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ラピダス支援を念頭に政府は10兆円の半導体・AI支援を決定:安易な支援がむしろ事業失敗のリスクを高め、国民負担増とならないよう慎重な対応が求められる

2024/11/12

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半導体・AI分野で2030年度に向け10兆円以上の大規模公的支援

石破首相は11日の記者会見で、半導体、人工知能(AI)分野に強力に公的支援を行う考えを打ち出した(コラム「第2次石破内閣の発足と首相記者会見:「103万円の壁」対策の着地点はなお見えず」、2024年11月12日)。

これは、2030年度に向け10兆円以上の規模の支援を行う「AI・半導体産業基盤強化フレーム」という新たな枠組みとなる。11月中に政府がまとめる経済対策に盛り込まれる方向だ。

経済産業省は2021年に「半導体・デジタル産業戦略」を立ち上げて以降、3年足らずで同戦略に関連する予算を約4兆円確保した。今回の10兆円以上となる公的支援の枠組みはこれとは別に実施されるもの、と武藤経産大臣は説明している。

石破茂首相は、大きな経済効果を生んでいるとされる「熊本でのTSMC半導体工場のような例を他の地域にも」としており、この新たな枠組みで、海外半導体企業による国内工場への追加の補助金を想定しているとみられる。ただし、それ以上に念頭にあるのは日の丸半導体メーカーのラピダスの支援だろう。

石破首相は、今後10年間で50兆円を超える官民投資を目指すとしており、この公的支援の枠組みは民間投資を促すための呼び水との位置づけのようだ。さらに政府は、経済全体への波及効果を160兆円と見込む。これは現在の年間名目GDPの3.8%程度に相当するが、それはさすがに過大であり、「絵に描いた餅」だろう。

ラピダス量産化のための銀行融資に政府保証

政府はラピダスへの政府機関を通じた債務保証や出資を可能とする法案を関係省庁で準備し、2025年の通常国会へ提出を目指す。

ラピダスは、米国・IBMの技術を使って、3年後の量産化を目指している。世界最先端となる回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を北海道に建設中の工場で2025年に試作し、2027年にも量産化する計画である。政府はラピダスの研究開発に対して、総額9,200億円の補助を既に決定している。

大きな問題となったのは、量産に必要な資金の手当てだ。ラピダスはそれを主に銀行融資で賄う考えであった。ところが銀行は、設立から間もなく実績がないベンチャー企業による最先端半導体技術への挑戦はリスクが高く、それに巨額の融資を行うことに二の足を踏んだのである。そこで、政府が、政府保証を与えることで、銀行融資を実現させようとしている(コラム「骨太の方針にラピダス量産支援を明記へ:政府保証にモラルハザードの問題」、2024年6月11日)。

しかし、仮にプロジェクトが上手くいかなければ、ラピダスが銀行から借りた金を国が肩代わりして返済することになり、国民負担となる可能性が出てくる。そうなれば、国民から政府の責任も強く問われることになるだろう。

政府保証について政府内では、日本での半導体復活を目指す経済産業省と、財政規律を重視する財務省とで意見が対立してきた。財務省は、米国の補助金枠はGDP比の0.21%、ドイツは0.41%、日本は0.71%とそれぞれ試算し、日本の半導体支援が他国と比べて突出していると主張した。これに対して経済産業省は、米国は補助金のほか税額控除が充実しており、ドイツも足元では補助金が膨らんでいるとして、それぞれのGDP比は0.5%、0.71%と見積もった。そして日本は0.68%と算定し、日本の補助金は欧米並みと結論付け、財務省に反論したのである。

政府支援にモラルハザードのリスク

政府がラピダス支援を念頭に、複数年にわたる「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を打ち出した背景には、政府の支援が直ぐに打ち切られるリスクを恐れて、民間の投資などが控えられる可能性があるとの考えがあり、先行きの予見可能性を高める目的で複数年の枠組みにしたと政府は説明している。

確かに、政府が一定期間、しっかりと支援を約束するもとで、民間は安心してラピダスへの融資や出資、関連する投資などを出すことができるだろう。しかしそうした安心感は、モラルハザードのリスクを高めることにもなるはずだ。

公的支援によって、ラピダスが、自らの力で成功を勝ち取るとの意欲が低下すれば、それは事業の失敗のリスクを高めてしまうのではないか。また、銀行や関係する企業からの監視の目も緩んでしまうだろう。

過去の国主導での半導体復活の試み、いわゆる日の丸半導体構想はうまくいかなかった。1999年に、NECや日立製作所などの半導体部門が合流し「エルピーダメモリ」が生まれた。同社は、公的資金活用による300億円の出資を受けたが、2012年に経営破綻している。失敗の理由の一つに、民間企業の集合体であったため、いわゆる「船頭多くして船山に上る」の例えのように、迅速な意思決定ができない一方、責任の所在があいまいになってしまった面があった、との指摘がある。

また、政府が関与することで、事業成功に向けた民間企業の責任意識が損なわれてしまったモラルハザードの側面もあったのかもしれない。こうした経験が今回の公的支援では十分に生かされたのだろうか。

IBMが関与する形での日本での先端半導体生産の試みには、米国内での半導体生産を強く求めるトランプ次期大統領が難色を示す可能性もあり、これも、ラピダスが抱える事業リスクの一つではないか。

先端半導体の国産化は、国全体の競争力に関わる。また、経済安全保障の観点からも重要であることは疑いがない。仮に台湾有事が生じ、台湾などからの半導体の調達に支障が生じれば、日本経済には甚大な被害が及ぶ。

それだからこそ政府は、ラピダスが自らの力で成功を勝ち取り、自走する可能性をより高める形での関与を検討すべきではなかったか。かつてのエルピーダの経験に照らしても、安直な支援は、むしろラピダスのビジネスが成功する可能性を低下させ、そうしたリスクを自ら手繰り寄せてしまう恐れがある。それは国民の負担を高めることになってしまうのである。

(参考資料)
「首相「幅広く合意形成」 第2次石破内閣発足――半導体・AI支援10兆円 経済対策、ラピダス念頭」、2024年11月12日、日本経済新聞

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