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米中対立が追加関税の報復合戦に発展する可能性

2024/05/21

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政治色が強い中国製EVなどへの関税率引き上げ

バイデン米大統領は5月14日に、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品、鉄鋼などの中国製品への関税率を大幅に引き上げることを発表した。中国製EVについては、現状25%の関税率は4倍の100%へと引き上げられる(コラム「米国が中国製EVへの関税率を4倍に引き上げ100%へ」、2024年5月14日、「世界でEVへの逆風が強まる」、2024年5月17日)。

既に適用されている関税の影響もあり、中国製EVは米国ではほとんど流通しておらず、また、中国製鉄鋼の輸入も僅かである。それにも関わらず、不公正貿易とみなす相手国への一方的な制裁を認めた米通商法301条に基づく関税引き上げを実施するのは、11月の大統領選挙を睨んだ政治色の強い動きと考えられる。

議会や国民の間で、中国強硬論が強まっていることに加えて、バイデン大統領が注力している激戦3州のうち、ミシガン州には自動車生産が集中していること、ペンシルベニア州は鉄鋼生産の中心地であること、への配慮もあるのではないか(コラム「バイデン大統領が賭ける『青い壁』3州」、2024年5月20日)。

米国政府は、今回の対中関税率引き上げは、比較的限定された措置である点を強調している。対象となる中国製品は180億ドルであるが、トランプ前政権は3,000億ドル相当の中国製品に制裁関税を課した。

IMFやEUも米国の措置を批判

米国の関税引き上げ措置については、中国以外からも批判の声が上がっている。国際通貨基金(IMF)のコザック報道官は16日に、バイデン大統領が発表した貿易制限は、貿易と投資をゆがめ、サプライチェーン(供給網)を分断し、報復措置を引き起こす可能性がある、と指摘している。さらに「このような分断は世界経済にとって非常に大きな損失となる可能性がある」とした。

加えて、IMFが2023年に確認した世界の貿易制限措置は約3,000件と2019年の1,000件から大幅に増加したと説明した。さらに、保護主義や経済・貿易圏のブロック化などによって世界貿易に深刻な分断が生じる最悪ケースのもとでは、世界のGDPは約7%も減少する可能性があるとした。

また欧州では、米国が中国製EVへの関税率を大幅に引き上げることによって、より多くの中国製EVが欧州に流れ込むとして、米国の措置に対して、政界、産業界から批判も上がっている。

中国が報復措置に動き出す

そうした中、中国は報復の動きを見せている。中国商務省は19日に、日本、米国、欧州連合(EU)、台湾から輸入する一部化学製品に対する反ダンピング(不当廉売)調査に着手した、と発表した。

調査対象は、自動車部品などに使われるポリアセタール樹脂と呼ばれるプラスチック製品だ。商務省は、予備調査により、日米などの企業の製品が高い価格競争力を持ち、中国側に不利な影響が出ていることが判明した、と主張している。調査期間は来年5月19日までだが、6か月延長できるとしている。

報復関税を示唆するこの措置は、バイデン米大統領が14日に発表した中国製品への関税率引き上げに対する報復とみられる。中国商務省は、「自国の権利と利益を守るため、強力な措置を取る」と宣言していた。

米国のみならず日本とEUまでもが対象となったのは、昨年、先端半導体、半導体製造装置の対中輸出規制で米国と足並みを揃えたことの報復だろう。さらにEUは、米国に続いて中国製EVへの関税導入を検討していることから、それに対するけん制の意味もあるだろう。

台湾が含まれたのは、1月の総統選で勝利した民進党の頼清徳副総統が20日に総統に就任することから、中国が「台湾独立派」と敵視する頼氏をけん制する狙いがあるだろう。

米中対立が世界経済の大きなリスクに

このように、今回の中国の措置には様々な思惑が含まれているが、米国の中国製品への関税率引き上げが引き金であったことは疑いがない。今回の中国の報復措置自体は、抑制が効いたものとの印象があるが、今後米中間の対立がエスカレートしていき、報復関税の応酬へと発展する可能性は否定できない。米国が11月に大統領選挙を控えており、選挙対策として対中強硬的な施策が打ち出されやすいことも、そうしたリスクを高めている。

また、トランプ前大統領が再選される場合には、米中貿易対立のリスクはさらに激化するだろう。トランプ前大統領はすべての中国製品に対して60%超の追加関税を課す考えを示している。トランプ前大統領は中国以外の国からの輸入品にも一律10%の追加関税を導入する考えだ。実際にそうした政策が実行されれば、中国だけでなく先進国も含む多くの国が米国に対して報復措置を打ち出す可能性がある。市場の分断化によって、世界のGDPは約7%減少するというIMFが示す最悪シナリオも現実味を帯びてくるのではないか

(参考資料)
「日米欧産に反ダンピング調査=化学製品、台湾も対象―中国」、2024年5月19日、時事通信ニュース
「IMF報道官「米国は対中関税引き上げより開放的な貿易体制維持すべき」」、2024年5月17日、ChinaWave経済・産業ニュース

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