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米価高騰、政府のガソリン補助金縮小が影響

総務省は1月31日に1月東京都区部CPI(消費者物価指数)を発表した。コアCPI(除く生鮮食品)は前年同月比+2.4%と前月の同+2.5%を上回った。事前予想の平均値は+2.4%だった。
 
米(コメ)を中心に食料品価格が上昇し、全体の指数を押し上げた。うるち米(コシヒカリを除く)は前値同月比+72.8%上昇と、比較可能な1976年1月以降で最大の上昇率となった。米類全体は、前年同月比+70.7%上昇し、東京都区部の消費者物価の前年同月比を+0.34%押し上げている(コラム「『令和の米騒動』に政府備蓄米放出を可能にする運用ルール見直しで対応へ:米価高騰は物価を0.4%押し上げ、個人消費、GDPを年間0.2%押し下げる」、2025年1月31日)。
 
これ以外にも、チョコレートが前年同月比+30.2%、コーヒー豆の同+19.0%、国産豚肉の同+7.2%などが目立っている。生鮮食品を除く食料は、消費者物価の前年同月比を+1.1%ポイント押し上げ、12月分と比べて前年比上昇率を+0.15%ポイント押し上げた。また通信費が+0.04%ポイント、ガソリンが+0.03%ポイント、それぞれ前年比上昇率を押し上げた。
 
ガソリン価格は前月比+4.6%、前年同月比+5.3%上昇したが、これは、政府が12月からガソリン補助金を削減したことが影響している。レギュラーガソリン価格は全国平均で1リットル175円程度から185円程度へと上昇した。これは消費者物価の前年同月比を+0.03%程度押し上げ、家計に年間4,000円程度の負担増になると試算される(コラム「12月19日からの補助金縮小開始でガソリン価格は来年にかけて10円程度上昇:家計に年間4,000円程度の負担増も暫定税率が廃止されれば約9,600円の負担減に」、2024年12月18日)。

基調的な物価上昇率は全国で物価目標2%を大きく下回る1.5%程度まで低下か

コメの価格高騰、政府のガソリン補助金削減などの一時的な要因によって、1月の東京都区部の消費者物価上昇率は予想を上回る上昇となった。しかしそれとは対照的に、基調的な物価の上昇率は低下傾向を示している。
 
食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は、1月に前年同月比+1.0%と12月の+1.1%から低下した。さらに、1月のサービス価格は前年同月比+0.6%と12月の同+1.0%から大幅に低下した。ゴルフプレイ料金、テーマパーク入場料の下落など、通信・教養娯楽関連サービスの下落などが影響している。
 
このように、基調的な消費者物価上昇率は低下傾向にある。1月分の全国では、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は前年同月比+1.5%と日本銀行の物価目標である2%を大きく下回り、2022年12月以来の低い水準になると予想される(図表)。
 
足もとの消費者物価上昇率が上振れているのは、コメの価格高騰、政府のガソリン補助金削減などの一時的な要因と円安による輸入物価の上昇によるところが大きい。円安、輸入物価の上昇による消費者物価上昇率の上振れは、コストプッシュ型であり、個人消費を中心に国内経済にはマイナスになる。
 
他方、サービス価格上昇率が下振れていることは、日本銀行が予想する、物価上昇の影響を受けた賃金上昇率の高まりが、サービス価格に転嫁されてより持続的な物価上昇になっていく、との姿が実現できていなことを意味する。
 
このような状況の下、物価上昇の大きな原因となっている円安が一巡すれば、消費者物価上昇率は低下傾向を鮮明にしていき、早晩、物価目標の2%を下回ることになるだろう。これによって、2%の物価目標達成は困難、との見方が広がるだろうが、円安修正でコストプッシュ型の悪い物価上昇が収まってくるのであれば、それは個人消費の回復を助けることになるだろう。
 
図表 消費者物価上昇率の推移

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。