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日本経済はコロナ問題を乗り越え安定成長軌道に:来年は一転して世界同時不況の強い逆風(7-9月期GDP見通し)

2022/11/11

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感染再拡大の下でも安定した成長を実現

内閣府は11月15日(火)に7-9月期GDP統計(1次速報)を発表する。ESPフォーキャスト調査(10月)の平均値によると、同期の実質GDPの前期比年率増加率は+1.4%と、4四半期連続のプラス成長が予想されている。また、主要需要項目の前期比は、実質個人消費が+0.3%、実質設備投資が+1.1%、実質輸出が+1.0%と、バランスのとれた安定した成長の姿が予想されている。前期に落ち込んだ米国、中国向けの輸出は、サプライチェーンの混乱が緩和される中で持ち直している。

同期には感染拡大の第7波が生じたが、重症化率の低さなどを理由に、政府は非常事態宣言、蔓延防止等重点措置といった規制措置の導入を見送った。そのため、感染拡大の下でも個人消費は安定した推移を続けているのである。昨年までは、感染が再拡大するたびに、実質GDPは前期比でマイナスに陥っていたことを踏まえると、日本経済はようやくコロナ問題を乗り越えつつあると言えるだろう。他方で、従来期待されていた個人消費の急速な回復、いわゆるリベンジ消費は生じておらず、この先も期待できない。

水際対策緩和、全国旅行支援などが年内のプラス成長持続を支える

このプラス基調は、現在の10-12月期も続く可能性が高い。ESPフォーキャスト調査(10月)の平均値によると、10-12月期の実質GDPは前期比年率+2.2%と前期を上回る見通しとなっている。10月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIは、4か月連続で上昇しており、回復のモメンタムは10-12月期も続いているだろう。

また10月には水際対策緩和が導入され、インバウンド需要が増加している。これは、10-12月期の名目GDPを前期比で924億円程度押し上げる、と試算される(コラム「世界の海外旅行の回復と水際対策緩和後の日本のインバウンド需要見通し:2023年2.1兆円」、2022年10月6日)。またこれは、10-12月期のGDPを前期比で0.1%押し上げる計算となる。

さらに、年末にかけて実施されている全国旅行支援は、10-12月期の個人消費を4,464億円押し上げると試算される(コラム「「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は4,464億円」、2022年10月11日)。これは、10-12月期のGDPを前期比で0.33%押し上げる計算となる。

大型経済対策ではなく中長期の物価高懸念を抑える政策が重要

このような政策面での追い風も受け、10-12月期も安定した成長が続く中で、政府は一般会計ベースで29兆円規模の大型経済対策を決定した(コラム「経済対策経済効果試算値アップデート(GDP押し上げ効果は2.39%)」、2022年10月28日)。これは、GDPを+2.39%程度押し上げると試算される。しかし現在の経済状況下で、このような大型経済対策は必要ないだろう。

また、この経済対策の柱は、補助金を通じてガソリン、電気、ガスの価格上昇を抑える物価高対策であるが、それは一時的な効果でしかない。より重要なのは、物価高騰が長期化するとの懸念を高めないことであり、それは、金融政策が担うべき領域だ。

+3%に達する現在の物価上昇率は、賃金上昇率を大きく上回っており、個人消費には逆風である。賃金上昇率を決める日本経済の潜在力、いわゆる日本経済の実力に照らして、現在の物価上昇率は高すぎる状況だ。この状態が続けば、消費者の物価上昇率見通しはさらに上振れ、個人消費は一気に悪化する可能性があるだろう。物価高の主因が、海外のエネルギー・食料品価格の上昇から円安に移るなか、日本銀行の金融緩和姿勢の下で、円安傾向が今後も続き、物価高が長期化してしまうことを、消費者は心配しているのではないか。

こうした状況下では、金融政策を通じて、さらなる物価上昇を食い止め、個人の物価上昇率見通しが一段と高まることを防ぐ、というメッセージを中央銀行が送ることが求められる。米国で行われているような急速な金融引き締め策を日本で実施することは現実的ではないが、物価の安定回復に向けた意思を日本銀行が改めて示すことが、経済の安定維持には必要だろう。

日本銀行が現在の硬直的な金融政策をより柔軟な政策に修正し、例えば長期金利の上昇を一定程度認めれば、物価高を助長する悪い円安が長期化するとの個人の懸念は緩和され、個人消費にプラスの影響を与えるだろう。しかし、実際には、来年4月まで続く黒田総裁のもとでは、日本銀行が政策を修正するあるいは正常化する可能性は低い。

各国の大幅利上げで高まる世界同時不況入りの可能性

世界経済の減速見通しを受けて、原油など商品市況には下落傾向が見られ始めている。この点から、歴史的な物価高は今後緩やかに鎮静化していくことも見込まれるところだ。しかしそれが、世界経済の安定化に直ぐに結びつくことはないだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)は、物価高を定着させない強い覚悟で政策運営に臨んでいる。そのため、景気減速の兆候が広がり、また物価上昇圧力が多少和らぐ兆候が見られても、容易には金融緩和に転じないだろう。あるいは、金融緩和に転じてもそのペースは緩やかとなりやすい。そうした過程で、米国経済は一段と下振れることになるのではないか。

他方、物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと、各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命に付いていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしている。

しかし多くの国、特に欧州の国々は、米国よりも景気情勢が厳しい。そうした中で米国の急速な利上げに追随すれば、国内景気は犠牲となってしまう。こうした世界同時の大幅利上げ状態の下、先行きの世界経済は悪化し、世界同時不況入りの可能性が高まっているように思われる。

日本経済のリスクは物価高から世界経済の悪化に

日本経済は現在のところは比較的安定しているものの、海外経済が顕著に悪化すれば、日本経済だけが安定を維持することは難しい。国際通貨基金(IMF)の10月の世界経済見通しで、2023年の実質成長率予測値は、日本が+1.6%と米国の+1.1%、ユーロ圏の+1.0%を上回っているが、主要国の経済が後退局面に入れば、日本だけが安定した成長を維持できる見込みはほとんどない。

海外経済が悪化し、FRBの金融緩和期待が高まる中では、為替市場では急速な円の巻き戻しが生じる可能性があり、それが株価下落を伴って、日本経済に強い逆風となる。震源地ではない日本の経済が他国よりも悪化することは、過去の世界経済悪化時にしばしば見られたことだ。

足元の日本経済は他の主要国よりも安定しているが、それは長く続かないだろう。日本経済にとってのリスクは、当面の物価高から、来年にかけては世界経済の悪化に転じていくことになる。

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