デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるためには、最初にしっかりとしたデジタル戦略を策定することが重要です。第1回目では、そのために知っておきたい、DXについての基本的な知識をお伝えします。
連載「DX相談ルーム」では、DX推進担当者と、そこに伴走するNRIのシステムコンサルタントの対話を通じて、DXに関して、多くの方が抱く悩みや疑問にお答えしていきます。
※ DX推進担当者は架空の人物です。
話し手:コンサルタント 松延 智彦
1997年銀行系シンクタンクへ入社後、大手システムインテグレータを経て、2004年NRIに入社。ITマネジメントコンサルティング部にてIT組織改革、IT戦略策定、ITガバナンス確立、ITサービスマネジメント改善、情報子会社改革等を数多く手がけるとともに、企業のデジタル変革に向けたコンサルティングや情報発信を行う。
「DXに取り組む」とは?
DX推進担当者
先日、DX担当になったばかりです。前任者からある程度は引き継ぎましたが、わからないことだらけで、いまDXの基本から勉強しています。
そもそも「DXに取り組む」とは、どういうことなのでしょうか?
松延
DXという概念は、元々は「デジタル技術が人間の生活の全ての側面に引き起こす変化」という大きな考え方です。もう少しビジネスの視点で解釈すると、「DXに取り組む」というのは、大きく2つのことに取り組むことだと思います。
ひとつは業務もしくは事業を、さまざまなデジタル技術を用い、変革していくことです。これらを業務や事業のデジタル化と呼びます。
もうひとつが、こういったデジタル化を実現できる組織能力を高める取り組みです。我々は、この能力をデジタルケイパビリティと呼んでいます。従来持っていた組織能力に加え、デジタルケイパビリティを高める必要があります。
DX推進担当者
DXという言葉は近年聞くようになりました。でも、手作業で行っていた給与計算をシステム化して、自動的に計算するといったことは、随分前から行われてきましたよね?
松延
そうですね、おっしゃったような、業務のプロセスをITによって効率化したり、情報を共有する取り組みを、先ほどのデジタル化との対比で「IT化」と呼んでいます。このIT化とデジタル化は混同されがちです。
デジタル化は、データを源泉として知に転換し、新たな価値を、顧客や社員、ひいては社会へ提供していくことです。具体例を挙げると、センサーやスマホなど、さまざまなところからデータを取得し、そのデータをAI等で分析し、商品のレコメンデーションや人間が行っていた判断業務の自動化、自動運転に用いたりします。
DX推進担当者
IT化とデジタル化はちがうものだったんですね。
松延
はい。ただ、シーンによっては、IT化とデジタル化をきちんと分けないこともあります。日本では、米国や欧州の企業と比較してIT投資を充分に行ってこなかったことから、「DXという言葉のほうが予算を取りやすい」などの都合で、「IT化」への投資もDX投資に含んだりすることがあります。ただし、どのような価値を生みだすのかという視点で、2つの違いはしっかりと認識しておくことが重要です。
さらに、従来のIT化と、デジタル化とでは、これを実現するために必要な組織能力にも違いがあるため、注意が必要です。
「DX」は具体的にはどこから着手?
DX推進担当者
DXに取り組むとき、何から始めるのが、適切なのでしょうか?
松延
DXという言葉は、抽象度が高いため、それぞれの組織ごとに「データやデジタル技術を活用して、どの業務もしくは事業を、どのように、どの程度変革したいのか」、目指す姿を明確にすることが一番重要です。ぜひ、そこから始めてください。
DX推進担当者
DX担当になってから、「DXで何ができるのか?」と考えていました。そうか、DXが目的になってしまっていましたね。
でも、自分達が何を成し遂げたいのか、そこから考えるべきなんですね。
松延
企業という単位で考えると、目指すものはそれぞれです。データやデジタル技術によって、新たなビジネスモデルを創造したい企業もあれば、それよりも既存業務を変革したい、働き方を変えたいという企業もあります。これらをどう重みづけするのか、ということがDXのはじめの一歩になるはずです。
DXを考える際、デジタル技術の適用にばかり目が行き、技術をどう活用出来るかという手段が目的化しがちです。しかし、重要なのは、業務や事業の変革です。デジタル技術の可能性を理解したうえで、自社は何をどう変革したいのか、ぜひ、そこから考えてください。
今回は、DXとは何なのか、DXに取り組む際に大事なことは何なのか、どこから始めればいいのかなど、基礎の基礎をご紹介しました。
次回は、「DX推進における陥りがちなワナと対策」をお届けします。
執筆者情報
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