フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 所得減税と給付金のセットとなるか?

所得減税と給付金のセットとなるか?

2023/10/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

岸田首相は20日中に、自民・公明両党の政調会長や税制調査会の幹部らと面会し、経済対策の一部である家計支援策を指示する。事前には、時限措置としての所得減税を指示する、との報道がなされていた。20日夕刻になって、時限措置としての所得減税と低所得世帯への給付金をセットで実施することを指示する、との観測を朝日新聞が報じている。

減税措置の場合には、実施するまでに時間を要することから、即時性の高い給付金と国民へのアピール度合いがより高い所得減税を組み合わせるという「二段階方式」が検討されている可能性がある。

予想外の円安進行と原油価格の上昇を受けて、仮に政府による補助金がなくなれば、先行きガソリン価格が大きく上昇し、また電気代・ガス代は徐々に上昇していくことになる。それによる国民生活への打撃を和らげる観点から、低所得者に限定して補助金を延長する、あるいは給付を行うことには一定程度の妥当性がある。

しかし、厳しい財政環境の下、生活に余裕のある高額所得者も含めて、すべての家計に対してガソリン及び電気代・ガス代の補助金制度を延長する必要があるだろうか。さらに、政府が、来年3月まで補助金を延長する方針を固めるとされる中でもなお、物価高対策として時限措置としての所得減税と低所得世帯への給付金をセットで実施するのであれば、それは政策の重複となってしまう。

物価高対策は、低所得者に限定した補助金制度、あるいは給付金に転換すべきではないか(コラム「一段と高まる減税・給付金の議論:4つの選択肢の経済効果試算」、2023年10月10日、「自民党の経済対策提言案:所得減税の明記は見送る」、2023年10月17日、「所信表明演説原案:妥当性を欠く所得減税の議論」、2023年10月18日)。

政府は、税収分の上振れを国民に還元すると説明してきた。昨年度の税収の上振れ分6兆円をベースとすると、低所得世帯への給付金に1兆円、時限措置としての所得減税に5兆円などの使い道が可能性としては考えられる。

仮に5兆円分の所得減税が実施される場合には、実質GDPを1年間で+0.25%押し上げると試算される(図表)。ただしこれは、恒久措置としての減税の効果であり、時限的措置の場合には効果は半減する。その効果は実質GDPを1年間で+0.12%押し上げる、と試算される。

減税措置は、財政負担を相応に高め、財政環境を一段と悪化させる一方、経済効果は限定的と言えるのではないか(コラム「岸田首相は期限付きの所得税減税を検討:5兆円でGDP押し上げ効果は+0.12%」、2023年10月20日)。

物価高対策としては低所得層に絞った支援策、つまりセーフティネット策とする一方、貴重な財政資源は実質賃金の上昇、国民生活の持続的な改善につながるような、「構造的賃上げ」、「労働市場改革」などの成長戦略に有効に利用すべきではないか。

図表 5兆円の減税・給付金の経済効果試算

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn