フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 事前予想を上回った1-3月期国内GDP:年後半には海外経済・金融悪化で景気後退のリスク

事前予想を上回った1-3月期国内GDP:年後半には海外経済・金融悪化で景気後退のリスク

2023/05/17

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

1-3月期GDPは予想を上回った

内閣府は5月17日に、2023年1-3月期GDP統計(1次速報値)を発表した。実質GDPは前期比+0.4%、前期比年率+1.6%と3四半期ぶりのプラス成長となった。さらに事前予想の平均である前期比年率+0.8%程度を大きく上回った。

予想以上の内需の好調と予想以上の外需の不振の組み合わせが特徴的であり、それは現在の日本経済の姿、そして今後の日本経済の姿を端的に示すものとなっている。

際立ったのは実質個人消費の堅調ぶりであり、前期比+0.6%と事前予想の平均である同+0.4%を上回った。前期の同+0.6%、前々期の同+0.0%から加速する形である。

また事前には2期連続でマイナスと予想されていた実質設備投資は、前期比+0.9%と予想外の増加となった。ただし、四半期の数字を均してみれば、設備投資の増勢が昨年前半から顕著に鈍化していることが確認できる。それは、輸出環境の悪化を反映したものだろう。

他方、予想外の悪化となったのは輸出である。実質輸出は前期比-4.2%となった。

基調的な成長ペースが高まったとはいえず

このように、予想外の内需の堅調さと外需の不振とが重なる中、全体としては事前予想を上回った1-3月期のGDPであったが、これで国内経済が本格的に増勢を高まるスタート時点に立った、と考えるのは楽観的過ぎよう。

前期比-0.0%とマイナスになった昨年10-12月期の実質GDPが、1-3月期には同+0.4%と上振れたことに大きく貢献したのは実質在庫投資である。その成長寄与度は、10-12月期の前期比-0.5%から1-3月期は同+0.1%と同0.6%ポイント、年率換算では2%以上もの成長率の振幅を生み出している。

しかし、成長率のトレンドは、在庫投資を除いた民間最終需要で判断すべきだ。そこで在庫投資を除く実質最終需要を見ると、10-12月期には前期比年率+1.8%、1-3月期は同+1.2%とむしろ鈍化している。国内経済は安定しつつも比較的低位のペースで成長している姿は変わらない。

家計と企業の経済活動の乖離が広がる

今回のGDP統計でも確認できるように、感染リスクの低下、政府の物価高対策、賃金上昇率の上振れ、インバウンド需要の拡大など、個人消費を後押しする要因はかなり多い。その結果、個人消費など家計の経済活動は比較的堅調である。ところが、それとは対照的に、企業、特に個人消費堅調の恩恵を相対的には受けにくい製造業の経済活動には弱さがみられる。

日本銀行が発表している実質輸出指数は、2022年10-12月期に前期比-0.4%、2023年1-3月期に同-3.3%と、悪化の度合いが深まっている。その影響が遅れて現れるとすれば、1-3月期には予想を上回った設備投資は、4-6月期には下振れるとみられる。

需要面から見た企業部門の弱さはこのようにGDP統計に表れているが、生産面では鉱工業生産の悪化で確認できる。2022年10-12月期の鉱工業生産は前期比-3.0%、2023年1-3月期は同-1.8%と2期連続のマイナスとなっており、需要面で見た輸出や設備投資の下振れと足並みを揃えている。

家計部門の堅調を反映して非製造業の活動は比較的安定する一方、企業部門の不振を反映して製造業の活動が弱いのは、日本だけでなく主要国全体に共通でみられる特徴だ。

インバウンド需要回復は1-3月期の成長率を年率+1.2%押し上げた

昨年10月の水際対策緩和を受けて、外国人観光客が急増している。筆者の試算では、2023年のインバウンド需要は5.9兆円とコロナ前の2019年の水準を上回る(コラム「中国からの入国加速で今夏にも外国人観光客数はコロナ前の水準に:2023年インバウンド需要推計は5.9兆円:供給制約解消が喫緊の課題に」、2023年4月19日)。

2023年1-3月期のインバウンド需要は前期比4,300億円増加し、同期の(名目・実質)GDP成長率を前期比年率+1.2%押し上げたと試算される。

また4-6月期のインバウンド需要は3,500億円増加し、同期の(名目・実質)GDP成長率を+1.0%押し上げることが見込まれる。さらに大型連休では国内旅行が増加し、それは国内旅行消費を2.8兆円(外国人の消費も合わせて2.9兆円)増加させたと試算される(コラム「ゴールデンウイークの国内旅行消費額は外国人も合わせ2.9兆円(年間GDP0.5%):昨年を1.1兆円上回り2023年成長率を0.2%押し上げ」、2023年4月24日)。

4-6月期の国内経済はなお安定維持

このように、感染リスクの低下を受けた個人消費の回復とインバウンド需要(GDP統計では輸出に計上される)の拡大は、4-6月期も国内経済を支えることが予想される。 他方で、大幅に減少してきた輸出は、中国経済の持ち直しなどを受けて、4-6月期にはやや安定を取り戻すとみられる。

こうした家計部門の安定維持と企業部門の下振れ緩和によって、4-6月期の国内経済も安定を維持するだろう。ただし、1-3月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.6%と上振れたことの反動などを考慮すると、4-6月期の実質GDP成長率は同+1.0%弱と現時点では考えておきたい。

堅調な個人消費を巡る環境も先行き良好とは言えない

さらに先行きの国内経済を展望すると、インバウンド需要のGDP押し上げ効果は、次第に減衰していく。7-9月期のGDP押し上げ効果は、前期比年率+0.9%、10-12月期は同+0.6%と見込まれる。

春闘での賃金上振れは足元での個人消費に好影響を与えているとみられるが、3月までの統計でみると、引き続き実質賃金上昇率(名目賃金上昇率―消費者物価上昇率)は、12か月連続で前年比マイナスとなっており、個人消費を持続的に支える要因とはなっていない。1-3月期GDP統計でも、実質雇用者報酬は前期比-1.3%の大幅下落となっており、物価高が引き続き家計の所得環境を損ねていることを示している。

6月には電力大手7社の家庭向け電力料品引き上げが実施され、6月の消費者物価は前月比+0.42%押し上げられると予想される(コラム「6月から電力料金14~38%値上げ:CPIを0.42%押し上げGDPを0.08%押し下げると試算」、2023年5月16日)。これも個人消費には逆風となる。

所定内賃金上昇率が消費者物価上昇率を上回り、実質賃金の上昇が個人消費に持続的な好影響を与えるようになるのは、早くても今年年末近くになるだろう。

海外要因によって日本経済は今年後半に後退局面入りか

一方、主要国・地域では製造業の弱さが目立っている(図表1)。3月に上振れた中国の製造業の景況感は、4月には再び改善と悪化の判断の分かれ目である50を3か月ぶりに下回った。4月の中国の経済指標は総じて下振れ、ゼロコロナ政策解除直後の強い楽観論は後退し、再び先行きの経済に慎重な見通しが出てきている。

主要国・地域の中で特に足元で弱さが目立つのは、ユーロ圏の製造業の景況感である。4月の数値は、コロナショック直後の2020年5月以来の水準まで一気に低下した。

他方、米国では、急速な金融引き締めの影響に加え、3月以来の銀行不安による資金ひっ迫傾向が、企業活動の強い逆風となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)の融資調査(4月)によると(コラム「米銀の融資基準厳格化と企業の資金需要鈍化が同時進行(FRB銀行融資調査)」、2023年5月10日)、銀行の企業向け融資基準の厳格化と企業の資金需要の悪化とが同時に進行しており、双方の要因を合わせた指数でみると、過去の本格的な景気後退と同程度まで金融環境は悪化していることが分かる(図表2)。

これらに、債務上限問題を受けた金融市場の動揺が加わることで、米国経済は今年7-9月期から景気後退局面に陥り、これを契機に主要国経済も後退局面に陥ると予想する。その場合日本経済は、4-6月期までは安定を維持した後、輸出環境の悪化によって7-9月期あるいは10-12月期に景気後退局面に陥ると見ておきたい。

輸出環境が本格的に悪化すれば、足もとで比較的安定している個人消費だけでは、日本経済は支えきれないだろう。日本の景気後退がどの程度深刻になるかは、米国での金融不安、信用収縮がどの程度強まるかにかかっていよう。

図表1 主要国の製造業景況感(PMI)

図表2 合成指数と実質GDP成長率

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn