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ロシアの戦争犯罪を追及する先進国と対ロシア追加制裁強化、ロシア側の報復措置

2022/04/04

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戦争犯罪の捜査がロシアの国内世論に影響を与える期待も

ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のプチャなどの都市で、多数の民間人が殺害された疑いが浮上している。そうしたなか、先進各国は、ロシア軍の戦争犯罪を追及する姿勢を強めるとともに、対ロ追加制裁を検討し始めた。

ドイツのショルツ首相は3日に、西欧諸国が連携してロシアへの追加制裁を数日中に実施することになる、との見通しを示した。ランブレヒト独国防相も、ロシア産天然ガスの輸入禁止についてEUで改めて議論すべきだ、との考えを示している。EUは3月24~25日の首脳会議でロシアへの追加制裁について協議したが、天然ガスの輸入禁止などで意見が割れて合意できなかった、という経緯がある。

英国のジョンソン首相も3日、露軍の行動は戦争犯罪との認識を示し、対ロ制裁とウクライナへの軍事支援を強化する意向を示した。

米国のブリンケン国務長官は「ウクライナで何が起き、誰にどれほどの責任があるのかを評価するのに必要な情報をすべて記録し、関係する機関や組織に提供する」と語った。これは、戦争犯罪の捜査を行う国際刑事裁判所(ICC)に協力する考えとみられる。米国は、従来ICCに批判的であったが、ここにきて態度を一変させている。

ICCのカーン主任検察官は、英国やフランス、ドイツなど、ICCの設立条約である「ローマ規程」締約国の付託を受けて、戦争犯罪や人道に対する犯罪について捜査を始めたと発表した。

仮に戦争犯罪と認められても、実際にプーチン大統領らが逮捕、訴追される可能性は低い。しかし、ICCでの審理を通じて明らかにされていく多くの真実が、国際社会でのロシア批判を一段と高めることにつながり、また、それがロシア国民に徐々に伝わることによって、ロシア国民が政府批判を強めることなど、国内世論の変化につながっていく可能性も考えられるところである。

日本もロシアからの原油・天然ガスの輸入停止に追い込まれる可能性

先進国による追加制裁では、EUによるロシアからの天然ガス(及び原油)の輸入禁止が含まれる可能性が出てきた。これは日本にとっては頭の痛い問題である。日本政府は、ロシアからの原油、天然ガスの輸入の相当部分を占め、日本が権益を持って進めているプロジェクトのサハリン1・2から撤退しない方針を明らかにしている。

しかし、仮にEUが天然ガス(及び原油)の輸入禁止を決めれば、日本も国際協調の観点から、それに同調せざるをえなくなるのではないか。既に米国とカナダは、ロシアからの原油、天然ガスの輸入禁止を決めており、また英国も段階的にロシアからの原油を削減することを決めている。EUと日本がロシアからの天然ガス(及び原油)の輸入禁止を決めれば、天然ガス及び原油の価格が一段と高まることは避けられない(コラム「石油備蓄協調放出がロシアの輸出減少分を補うことができるかは不透明」、2022年4月4日)。

また、先進国による追加制裁に対して、ロシア側からの報復措置の実施も予想される。ロシアは、いわゆる「非友好国」に対して、天然ガスの輸入代金をルーブルで支払うことを要求している。応じない場合には、天然ガスの供給を停止すると脅しているのである。現時点では日本はその対象に入っていないが、将来的には加えられる可能性もある。主な目的は、ルーブルの需要を作り出すことでルーブルの価値安定をはかることだが、これには、先進国に対する嫌がらせという報復の側面もあろう(コラム「ロシアが新たな枠組みで天然ガスの代金ルーブル払いを再度要求」、2022年4月1日)。

さらにロシア政府は、輸入国のルーブル支払いの対象を、天然ガス以外にも広げていく考えである。そこには、原油、鉱物、レアアースなどの資源も含まれる可能性がある。ルーブルでの支払いを拒めば、供給を停止するとの姿勢をロシアは示すだろう。ロシアへの依存度が4割以上であるパラジウムの調達が難しくなれば、日本の自動車生産などにも大きな打撃となる。

戦争犯罪問題で対ロ制裁は長期化へ

今回、先進国側がロシアの戦争犯罪を問う姿勢を強めた結果、仮にウクライナとロシアの間で停戦合意が成立し、ロシアの軍事行動が沈静化しても、先進国側からの制裁措置は解除されない可能性が高まった。また、多くの海外企業がロシア関連ビジネスから撤退する流れも変わらないだろう。海外投資家がロシアの証券への投資から手を引く流れも変わらないだろう。こうして、世界から孤立するロシア経済の低迷は長く続くことになるはずだ。

ロシアの通貨ルーブルが安定を取り戻してきていることが、対ロ制裁が有効でないことを示唆している、との一部の見方に反論して、ブリンケン米財務長官は、ルーブルの安定はロシア当局による規制による人為的なものであり、長続きしないと発言している。この先、5月にかけてロシア国債のデフォルト懸念が再度高まる可能性があることに加えて、ロシア経済の低迷と物価高傾向を映して、ルーブルには再び下落圧力がかかることが見込まれる。ルーブルは長期の低下傾向を示すことになるのではないか(コラム「デフォルト瀬戸際の状態が続くロシア:4月4日の次は5月27日がXデーか」、2022年4月1日、「ルーブルは官製相場の様相」、2022年3月31日)。

(参考資料)
「米、露の戦争犯罪追及へ 国務長官、5~7日訪欧」、2022年4月4日、産経新聞速報ニュース
「誰がプーチン大統領を裁けるのか?戦争犯罪とは 国際刑事裁判所(ICC)の役割とは…」、2022年4月4日、東京新聞速報版
「ロシア軍の民間人虐殺非難=「戦争犯罪」問う姿勢―欧州」、2022年4月3日、時事通信ニュース

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