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2023年のインバウンド需要は4.96兆円と早くもコロナ前を上回る予想

2023/02/21

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訪日外客数が2019年同月の水準を取り戻すのは引き続き2024年2月と予想

昨年10月の水際対策緩和以降、海外からの旅行客は急速に戻っている。昨年9月時点で訪日外客数は、コロナ前の2019年の同月と比べて-90.9%、つまり10分の1の水準に留まっていたが、10月以降は予想外に急回復を遂げている。最新の今年1月の訪日外客数は2019年同月比で-44.3%と、半分以上の水準まで回復したのである(日本政府観光局「訪日外客数」)。

昨年10月時点で筆者は、訪日外客数が2019年同月の水準を取り戻す時期は2024年10月と、2年先になると予測していた(コラム「世界の海外旅行の回復と水際対策緩和後の日本のインバウンド需要見通し:2023年2.1兆円」、2022年10月6日)。しかし、その後の統計は、予想以上に訪日外客数の回復ペースが速いことを示したのである。

そこで筆者は、昨年12月時点で予測を修正し、訪日外客数が2019年同月の水準を取り戻す時期を新たに2024年の2月とした(コラム「水際対策緩和後の外国人観光客は予想以上に増加:2023年インバウンド需要予測を3.5兆円に上方修正」、2022年12月27日)。

さらに今年1月までの数字を踏まえて、今回予測を再度修正した。2019年同月比の数値に基づく推計から、訪日外客数の数値に基づく推計へと、手法も変更した。1月の訪日外客数の前月比+9.3%の半分のペースで今後も増加を続けるとの前提で計算すると、2019年同月の水準を取り戻す時期は前回の予測と同様に、2024年の2月となった(図表)。

図表 水際対策緩和後の訪日外国人観光客数の見通し

一人当たりの消費額は上振れ

訪日外客数が当初の予想を上回るペースで回復していることに加えて、もう一つ予想外であるのは、訪日外客数一人当たりの消費額が思いのほか増加していることだ。観光庁の昨年10-12月期の訪日外国人消費動向調査によると、同期の消費額、いわゆるインバウンド需要は5,952億円となった。これを同期の訪日外客数で割ると、一人当たりの消費額は21.2万円となる。これは、コロナ前の2019年15.9万円を上回っている。

コロナ前には一人当たりの消費額の平均値が最も多かった中国からの訪日客数がまだ低位に留まる中、一人当たりの消費額がコロナ前の水準を上回ったのは予想外のことだ。

消費額の上位を占めるのは、第1が韓国、第2が香港、第3が米国、第4が台湾、第5が中国である。2019年10-12月時点では中国人の消費額は訪日外客全体の32.1%と約3分の1を占めていたが、2022年10-12月期では全体の7.7%に留まっている。

また品目別消費額に注目すると、2022年10-12月期には宿泊費が全体の33.8%と2019年同期の30.1%を上回る傾向が特徴的だ。

2023年インバウンド需要は4兆9,580億円(GDP0.9%押し上げ)に

2022年10-12月期の訪日外客の一人当たりの消費額と先行きの訪日外客の予測値を用いて試算すると、2023年1年間のインバウンド需要は4兆9,580億円となる。コロナ前の2019年のインバウンド需要4兆8,135億円を、早くも2023年に超える計算だ。さらに政府が目標に掲げる5兆円も、2023年にほぼ達成できることになる。

4兆9,580億円のインバウンド需要によって、2023年の(名目及び実質)GDPは前年比+0.89%増加する計算だ。インバウンド需要が再び日本経済に大きなプラスの効果をもたらす。

政府はインバウンド需要の高付加価値化を目指す

観光庁は先般、「新たな観光立国推進基本計画の素案」をまとめた。同基本計画は、コロナ後の新たなインバウンド戦略を示すものだ。

そこでは、訪日外客の一人当たりの消費額をコロナ前よりも増加させる「高付加価値化」が目標の一つとして掲げられている。この高付加価値化は、コロナ後の新たなインバウンド戦略として適切なものだろう。

素案では、2025年に訪日外客の一人当たりの消費額を2019年の15.9万円から20万円にまで高めることを目指す。既に見たように、2022年12月期の訪日外客の一人当たりの消費額は21.2万円と、目標を達成している。しかし、これが持続的であるかどうかはまだ分からないことから、政府には戦略的に高付加価値化を後押しすることが望まれる。

訪日外客が急増する一方、日本人の海外旅行の回復ペースは鈍く、国内旅行へのシフトが続いている。その結果、訪日外客数が増加すれば、国内で宿泊施設の不足が早期に深刻化する可能性があるだろう。そうなれば、外国人観光客、国内観光客ともに不満を高めることになる。

訪日外客の回復を受けてホテル、旅館の新規建設が増えていくことも期待されるが、観光客受け入れのキャパシティ拡大には時間がかかる。キャパシティの制約から、訪日外客の増加ペースも来年には大きく落ちていく可能性もあるだろう。そうした中、インバウンド需要を日本経済の成長の原動力として活用し続けるためには、一人当たりの消費額を増加させることが必要となる。

コロナ前に比べて2022年10-12月期に訪日外客の消費額の比率が顕著に増加したのは、既に見たように宿泊額である。国ごとに訪日外客の消費額の構成を見ると、アジア諸国からの訪日客は、宿泊費よりも買い物代などにお金を使う傾向がみられる。他方、米国、英国など欧米諸国からの訪日客は、相対的に宿泊費にお金をかける傾向がみられる。

欧米諸国からの訪日外客受け入れを一層推進し、高付加価値の宿泊サービスを提供していくことが、インバウンド需要の高付加価値化に貢献するだろう。同時にアジアの富裕層の高級ホテル、旅館の利用を促す戦略も必要だ。基本計画の素案では、高付加価値化戦略の具体策として、IR整備の推進も掲げられている。

早期にポストコロナのインバウンド戦略の具体策を示せ

さらに訪日外客の訪問先が大都市に偏る現状を受けて、地方に誘致する方針も素案では示されている。これも適切なものだ。具体策として、国立公園の魅力向上、スノーリゾートの形成、農泊の推進などが掲げられている。訪日外客の地方誘致は、宿泊施設不足によるインバウンド需要のボトルネック緩和にも役立つだろう。

インバウンド需要の高付加価値化という「深掘り」と、訪日外客の地方誘致という「地理的拡大」の双方を軸に、日本の観光資源の掘り起こしを進め、インバウンド需要の持続的な拡大につなげていくことが重要だ。

政府は訪日外客数がコロナ前に戻る前に、コロナ前とは異なる新たなポストコロナのインバウンド戦略の具体策を示すことが求められる。

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