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円安加速のリスクを高める大型経済対策と金融緩和維持の日本型ポリシーミックス

2022/10/27

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再び繰り返される「数字ありき」の経済対策

政府は10月28日に経済対策を閣議決定する予定だ。その経済対策の裏付けとなる第2次補正予算の規模について、自民党からは29兆円を超える、との見方が出ている。経済対策の規模は次第に上積みされる方向にあり、具体的な施策よりも全体の規模が重視される「数字ありき」の政策が、再び繰り返されようとしている(コラム「電力・ガス料金支援策と大型経済対策の問題:繰り返される数字ありきの経済対策、英国同様に円安加速のリスクも」、2022年10月24日、「物価高対策の経済効果試算アップデート:年間GDP+0.5%、経済対策全体では+1.7%」、2022年10月26日)。

内閣府の試算で15兆円程度となっているGDPギャップを根拠に、大型経済対策を主張する声が与党内には強いが、これは誤った考え方だ(コラム「需給ギャップを根拠に経済対策の規模を議論するのは誤り」、2022年10月7日)。日本経済は感染問題を乗り越えつつあり、その結果、現在の日本経済は他の主要国と比べても安定している。経済対策による景気支援は必要ではない。

英国で大型減税策が金融市場の大きな混乱を招いたことから、各国では財政健全化の重要性が改めて認識されるようになった。そうした中、主要国で最も財政環境が悪い日本で、財政拡張策が強化されていることは奇異に映る。

また、それは金融市場に悪影響を与えるリスクを包含していよう。特に警戒されるのが、円安を加速させてしまうリスクである。今回の経済対策の柱は、電気・ガス値上げに対する支援策、いわゆる物価高対策であるが、経済対策が円安傾向を後押しし、物価高圧力を高めてしまえば、政府自らが、政策効果を台無しにしてしまうことになる。

為替の安定を巡って整合的でないポリシーミックス

政府は物価高による国内経済への悪影響に配慮して、今回の経済対策を実施する。他方で日本銀行は、2%の物価上昇率を安定的に達成できる条件が整っていないとし、国内経済にも配慮して異例の金融緩和を維持している。政府と日本銀行の間では、物価情勢に対する認識には温度差があるものの、国内経済への配慮、という点では足並みが揃っていると言える。

他方で、為替に関わる施策では、政府と日本銀行の足並みは全く揃っていない。表面的には、「為替の過度の変動は経済に悪影響を与え望ましくない」との見解では一致しているよう見えるが、政府は、本音のところでは、物価高を助長する円安の流れを止めたいとの思いがあって為替介入を実施している。他方、日本銀行は円安進行を深刻な問題とは捉えておらず、為替の安定に配慮した金融政策の修正を強く拒んでいる。為替の安定を巡っては、政府の為替介入と日本銀行の金融緩和維持は、整合的でないポリシーミックス(政策の組み合わせ)となっているのである。

政府と日本銀行のポリシーミックスが円安を加速させてしまうリスク

政府が財政環境の一段の悪化を伴う大型経済対策を決めても、英国のように国債利回りが大幅に上昇することにはならないだろう。日本の物価上昇率が英国よりもかなり低いことも一因であるが、それよりも、経済の潜在力が低迷しているという日本の経済ファンダメンタルズが、低金利環境を強く支えているためである。他方で、大型経済対策は通貨の信認には悪影響を与える可能性がある。財政の悪化は財政・国債への信認低下を助長し、通貨の信認低下につながっていくためである。

ここで、異例の金融緩和を維持する日本銀行の金融政策と、政府の財政拡張策がともに通貨の信認を低下させるポリシーミックスが成立するのである。それは、悪い円安を加速させる可能性がある。またそれがさらなる物価上昇圧力となれば、経済への悪影響も強まっていくだろう。結局、政府、日銀共に重視する国内経済の安定に逆行するポリシーミックスが図らずも実施されることになってしまうのである。

このように日本のポリシーミックスは、政府と日本銀行の間での足並みの乱れを伴いつつ、非常に複雑な形で成立している。しかし、それは、政府、日本銀行の双方ともが最終的に目指す経済・物価の安定という目標を、自ら遠ざける結果となってしまうだろう。

経済・物価の安定のために最適なポリシーミックスとは

他国では、多くの中央銀行が米国に追随して大幅利上げを続けてきた。それは中央銀行が、物価高を助長する自国通貨安の回避を目指し、為替の安定を最優先してきたためだ。しかしその結果、大幅な利上げが各国経済に強い逆風となっているのが現状だ。

中央銀行が、金融引き締めで為替・物価の安定を狙う一方、政府は財政拡張を行って経済の安定を図る試みは、英国で失敗した。そこで、今後は、国内経済に配慮して利上げのペースを落とす傾向が見られ始めている。オーストラリアやカナダで予想外に小幅な利上げが実施されたのは、その例である。

利上げ幅の縮小は、為替の安定に悪影響を与える可能性があるが、各国は日本に続いて単独の為替介入を実施し、小幅な利上げと為替介入という新たなポリシーミックスを模索し、引き続き為替と物価の安定を狙う可能性があるのではないか。

他方、日本では、経済・物価の安定のために最適なポリシーミックスは、財政規律の維持と、為替の安定に配慮した日本銀行の金融政策の修正・柔軟化である。しかし実際には最適なポリシーミックスは採用される可能性は低く、共有された政策目標の達成のために政府と日本銀行が足並みを揃える最適なポリシーミックスの実現は全く見えてこない。

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