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AIに対する考え方の類型化によりAI利用が先行している層の特徴を把握

2026年4月10日掲載のコラム「日・米・中・独4カ国調査にみる生活者におけるAI利用の現在地」(日・米・中・独4カ国調査にみる生活者におけるAI利用の現在地|203X:AIで拡張する社会|野村総合研究所(NRI))では日・米・中・独の4カ国比較を通じて、国ごとのAI利用実態や産業のAI化に対する受容性の違いを検証してきた。日本はAIの利用において他国に遅れをとっている一方で、利便性向上への期待も高いという特徴が明らかになった。
しかし、国という大きな単位で見るだけでは、その中にいる一人ひとりの生活者の多様な考え方や価値観は把握できない。そこで本稿では、居住国を問わずAIに対する考え方や価値観が類似する人々をグループ化する「クラスタリング分析」という手法を用いて、AIへの態度の違いを生み出す背景にどのような要因があるのか、そして各タイプがどのような特徴を有するのかを考察する。
これまでの調査により日本は米・中・独と比較してAI活用が遅れているという現状が明らかになったが、労働人口の減少などを背景に、今後日本でもAIの社会実装が進むことは自然な流れと考えられる。そこで浮かび上がるのが、「AIが日常に浸透した際、日本の生活者の意識や行動はどのように変わるのか」という将来への問いである。この問いに答えることは、企業が今後のニーズを先読みし、新たなビジネス機会を創出する上で重要である。
そのためのアプローチとして、我々はまず生活者のAIに対する考え方を類型化し、各々の特徴を把握する。その上で、特にAI利用が先行している層の価値観を分析することにより、今後日本が移行していくであろう未来の生活者像を考察したい。
図1に、生活者をタイプ分けするために用いた分析の枠組みを示す。まずAIに対する生活者の「捉え方」を多角的に把握するため、図1左側に示した複数の意識設問を用いてクラスタリング分析を実施した。具体的には「AIの判断をどの程度信頼するか」というAI信頼点数や「AIによる社会の監視を許容できるか」といったAI機能拡張の許容度、さらに「AIのミスは許容できるか」「AI時代に人間関係は重要か」といったAIに対する考え方、そして「AI医師と人間の医師のどちらを選ぶか」といったAI vs 人間の設問群である。これらの意識設問をクラスタリング分析した結果、生活者はまず「AIを信頼しているか否か」という「信頼」の軸で大きく二分されることが判明した。そこに「生成AIを日常的に利用しているか否か」という「利用頻度」の軸を掛け合わせることで、最終的に図1右側に示す4つのタイプに分類された。

図1 生活者のAIに対する考え方の類型化方法

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年

現状の日本では「AI信頼・非利用層」が最も多い

分析によって明らかになった4つのタイプが各調査国でどのような構成比を示すかを見ていく。図2のそれぞれの象限にある構成比グラフは国別の内訳を示したグラフである。
まず最も特徴的なのは中国である。赤色で示された「Type ① AI信頼 × 利用層」、すなわちAIを信頼し積極的に利用する層にて全体の8割以上を占めており、中国におけるAIの受容性は極めて高いことが示唆される。
次に日本に目を向けると、青色で示された「Type ③ AI信頼 × 非利用層」が約半数を占めている。これはAIを信頼し期待はしているものの、利用には至っていない層であり、日本の特徴を象徴する構成である。
一方、米国とドイツでは、オレンジ色とグレーで示された「不信層」、すなわちAIを信頼していない層が合わせて4割を超えている。これにより、両国においてはAIに対する賛否が大きく分かれ、意見が割れている様相がうかがえる。
このように、国ごとにAIへのスタンスは大きく異なり、構成比から一目でその差異が明らかになる。なお、AIへの信頼については中国が最も高い結果が得られたが、中国に関しては”信頼”の対象はAIに限った話ではなさそうだ。世界価値観調査の結果では「(赤の他人も含め)ほとんどの人は信頼できる」という項目について、この4カ国の中では中国は63.5%で最も高く、次いでドイツ44.6%、アメリカ37.0%、日本33.7%の割合であった。中国ではAIでも人間でも信頼度が高く、社会関係資本(人々の信頼や規範、ネットワークといった関係性を資本として捉え、社会や組織において人々の協調行動を活発にし、全体の効率性を高める役割を果たす要素)が高いとも言える。

図2 生成AI信頼度×生成AI利用度クラスタ別の特徴

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年

ここからは、4つのタイプそれぞれの具体的な人物像、すなわちセグメントプロファイルを見ていく。(詳細なデータは知的資産2026年2月号の特集「社会のAIトランスフォーメーション」(知的資産創造 2026年2月号 | 刊行物 | 野村総合研究所(NRI) )の内、「日・米・中・独4カ国調査に見るAI利用の受容性と日本におけるAI浸透の未来像」に掲載しているので、そちらを参照してもらいたい。)

Type① AI信頼 × 利用層(「AIフル活用スタイル」)

この層は平均年齢が38.1歳で、全クラスタの中で最も若く、やや男性が多い構成である。「AI信頼 × 利用層」はAIへの信頼度が10点満点中7点以上であり、有料サービスにも月平均で2,000円以上を費やしている。スライド左下のグラフが示すように、仕事・学習・趣味のいずれにおいても生成AIの利用時間が長く、AIによって仕事時間が1日あたり約2時間短縮されたと体感している。したがって、AIを生活や仕事のパートナーとしてフル活用し、その便益を実感している人々である。
AIに対する考え方や許容度においては、「致命的でないAIミスは許容する」「AIは仕事のパートナーである」等の項目をはじめ、全体的にAI肯定的な回答が多く、AIを前向きに捉えていた。しかし興味深いのは、これだけAIを信頼している彼らでも、「主治医」や「コミュニティ」など、高度な判断や情緒的なつながりが求められる領域ではAIよりも人間を選好する傾向が見られる点である。AIの便益を最大限に享受しつつも、人間が担うべき領域については明確な一線を引いていることがうかがえる。

Type② AI不信 × 利用層(「実利割り切り利用スタイル」)

この層は平均年齢が42.3歳で、比較的女性が多く、米国と独国でやや多く見られる。AIへの信頼度は平均を下回るが、用途別利用時間からも分かるように生成AIを利用しているのが大きな特徴である。彼らはAIを全面的に信頼しているわけではないものの、自分の楽しみや特定の目的を達成するための便利な「道具」として実利的に割り切って活用している、というプラグマティックな姿勢がうかがえる。
この「実利割り切り利用スタイル」の考え方をさらに詳しく見ると、「AIを絶対の正解と見るのは危険」「AI時代こそ人との感情を重視」など、人間優位の考え方を強く持っている。AIに対しては「無機質」というイメージも抱いている。そのため、AIによる役割代替への許容度は全体的に低い傾向にある。しかし注目すべきは、「買い物における個別最適化した選択肢の提案」や「病気等の個人の生活に関するリスクを予測」など、非常に明確な便益がもたらされる項目については半数以上が「許容できる」と回答している点である。したがって、Type②はAIへの不信感を持ちつつも、メリットがデメリットを上回ると判断すれば利用するという、非常に現実的な判断軸を持つ層である。

 Type③ AI信頼 × 非利用層(「利便性期待・待機スタイル」)

この層は日本の回答者の約半数を占め、50代から60代の男女が中心である。名の通り、AIに対する信頼点数はType①に続く第2位の高さであり、AIがもたらす社会の利便性向上には期待を寄せている。しかし実際の利用はまだ進んでおらず、AIの進化を横目で見ながらも、まだ積極的な利用には至っていない、いわば「様子見」の段階にある人々である。今後の日本市場の動向を考える上で、鍵を握る層と位置付けられる。
「利便性期待・待機スタイル」のAIへの期待と許容度を見てみると、代替許容度TOP10はいずれの項目においても全体平均を上回っており、AIを積極的に利用しているType①と比較しても遜色がない。しかし他のタイプと同様に「AIがいれば友達やコミュニティは不要」といった、人間のコミュニケーションを代替するようなAIの使われ方には慎重な姿勢を示す。加えて「AI時代でも人が知識を学ぶべき」という意見が強く、AIにすべてを委ねることには抵抗があるようだ。要するに、AIの便益は理解し社会変化に期待しているものの、自ら積極的に使うまでには至っていない。利用への心理的ハードルや具体的なきっかけを待っている「待機層」と捉えることができる。

Type④ AI不信 × 非利用層(「人間価値重視スタイル」)

この層は平均年齢が50.6歳と最も高く、女性比率が約6割を占めるのが特徴である。特に米国・独国の高齢層に多く見られ、中国ではほとんど見られない。プロファイルは一貫しており、AIへの信頼度は10点満点中2.85点と極めて低く、生成AIの利用も進んでいない。さらにAIレコメンドシステムについても約6割が「利用したことがない」と回答し、「利用すると検索の質が下がる」といったネガティブなイメージを抱いている。AIという存在そのものに対して、強い懐疑心や警戒心を持つ層である。
この「人間価値重視スタイル」の考え方は、その名の通りAIよりも人間の価値を重んじる姿勢が鮮明である。「AIは人間の創造力を奪う」「AI創作物には嫌悪感がある」などの項目に強い反応が見られ、人間の感性や創造性を極めて重要視していることがうかがえる。AIによる役割代替への許容度も全タイプの中で最も低い。
しかし興味深いのは、AIに不信感を抱きながらも「個別最適化した選択肢の提案」や「社会的弱者の発見」など、利便性の向上や社会福祉への活用には4割から5割が肯定的に回答している点である。AIそのものへの拒否感は強いものの、実生活における明確なメリットには関心を示すことから、企業がサービス設計を行う上での示唆となり得る。

ここまで見てきた4つのタイプの構成比が国によって大きく異なる理由は、各国の国民性・価値観・生活満足度、そして新しいものを受容する「イノベーター度」などが複合的に影響していると考えられる。
たとえば日本は価値観設問から「和の尊重」を重視し、新しいものの採用に慎重な「イノベーター度」が低い傾向がある。これがAIに期待しつつも利用に踏み出せない「信頼 × 非利用」層が多数を占める要因と考えられる。
一方中国は「公民意識」が高く、イノベーター度も突出して高い。これが国全体でAIを信頼し活用する「信頼 × 利用」層が厚い構造と整合する。欧米では「個人志向」や「自由」が重視される文化が、AIに対する多様な意見、すなわち「不信」層の存在につながっていると推察できる。

日本におけるAI浸透は「機能的役割」の代替がカギ

さて、これまでの分析を踏まえ、「日本におけるAI浸透時代の未来像」について考察する。先の分析で明らかになったように、現在の日本の生活者のマジョリティは、AIに期待しつつも利用には至っていない「信頼×非利用層」である。この層が今後どのようにしてAIを日常的に利用する層へと移行していくのか、本稿ではその移行の「きっかけ」や「道筋」を探り、さらに先に待ち受ける日本の生活者像の変化について「情緒」と「機能」という二つの側面から考察する。
まず日本の多数派である「信頼×非利用層」がAI利用へと移行する「きっかけ」はどこにあるのか。利用層と非利用層の意識の共通点と差分から、3つの要素が挙げられる。
1つ目は「機能便益の体感」である。レコメンド機能や自動要約など、AIを用いることで「時間が短縮できた」「精度が上がった」といった具体的なメリットを体験することが、継続的な利用へと繋がる。
2つ目は「利用への安心感」である。AIの判断プロセスがブラックボックス化されず、根拠が示されたり、エラー時の訂正手続きが用意されていたりすること、さらに最終的な意思決定は人間が担うという安全装置が信頼を支える。
3つ目は「対人摩擦の低減」である。クレーム対応や些細な問い合わせなど、精神的負荷が高いコミュニケーションをAIが代替してくれる場面は、利用の有効なきっかけとなり得る。
AI利用への移行の入口を探るため、AI利用が先行している「信頼×利用層」がどのような役割のAI代替を許容しているかを見てみよう。図3は、アンケート回答結果において項目間の関連の強いものほど近くに配置されるコレスポンデンス分析を用いて、様々な役割をAIが代替することへの許容度をマッピングしたものである。横軸はAIの役割代替内容が機能的要素が大きいか情緒的要素が大きいかで分布してる。また縦軸は処置や手術を行う医師やカウンセラー・セラピスト、実際に教壇にたつ教師、創作者、警察官などの導きや教示としての位置づけで認識されている存在から店員・接客員や使用人など従事者としての意味合いが強い位置づけで認識されている存在で分布している。そして、オレンジで示す項目が許容度に関係する項目である。

図3 Type① AI信頼 × 利用層における役割代替許容の構造

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年

まず「子ども」や「パートナー」といった情緒的なつながりが極めて重要な役割は、左端の「何があっても利用したくない」付近に位置し、最も許容度が低いことが分かる。一方、右上を見ると「使用人」や「事務担当者」といった機能的・従事的な役割は「無条件で利用したい」に近く、許容度が非常に高い。
ここで注目すべきは「友人・話し相手」や「店員・接客員」といった、本来は対人コミュニケーションが伴う役割が比較的右側に位置している点である。これは、必ずしも人間と直接関わらなくても目的を達成したい、あるいは対人摩擦を回避したいというニーズの表れであろう。
次に、日本の多数派である「信頼×非利用層」の役割代替許容の構造を図4に示す。「利用層」のグラフ図3と比較すると、全体的にAI代替への許容度はやや低いものの、基本的な構造は非常によく似ていることが分かる。やはり「使用人」など機能的な役割は許容されやすく、一方で「子ども」や「パートナー」といった情緒的な役割は許容されにくいという傾向は共通している。しかし「店員」や「友人・話し相手」といった項目は、利用層と比べてやや「無条件で利用したい」よりは「安全性が高まるなど進化すれば利用しても良い」側に近い位置にある。

図4 Type③ AI信頼 × 非利用層における役割代替許容の構造

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年

このことから、日本の「信頼×非利用層」がAI利用へと移行する際の入口は、まず「機能的役割」の代替、特に家事や単純な窓口業務といった日々の負担を軽減してくれる領域から始まる可能性が高いと考えられる。その領域で成功体験を得ることで、他の領域への利用拡大へと波及していくだろう。

認知オフロードが進行すると共に、対面コミュニケーションに価値を見出す世の中に

最後に、AIの利用が日本社会に浸透した後の生活者像を「機能」と「情緒」の両面で触れておきたい。
まず「機能面」については予約や行政手続きといった定型業務をAIに委託する「日常タスクのAI前提化」が進行するであろう。情報収集や比較検討といった認知的負荷もAIにオフロードする「認知オフロード」が常態化し、人はより本質的な判断や例外処理に集中できるようになる。さらに、理不尽なクレーム対応など精神的負荷の高い業務をAIが一次対応することで、従業員は保護され、人間は深い共感や複雑な問題解決といった高付加価値な業務を担うことが求められると考えられる。
次に「情緒面」については若年層を中心にパーソナルAIへの相談やAIレコメンドの利用が広がることで、友人・話し相手としての機能が一部代替されると同時に、対面でのコミュニケーションに特化した深い人間関係を促進する「二層構造」の社会が形成されるであろう。また、AIによる生活の効率化で生み出された時間的・心理的余裕が、キャリアアップのための再学習や創造的活動への志向へと向かい、個人の就業価値観にも変容をもたらす可能性があると見込まれる。
AIが社会に浸透した未来では、機能面では日常業務のAI前提化や認知負荷の軽減が進み、情緒面では人間同士の対話が高付加価値化するなど、私たちの働き方や価値観そのものにも変化が及ぶとみられる。AIの便益を誰もが安心して享受できる社会を設計していくためには、こうした生活者の意識の変化を捉えていくことも重要である。

調査概要

プロフィール

  • 林 裕之のポートレート

    林 裕之

    マーケティング戦略コンサルティング部

    

    外資系コンサルティングファームを経て、2015年にNRIに入社。同年から「生活者1万人アンケート調査」に関わり、2018年より取りまとめ役に。
    子供の頃の夢は科学者になることで、大学ではプラズマ物理を研究。しかし、マーケティングや生活者研究に興味を持つようになり、コンサルティング業界に進んだ。
    今の仕事を通じて社会に恩返しをすることが、日々の原動力となっている。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。