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3つの自民党派閥が解散へ

東京地検特捜部による自民党政治資金規正法違反事件への対応に、終わりが見えてきた。特捜部は、安倍派、二階派、岸田派の現・元会計責任者を在宅、あるいは略式起訴とする一方、安倍派所属の池田議員を逮捕・起訴、大野議員を在宅起訴、谷川議員を略式起訴とした。

他方で、注目されていた安倍派幹部7人の立件は見送られた。「トカゲのしっぽ切り」で終わった、との指摘も聞かれる。1月26日の通常国会開会を前に、特捜部の捜査は一巡する。しかし、問題はこれで終わりではなく、自民党自らによる徹底的に問題の調査を行い、実態を国民に明らかにすることが求められる。

一方、岸田派の元会計責任者が略式起訴されたことを踏まえて、岸田首相は昨年末まで自ら会長を務めていた岸田派(宏池会)の解散を決めた。この決定を受けて、所属議員が起訴された安倍派(清和政策研究会)と会計責任者が起訴された二階派(志師会)も解散を決めた。

今後の焦点は、月内に「政治刷新本部」による中間取りまとめがなされる党改革の中身、そして今年4月の補欠選挙や9月の自民党総裁選を睨んだ、自民党自らによるパーティ問題への対応、政治改革の推進に移る(コラム「 自民党・政治刷新本部が初会合:派閥の見直しが政治改革の本気度を試す 」、2024年1月12日)。

派閥改革が進まなかった過去の検証と派閥の弊害の分析が重要

自民党の派閥の改革は、1989年の政治改革大綱に強い決意とともに盛り込まれたが、結局は実行されずに終わってしまった(コラム「 国民の信頼回復に向けた政治改革は進むか 」、2024年1月9日)。安倍派、二階派、岸田派の3派以外の派閥の対応はまだ明らかではないが、中間取りまとめには派閥改革が盛り込まれる可能性が高いだろう。

党内では若手研鑽などの場としての派閥の役割を支持する意見がなお強い中、どれほど抜本的な改革になるかは不確実だ。また、仮に派閥の全面解消が打ち出されるとしても、名前を変えた派閥が存続するだけに終わってしまうかもしれない。安倍派の福田元総務会長は同派の解散決定を受けて、新しい集団をつくっていく考えを示している。

実効性のある改革につなげるためには、派閥改革が進まなかった過去の検証をしっかりと行うとともに、派閥の弊害を詳細に分析することが重要だ。派閥の存在は、党と派閥の2重構造を生み、ガバナンスを低下させてしまうと考えられる。派閥が閣僚ポストを提示するなどの機能を果たすことは、首相の権限を低下させてしまう面がある。また派閥の存在が、党内の意見集約を難しくし、政策推進の障害になる可能性もあるだろう。

他方、今回の事件でも明らかになったように、派閥が開催するパーティでの収入が、裏金に使われるなど、党による規律、管理が十分に行き届かない中、派閥の存在が「政治とカネ」の問題を深刻化させてしまった面もあるだろう。派閥間での競争が、パーティを通じた政治資金集めを後押しした面もあるのではないか。こうした問題点を十分に洗い出し、検証を進めて欲しい。

パーティ券の購入禁止、企業・団体献金の廃止も検討されるべき

「政治刷新本部」による中間取りまとめの中核となるのは、派閥改革よりも、政治資金規正法の改正案となるだろう。改革案には、政治資金規正法を改正して、パーティ券購入者の氏名公表の基準を、現在の1人当たり20万円超から、寄付の際と同様に5万円超にするなど厳格化すること、政治資金収支報告書の虚偽記載や不記載の場合の罰則を、現行の5年以下の禁錮または100万円以下の罰金から厳しくすること、が盛り込まれることが予想される。

しかし、今回、会計責任者と一部議員が起訴された一方、安倍派幹部の起訴が見送られたことも踏まえ、会計責任者だけでなく政治家も責任を負う罰則の強化、いわゆる連座制の導入も検討すべきである。そうでなければ国民は納得しないのではないか。

また、野党が主張している企業・団体によるパーティ券の購入禁止、企業・団体献金の廃止も検討されるべきだ。

4月の補欠選が政治改革を後押しするか

現時点では、自民党による政治改革に向けた取り組み姿勢が、それほど強いようには見えない。1989年に自民党が政治改革大綱を発表した時点と比べても、政権交代への危機感が強くないことが、その一因ではないか。しかし、国民の間で「政治とカネ」の問題への対応が不十分との不満が高まれば、自民党に対して厳しい審判が選挙で下される可能性があるだろう。

当面の注目点は、4月の補欠選挙だ。衆院島根一区では細田前衆院議長の死去に伴い、また東京15区では、在宅起訴された柿沢議員の辞職に伴い補選が行われる。また、略式起訴された谷川議員は議員を辞職する意向を示しており、辞職の場合には、衆院長崎三区でも補選が行われる。このように、4月の補欠選は大型となり、次期衆院選の前哨戦の色彩がかなり強まるだろう。

1988年、89年のリクルート事件で「政治とカネ」の問題が露呈した際には、1992年2、3月の参院奈良・宮城で自民党が2連敗し、それが1993年衆院選での自民党下野につながっていった。

今回、4月の補欠選挙で自民党が敗北を重ねれば、そこで初めて、「政治とカネ」の問題についての国民の怒りが党に強く認識され、また、政権交代への警戒感などが高まることで、より抜本的な党改革、政治改革へと繋がっていく可能性もあるのではないか。

(参考資料)
「安倍派・二階派解散へ」、「派閥なき党内統治 探る」、「春の補選、政権正念場に」、2024年1月20日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。