フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 まん延防止措置延長の追加経済損失と東京五輪観客制限見直し・無観客開催による経済効果減少の試算

まん延防止措置延長の追加経済損失と東京五輪観客制限見直し・無観客開催による経済効果減少の試算

2021/07/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

1都3県のまん延防止措置は1か月延長の方向

7月8日に政府は、6月21日に9都府県に適用され7月11日に期限を迎える「まん延防止等重点措置」を延長するかどうかを決める見通しだ。それに合わせて、重点措置が延長された場合には、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委が8日にも国際オリンピック委員会(IOC)などとの5者協議を開いて、大会の観客制限についての決定を行う。連動したこの2つの大きな決定が、8日にも一気に下される見通しだ。

まん延防止等重点措置については、足元での感染拡大を受けて、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象として、重点措置の期限が延長される方向で政府内での調整が進んでいる。

政府は東京など9都道府県に対して、緊急事態宣言から移行したまん延防止等重点措置を、沖縄県には緊急事態宣言をそれぞれ7月11日まで発令している。東京都以外の8道府県については解除される可能性の方がやや高いとみられるが、延長(沖縄県はまん延防止等重点措置に移行)される可能性も残されている。

まん延防止等重点措置が延長される場合には、東京五輪が閉幕する8月8日以降までの1か月程度とする案が有力なようだ。まん延防止等重点措置は、時短要請・命令の対象業種が飲食業などに限られる一方、緊急事態宣言のように休業の命令はできない等の違いはあるものの、規制の度合いにおいて格段に大きな違いはない。ただし、心理的な影響に違いが生じる面もあるだろう。

以下では、まん延防止等重点措置のもとで都道府県の命令に応じない事業者に課される過料(軽い行政罰)が20万円以下と緊急事態宣言の30万円以下の3分の2であることを踏まえ、経済活動への影響も3分の2程度になる、との仮定のもと試算する。

1都3県まん延防止措置1か月延長で追加の経済損失は9,500億円

3回目の緊急事態宣言による経済損失の規模は、沖縄県の宣言が11日に終了する場合には、3.2兆円と試算できる(コラム「東京都などの緊急事態宣言解除と東京五輪の観客数制限の経済効果」、2021年6月17日)。

一方、9都府県を対象に6月21日に適用され7月11日に期限を迎えるまん延防止等重点措置による経済損失は、上記の前提に従うと8,690億円となる(図表1)。

一方、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象として重点措置の期限が延長され、8月11日まで1か月続く場合を想定すると、その経済損失は9,490億円となる。ちなみに、これと7月11日までの9都府県でのまん延防止等重点措置による経済損失を合計すると、1兆8,180億円となる(図表2)。

以上がメインの想定であるが、仮に、大阪、兵庫、北海道など緊急事態宣言からまん延防止等重点措置に移行した9都府県全体で延長される場合の経済損失は、首都圏3県と合わせて1兆7,490億円となる。さらに、東京都のみ1か月間の緊急事態宣言が発令されるケースを考えると、経済損失は1兆9,910億円となる(図表2)。

また、1都3県に、延長を政府に要請する方針を示している大阪府を加えた5都府県でまん延防止等重点措置が1か月延長される場合の経済損失は1兆1,335億円だ。

(表1)緊急事態宣言、まん延防止措置の経済損失(実績見込み)

 

(表2)まん延防止措置の経済損失見通し

観客受け入れ上限5,000人で東京五輪の経済効果は987億円減少

東京五輪・パラリンピック組織委員会、政府、東京都、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の代表者は、6月21日に観客数の受け入れに関して5者会談を行い、すべての会場で収容定数の50%以内で1万人を上限とすることを決定した。このルールに従った場合、収容定数に対して、実際に受け入れる観客数の比率は39.1%となり、東京五輪開催の経済効果は890億円減少する計算となる(コラム「東京五輪の観客制限で経済効果は890億円減少」、2021年6月22日)。

ただし、これは東京五輪開催までにまん延防止等重点措置が解除されることが前提での決定だった。政府が8日に大会開催地となる首都圏1都3県のまん延防止等重点措置の延長を決めればその前提は崩れ、観客制限ルールの見直しが必要となる。

政府の大規模イベント制限方針に準じた「定員の50%以内で最大5千人」とし、上限5千人のルールに抵触するプログラムでは、改めて抽選を実施する方向で議論がなされていると報じられている。上限5千人で改めて抽選を行うことは技術的に難しいことから、チケット購入者が5千人を超えている大規模会場のセッション(時間帯)を無観客とする方向、との報道もあったが、現状では再抽選が行われる方向のようだ。

すべての会場で収容定数の50%以内の観客を受け入れるとともに、上限を5,000人とする場合で計算すると、収容定数に対して、実際に受け入れる数の比率は32.8%と3分の1以下となり、東京五輪開催の経済効果は987億円減少する計算となる(表3、③)。現在のルールである上限1万人の場合の経済効果の減少894億円から、さらに減少幅が大きくなる。

ちなみに、定員が1万人以上(半数で5,000人以上)の大規模会場が無観客となるケースも計算してみると、経済効果の減少は1,198億円に達する。


(表3)東京オリンピック・パラリンピック観客制限による経済効果の減少

無観客開催で経済効果は1,468億円減少

しかし現在の厳しい感染状況を踏まえれば、8日の5者協議で無観客開催が決まる可能性も十分に考えられる情勢となってきた。あるいは、その時点では上限5,000人と決めても、早期に無観客開催へと変更を決める可能性もあるだろう。

無観客開催の場合には、経済効果は1,468億円減少する(表3、⑤)。それでも、観客をすべて受け入れる形での大会開催の経済効果が、8.1%減少するに過ぎない(コラム「東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円」、2021年5月25日、「東京五輪の観客制限で経済効果は890億円減少」、2021年6月22日)。

観客制限の強化や無観客方式での開催によって、大会開催の意義や、その経済効果が大きく損なわれることはない。他方で、観客制限の強化や無観客開催によって感染リスクを低下させることができるのであれば、それは十分に正当化される判断となるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn