&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

前回とりあげた『医療現場の行動経済学』の紹介は行動変容を主体とするものだったため、前回の書評には含めなかったが、現在の医療現場の過酷さが医療現場のバーンアウト、いわゆる「燃え尽き症候群」を引き起こす可能性は非常に高い。医療従事者がCOVID-19に感染することによる医療崩壊と同じくらい、医療従事者の心身の極度の疲弊によるバーンアウトによる医療崩壊が懸念される。同書の第13章「他人を思いやる人ほど看護師に向いているのか」では、「利他性の強い看護師ほどバーンアウトしやすい」という調査結果が紹介されている。感染症対策の最前線の医療従事者の負担を少しでも減らすためにもわれわれは自らが感染しないような行動を徹底する必要がある。

■医療現場の行動経済学―すれ違う医者と患者

[著]大竹 文雄、平井 啓
[発行日]2018年7月27日発行
[出版社]東洋経済新報社
[定価]2,400円+税

利他的な傾向の強い看護師はバーンアウトしやすい

「白衣の天使」という看護師のイメージは根強い。患者に寄り添い、手厚いケアを提供してくれる看護師に「他人を思いやる」傾向を見て取るのは自然だろう。しかし、責任感が強く、患者の喜びや悲しみに共感し、患者の死を悲しむといった利他性が強い看護師は、自身のメンタルに強い負荷を与えてしまい、短期間で離職してしまう傾向があることがわかっている。利他性の強い看護師はそうではない看護師に比べ、睡眠薬や精神安定剤、抗うつ剤を常用している可能性が高い。

また、看護師を職業として選ぶ人の多くがもともと利他性が強い場合、使命感や仕事への充足感から、低い賃金に対してあまり強い不満を言わない傾向もあるようだ。つまり現代の医療システムは看護師の利他性によって維持されている可能性がある。しかし、看護師は慢性的に不足していると言われており、COVID-19以前から医療の現場は崩壊寸前ではないかといわれている。

COVID-19によって医療従事者のバーンアウトが心配される

以下の文章に一度目を通していただきたい。

この文章にはCOVID-19の最前線で感染の恐怖と戦いながら、必要な物資が欠乏したまま治療を行っている医療従事者の壮絶な状況と心境が綴られている。

既に医療崩壊は起きている。日本では死者数が諸外国に比べて低く抑えられているが、医療現場は既に限界を超えている。私達は直接に医療現場を支援することはできない。私達ができることは「感染しないこと」だ。そのためには行動を変える必要がある。今一度自分たちの行動変容を徹底したい。

もう一つ応援できること

日本看護協会は看護師らに対する危険手当を支給するよう求めている。先に現在の医療システムは看護師の低い賃金に支えられている可能性を指摘した。看護師に不当な負担を押し付けているのは明らかだ。危険手当がすみやかにそして十分に支給されるよう私達も声を上げて応援するべきだ。

プロフィール

  • 柏木 亮二のポートレート

    柏木 亮二

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    

    経歴

    1996年NRI入社後、官公庁における技術振興基本計画策定、産業振興政策パッケージ立案支援、製造業・情報通信分野における事業戦略プロジェクトなどに参画。2008年より金融ITイノベーション事業本部において、IT事業戦略分析・技術インパクト評価などに従事。過去担当した案件には、オープンイノベーション戦略策定プロジェクト、証券業務基幹システム移行プロジェクト、金融機関IT投資戦略プロジェクトなどがある。
    2015年10月より経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)」メンバー。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。