、あまりに淡々と状況が悪化していくので、夜中に一人で見るとかなりしんどい。でもおすすめだ。この作品をみてしんどくなったら、「シン・ゴジラ」でも見てバランスを取ろう。


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ここから先は不幸にして現代社会が崩壊してしまった後に、どのようにして人類が再び科学文明を取り戻すかを題材にしたものである。不謹慎だと思う人もいるかもしれないが、人類は20世紀だけでも鳥インフルエンザに由来する新型インフルエンザの大流行を3回経験している。最初が1918年のスペイン風邪(H1N1)、ついで1957年のアジアインフルエンザ(H2N2)、そして1968年の香港インフルエンザ(H3N2)だ。そして、専門家の間で現在最も警戒されているのが高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の新型インフルエンザの蔓延である。今回のCOVID-19の致死率は高病原性のウイルスよりもかなり低いようだ。しかし、警戒はしておくべきだ。「備えよ常に(Be prepared)」はこれからも変わらない。

そして、もう一つ。現代社会がどのような科学技術に支えられているのか、そしてその科学技術は過去からの連綿とした蓄積の上に成り立っているということを理解しておくことは決して無駄ではないだろう。その意味でも時間があるときに読んでおいて損はないと思う。

『この世界が消えた後の科学文明のつくりかた』

[著]ルイス・ダートネル
[翻訳]東郷えりか [発行日]2018年9月6日発行
[出版社]河出書房新社
[定価]980円+税

本書はタイトルの通り、世界が崩壊してしまった後に生き残ったわずかな人類が科学文明を再建するための手引書である。本書では大破局後に人類が科学文明を取り戻すために再起動させるべき領域の「マニュアル」を10分野にわたって説明している。それらの領域は「農業」「食糧と衣服」「物質(木材由来の無機物質)」「材料(建材、金属など)」「医薬品」「動力」「輸送機関」「コミュニケーション」「応用化学」「時間と場所」である。

■世界の最善の終わり方

本書ではまずどのような「世界の終わり方」が最善かを議論する。

「最悪」なのは「全面核戦争」による終局である。この場合、インフラの多くは跡形もなく破壊され、さらに粉塵による日照低下と放射性物質で汚染された大地は農業による復興を不可能にする。ほぼ同様の最悪なシナリオは「小惑星の地球衝突」である。この2つの大破局が起きてしまった場合、文明の再興はかなり難しくなる。

ついでまずいのが「太陽からの大規模なコロナ質量放出」である。この強力な電磁波は衛星を破壊し、さらに世界中の電線・変圧器を破壊して、電力網と情報ネットワークを無力化してしまう。東日本大震災や昨年の台風15号や19号で経験したように、現代社会は停電に弱い。しかもその停電が世界規模で長期間発生すれば、現代社会は急速に壊れていく。社会秩序が失われた後の混乱期を人類が乗り越え、再び新たな社会秩序が生まれた後に人類は科学文明を再興することになる。

そして筆者が「最善」だとするシナリオは、「人口は急激に減少しているが、社会のインフラは破壊されずに残っており、さらに物資もまだ豊富に残っている状態」での破局だとする。そして、この「最善の終わり方」に最も近いものが「致死性の高いウイルスによるパンデミック」だと言う。なんとも救いのない「最善」ではあるが、このシナリオは、失われたリソースが「人口」だけである点で、もっとも科学文明を再興させることが容易なものとなる。

■実際、局地的に科学文明が停止する事態は現代社会でも起きている

例えば、先程も触れたが、昨年の台風15号によって電力網に甚大な被害を受けた千葉県などの地域が経験した苦労は日本のどこで起きてもおかしくない。この長期に渡る停電期間にディーゼル発電機の備蓄の重要性が改めて認識された。また、1990年代のボスニア紛争のさなかに、3年間という長期に渡ってセルビア人武装勢力に包囲されたゴラジュデ市は、ほぼ自給自足を強いられた。食糧こそ国連の空輸によって供給されたが、電力供給は遮断されていた。市民は市内の河川に手作りの水力発電機を設置して発電を行ったのである。

実は今回のCOVID-19のパンデミックによって、一種の医薬品供給の危機が生じていることも指摘しておきたい。New York Timesによれば、今回のCOVID-19パンデミックによって医薬品メーカが抗生物質やビタミン剤の製造に不可欠な原材料の調達が難しくなっていることを報じている。原材料の多くを中国に頼っていた世界中の製薬企業がこの問題に直面している。さらにインドは3月頭に国内の製薬企業に対して26種類の基本的な医薬品の輸出を禁止した。これらの輸出が禁止された医薬品の多くがジェネリック医薬品であり、世界中の医薬品供給が逼迫しつつある(注)。

このように不可欠な社会インフラが毀損したり、グローバル規模に拡大したサプライチェーンが機能停止したりすると、現代社会は意外とあっさりと壊れ始めるのである。

■科学文明を成立させる根本的な原理とは

さて、同書の白眉は最終章の「最大の発明」だろう。この章では「科学的方法」の重要性が改めて強調される。

科学は自然現象を観察し、その背後にある規則性を見出すことで発展する。その際に大前提として必要となるものが「標準化された計測体系」であるという。例えば何かを観測した人がいたとして、その観測結果を他の人に伝えるには両者に間で「単位」についての共通認識がなければいけない。そして現代社会の科学ではそれらの計測単位を「SI(国際単位系)」として規定している。このような共通化された単位系が不可欠だという指摘は目からうろこだった。

また、観測の単位系が定められるのと並行して進めなければいけないことが、観測機器の開発である。最初は単純な観測(例えば長さや重さを測る)にとどまる科学も、そのうち新たな領域に踏み込んでいく。その際に必要とされるのは未知の現象を測定する観測機器の開発である。それは電流計であり、正確な時間を測る精密時計であり、X線撮影機である。このような観測機器を発達させることも科学の再構築には不可欠である。

そして、科学的な方法を著者は一文で言い表す。

「科学は自分が何を知っているかを並べているわけではない。むしろ、どうやってわかるようになるかに関するものなのだ(強調筆者、原文では傍点)」(p.306)

この立場に立つことで、科学は常に観察と理論、仮説と検証の間で批判的なサイクルを繰り返す。そしてこの健全なサイクルを堅持することこそが科学なのである。このサイクルが壊れてしまうと、人類の「科学」は容易に「迷信」や「魔法」に飲み込まれていくだろう。そして、この科学的態度を意識して維持することは、今の状況でまさに求められていることだろう。われわれは「正しく怖がる」ことを身に着けなければならないのだ。

『Dr. STONE』

[原作]稲垣理一郎
[作画]Boichi
[発行日](単行本)2017年7月4日発行(第1巻)~
[出版社]集英社
[定価]440円+税

さて、もっと気楽に文明再興を楽しもう。それには現在も週刊少年ジャンプで連載中の『Dr. STONE』がいいだろう。物語は「一瞬にして世界中すべての人間が石と化す、謎の現象に巻き込まれた人類。数千年後──。目覚めた大樹とその友・千空はゼロから文明を作ることを決意する!! 空前絶後のSFサバイバル冒険譚」というものだ。

この物語の主人公である千空(せんくう)は、超絶優秀な科学オタクの高校生である。彼は自分の頭の中の膨大な科学知識を駆使し、人工物がほぼ消滅した「数千年後の地球上」に再び科学文明を立ち上げるのである。石器を作り、土器を焼き、灰からアルカリ成分を取り出し、樹木から繊維を取り出して服を作る。そして徐々により高度な科学を構築していく。

硫黄の発見によって黒色火薬を作ったり、合成抗菌剤であるサルファ剤を精製したり、鉄の精錬、水車による動力確保といった段階を経て、ついには無線通信、つまり「ケータイ」を開発しようとする。一方で、科学技術の復興を阻む勢力との対決などなど、とにかく面白い。

まだ物語は続いているので結末がどのようになるかはわからないが、これは読んでいて抜群に面白い。現在、単行本は15巻まで出ている。今から読み始めても簡単に追いつける量だ。読むべし。

また地上波などでアニメも放映されていたが今は放映していない。見るならNetflixなどでイッキ見をおすすめする。現在はシーズン1の全24話(単行本で言えば1~7巻相当)が制作されている。二期の制作も正式決定されたので(放送時期等は未定?)、このタイミングで是非。もしお子さんがいるのであれば一緒に見るのもおすすめだ。

(注)Vindu Goel, New York Times, March 3, 2020. “As Coronavirus Disrupts Factories, India Curbs Exports of Key Drugs

執筆者情報

  • 柏木 亮二

    金融イノベーション研究部

    上級研究員

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