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内航船配船計画業務高度化は待ったなし!貴社は物流危機に対策できていますか?

2024/01/25

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執筆者プロフィール

産業ITコンサルティング一部 崔 裕仁:
アプリケーションエンジニアとしてNRIに入社し、国内外の小売業、エネルギー業、製造業のシステム開発・保守などを担当後、現職。
専門は配送計画最適化支援、システム開発プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント・技術支援など。

産業ITコンサルティング一部 中村 海斗:
2022年NRIに入社。以降、現職にて物流業界を中心にコンサルティング業務に従事。
専門は配送計画最適化支援、システム化構想・計画策定から実行支援など。

はじめに

近年、物流業界では陸上輸送の限界と環境意識の高まりから、内航輸送(国内の海上輸送)への関心が高まっています。しかし、内航輸送も陸上輸送と同様、限界に直面しており、特に配船計画業務の効率化が急務です。

内航輸送に使用される船舶である内航船(対照的に国外海上輸送に使用される船舶を外航船という)は、日本の物流に不可欠です。内航輸送は国内貨物輸送の約40%を占め、一部の業界ではその比率が80%以上にも上ります。さらに、政府は2023年10月に「物流革新緊急パッケージ」を発表し、内航船および鉄道による輸送量を今後10年で倍増させる目標を設定しました。

しかし、内航船業界は船員の高齢化、船員法の改正による労務時間管理の厳格化、船舶の耐用年数超過、船主の廃業による船舶数の減少など、深刻な課題を抱えています。これにより、需要ピーク時の配船が困難になり、物流に支障を来している企業も出ているといわれています。

 

このような背景を踏まえると、効率的な配船計画の立案が極めて重要になります。多くの企業は手作業で配船計画を行っていますが、今後は限られた船舶・船員で需要に対応できるよう、より一層効率化を追求する必要があります。従来の経験や勘に頼った方法では、新たな要求に応えるのは困難です。
解決策の一つとして、デジタル技術による配船計画の自動化が考えられます。数理最適化による配船計画や、データ分析に基づく予測モデルを導入による、将来的な需要変動への迅速な対応が実現できます。

今回は、これらの配船計画業務の課題とデジタル技術を活用した解決策について解説します。

配船計画業務担当者の苦悩

配船計画業務の担当者は、需要を満たしながら、安全運航可能な「実行可能解」を見つけるために奔走されていることでしょう。実際に、配船計画業務をご担当されている方々に伺っていると、各社以下のような課題を抱えているようです。

①情報収集・連携の業務負荷

配船計画の策定には、製品別・拠点別の在庫状況、各港の桟橋利用状況、利用可能な船舶の状況など、多岐にわたる情報が必要です。これらの情報は日々変動するため、常に最新の状態を確認しなければならず、関係者間での密な情報連携も必要です。このため、多くの手間と時間がかかり、担当者の業務負荷は高くなりがちです。

②配船計画業務の最適化の難しさ

船舶の運航計画を立てる際、天候や安全上の制約、設備点検、在庫状況など、多くの要因を同時に考慮する必要があります。これには、出荷計画や需要を先取りした在庫調整も含まれます。
これらの作業は、主に熟練者による手作業によって行われています。しかし、これらの要因を同時に考慮するのは難しく、重要な要素が見落とされることもあります。また、これらの要因は日々変化するため、状況への迅速な対応が困難です。

③スキル継承の難しさ

②で触れたように、配船計画業務は難易度が高く、知識やスキルの継承は容易ではありません。
このため、業務は特定の個人に依存する形になり、担当者の休暇や退職時に業務に支障をきたすリスクがあります。また、担当者間で能力にバラつきがあると、計画の品質に一貫性がなくなります。

④計画の合理性立証の難しさ

実際にとりうる配船計画パターンをすべて検証することは人手では不可能です。そのため、多くの企業では、限られた配船パターンの中から担当者が見つけた「実行可能解」を採用しているのが現状です。
しかし、この方法では「よりコスト合理性の高い配船計画」を追求するのは難しくなります。

デジタル技術による配船計画業務の高度化

上で述べたように、内航船の配船計画における課題は、熟練担当者がすべての作業を人手で行っていることに起因しています。これらの課題を解消するには、業務プロセスのシステム化が有効であると考えます。以下に、配船計画業務をシステム化した際の効果を説明します。

①データの一元管理による情報収集・連携の業務負荷低減

配船計画業務の担当者や、製造拠点・在庫拠点などが同じ情報を共有できるデータ基盤を整備することが必要です。これにより、担当者は時間のかかるデータ収集作業から解放されます。製品別・拠点別の在庫状況や、桟橋、船舶の利用状況といった重要なデータがリアルタイムで更新され、常に最新の情報に基づいた計画立案が可能になります。

また、自動オーダー生成の導入も有効です。期間中の論理在庫が一定レベルを下回ると、自動的に補充オーダーを生成するシステムにより、手動処理の時間と労力が削減されます。

②システム導入による配船計画立案の省力化

システム導入により、オーダー情報や海上輸送の制約条件、その他の複雑な要因(船舶のドック期間や在庫状況など)を迅速に分析し、計画に織り込むことが可能になります。これにより、手作業での配船計画と比較して大幅な時間と労力の削減が可能になります。

悪天候や、季節需要を先取り、荷積み量調整など配船計画において担当者が頭を悩ます部分についてもシステムが対応可能です。

③配船計画業務の属人化解消

システム導入により、個々の担当者の裁量やスキルに依存することが減少します。これにより、業務品質のバラつきが減少し、属人化が解消されます。担当者の欠勤や異動・退職などで業務が滞るリスクも軽減され、安定性が向上します。

ただし、システムに完全に依存するわけではありません。配船計画を最終確認・承認するのは担当者です。システムで対応しきれない突発的な事象への対応・調整も必要のため、担当者は十分な業務知識を持っている必要があります。よって、システム化で得た余力を活用し、トレーニングや知識の共有といった属人化の解消に取り組むことが有効です。

④配船計画に対する合理性の追求

人間は無意識に過去の経験から「実行可能解」を模索しようとしますが、システムならその都度、起こり得る複数の組み合わせパターンを広範囲かつ網羅的に検証できます。手作業では見落としがちな配船の組み合わせやシナリオも織り込めるため、コストや時間など合理性を追求した計画立案が可能です。さらに、将来の需要を予測し、必要な用船数のシミュレーションにもシステムを活用できます。

おわりに

内航船の配船計画業務をシステム化することは、船舶や船員の減少という将来の課題に対処し、安定した海上輸送を実現する上で不可欠です。業務効率の向上、船舶運用の最適化、働き方改革の推進、そして国内物流危機への対応策として極めて重要であり、内航船業界に大きな貢献をもたらすことでしょう。
一方、配船計画の高度化だけでは解消しきれない問題も業界には多くあります。配船の最適化だけでなく、陸海両面、あるいは船員繰りなども同時に最適化を検討することで、内航船業界への貢献度はさらに高まると考えられます。

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執筆者情報

  • 崔 裕仁

    産業ITコンサルティング一部

  • 中村 海斗

    産業ITコンサルティング一部

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