岸田首相の所信表明演説:経済重視の姿勢を強くアピール
経済重視の姿勢が鮮明に
10月23日に岸田首相の臨時国会・所信表明演説が実施された。物価高騰のもと、国民の関心は経済政策に強く注がれている。これを受け、事前に予想された通り、あるいはそれ以上に経済政策に重点が置かれた演説となった点が最大の特徴だ。演説時間の3分の2ほどが経済政策に割かれるという異例な対応となった。
ただし、最も注目を集めている所得減税については、具体的な言及はなく、なお流動的な点があることもうかがわせる。
岸田首相は演説の冒頭で、「なによりも経済に重点を置く」、「一丁目一番地が経済」などと経済重視の姿勢を強調した。そのうえで、投資と消費の好循環を作る、コストカット経済から成長型経済に転換するなど、変革を推し進める姿勢を強く打ち出した。
さらに、そうした経済の改革を進めるために、第1に供給力の強化、第2に国民への還元を掲げた。供給力の強化を第1に掲げた点は評価できる。現在、日本経済が抱える大きな問題、国民の将来不安などは、供給面での経済の潜在力、成長力の低下に深く根差しているためだ。
供給力向上策では「骨太の成長戦略」を
しかし、供給力向上策として岸田首相が例示した、賃上げ税制の強化、経済安全保障上重要である半導体など戦略物資投資の支援、特許に関する減税、中小企業の税控除拡大、省エネ、脱炭素投資支援などは、企業向け減税措置の寄せ集め的な印象が強く、成長力強化策、成長戦略としては力不足との印象が否めない。
他方で岸田首相は、構造的賃上げ実現に向けた三位一体の労働市場改革の方針を改めて示したが、この施策をもっと優先的に進めて欲しいところだ。さらに、少子化対策を通じた出生率引き上げ、インバウンド需要の持続的拡大を通じた成長期待の向上なども重要な成長戦略である。これらを一体化させた「骨太の成長戦略」を示して欲しかった。
所得減税の具体策は示されず
第2に国民への還元については、デフレ完全脱却のための一時的措置として、増収分の一部を還元する施策を行う方針とし、近く、政府与党で具体策を決定するとした。先週金曜日に岸田首相は、期限付き所得減税と(非課税)低所得層への給付を組み合わせた施策を検討するように与党幹部に指示した。
ただし、この施策については、野党からは補選対策との批判があり、また与党内でも慎重な意見があることから、なお流動的な面もあると見られ、演説の中では具体策には言及されなかった。
他方物価高対策としては、ガソリン補助金を延長して全国平均1リットル175円(レギュラー)を実質上限にすること、電気・ガス代の補助金を来年春まで継続する考えが明示された。
所得減税には大義が感じられない
現在の経済情勢の下、所得減税には大義が感じられない(コラム「期限付き所得減税の実施に大義はあるか」、2023年10月23日)。4-6月期の需給ギャップがプラスであり、消費者物価(除く生鮮食品)が最新の9月分で前年同月比+2.8%と高水準を続ける中で、減税策が必要であるとは思えない。そうした環境のもとで本来必要となる経済政策は、財政・金融政策ともに引き締め方向であるのが定石だ。
デフレ脱却を確実なものとするために時限的所得減税を実施するというのもよく分からない説明だ。さらに、歳入額が歳出額を大きく下回る環境の下で、当初見積もりを上回る税収増加分を、減税を通じて国民に還元するとの説明も説得力を欠く。また、物価高対策として実施するのであれば、ガソリン、電気代・ガス代の補助金延長と重なる施策となってしまうなどの問題もある。
国民負担に配慮し費用対効果が最大となるように
税金や国債発行で賄われる経済対策については、現役及び将来の国民の負担となることから、それが最大限有効に使われる必要がある。臨時国会では、将来まで見据えた国民目線で、費用対効果が最大となるように、慎重に経済対策を議論して欲しい(コラム「一段と高まる減税・給付金の議論:4つの選択肢の経済効果試算」、2023年10月10日、「自民党の経済対策提言案:所得減税の明記は見送る」、2023年10月17日、「所信表明演説原案:妥当性を欠く所得減税の議論」、2023年10月18日、「岸田首相は期限付きの所得税減税を検討:5兆円でGDP押し上げ効果は+0.12%」、2023年10月20日)。
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