米価高騰は物価全体を0.44%押し上げ、年間1万673円もの家計負担に
総務省が1月31日に発表した1月東京都区部消費者物価統計で、うるち米(コシヒカリを除く)は前年同月比+72.8%上昇と、比較可能な1976年1月以降で最大の上昇率となった。米類全体では、前年同月比で+70.7%上昇した(コラム「物価上昇率の上振れが続くが基調部分は逆に下振れ」、2024年1月31日)。
全国でも同じ上昇率になったと仮定すると、米価の上昇によって消費者物価全体は、1月に前年同月比で0.44%押し上げられた計算となる。
また、2023年度の家計(総世帯)の米の消費額の平均は年間1万5,096円であるが、この米の価格の上昇率が1年続く場合には、年間で1万673円もの家計の負担になる計算だ。またこの米の価格上昇は、実質個人消費を1年間で0.21%、実質GDPを1年間で0.23%それぞれ低下させると試算できる(内閣府、短期日本経済計量モデルによる試算)。
米の価格高騰は、家計を圧迫し、個人消費活動や経済全体に相応の悪影響を生じさせる恐れがある。
全国でも同じ上昇率になったと仮定すると、米価の上昇によって消費者物価全体は、1月に前年同月比で0.44%押し上げられた計算となる。
また、2023年度の家計(総世帯)の米の消費額の平均は年間1万5,096円であるが、この米の価格の上昇率が1年続く場合には、年間で1万673円もの家計の負担になる計算だ。またこの米の価格上昇は、実質個人消費を1年間で0.21%、実質GDPを1年間で0.23%それぞれ低下させると試算できる(内閣府、短期日本経済計量モデルによる試算)。
米の価格高騰は、家計を圧迫し、個人消費活動や経済全体に相応の悪影響を生じさせる恐れがある。
政府備蓄米放出については賛否分かれる
1月東京都区部消費者物価統計が発表された同じ日に、農林水産省は、凶作時などに限定されていた政府備蓄米の放出を、円滑な流通に支障が生じた場合でも可能にするよう、運用方針を見直すことを決めた(コラム「『令和の米騒動』に政府備蓄米放出を可能にする運用ルール見直しで対応へ:米価高騰は物価を0.4%押し上げ、個人消費、GDPを年間0.2%押し下げる」、2025年1月31日)。
実際に政府米を放出するかどうかは、今後の状況を見て判断されるが、農相が必要と認める場合には、1年以内に政府が同等・同量の国産米を買い戻すことを条件に、集荷業者に売り渡す。当面は、政府備蓄米放出の運用ルールの変更が、どの程度、米の価格に影響するかを政府は見極めることになるだろう。
この決定については賛否は分かれている。家計を圧迫する異例な米価高騰に対して、政府備蓄米放出を通じて価格の沈静化に動くことは、国民生活の安定につながると評価する向きもある。他方で、市場で決まるコメの価格に政府が過度に介入することは、市場メカニズムを歪めてしまい、最適な資源配分機能を損ねてしまうとの否定的な意見もある。
実際に政府米を放出するかどうかは、今後の状況を見て判断されるが、農相が必要と認める場合には、1年以内に政府が同等・同量の国産米を買い戻すことを条件に、集荷業者に売り渡す。当面は、政府備蓄米放出の運用ルールの変更が、どの程度、米の価格に影響するかを政府は見極めることになるだろう。
この決定については賛否は分かれている。家計を圧迫する異例な米価高騰に対して、政府備蓄米放出を通じて価格の沈静化に動くことは、国民生活の安定につながると評価する向きもある。他方で、市場で決まるコメの価格に政府が過度に介入することは、市場メカニズムを歪めてしまい、最適な資源配分機能を損ねてしまうとの否定的な意見もある。
投機的な動きを抑える例外的、時限的措置としては容認される
筆者は、例外的、時限的措置として政府備蓄米放出は容認されるのではないかと考えている。米の価格高騰の要因として、肥料や農機具など農業資材の価格が上昇した分が米価に反映されていること、ウクライナ戦争の影響で小麦の価格が上昇し、パンから米へ需要がシフトしたこと、海外旅行者による米の消費量が増加していること、等が挙げられている。
これらの要因が米の価格高騰の背景のすべてであるのならば、米の価格高騰は市場メカニズムが機能している中で生じているものであり、政府は政府備蓄米放出を通じて自由な市場に介入すべきではないだろう。
しかし実際には、足もとの米の価格高騰は、これらの要因だけでは説明できず、先行きの価格上昇を見込んだ一部の流通業者らによる買い占めの影響が大きいと考えられる。
このような、投機的な動きによってコメの価格が高騰し、市場が歪められているのであれば、政府備蓄米放出を通じた政府の市場介入は、むしろ市場メカニズムを正常化させるものとして正当化されるのではないか。
1年以内に政府が同等・同量の国産米を買い戻すことを条件にするなど、政府備蓄米の放出が市場機能に与える影響に十分に配慮された設計となっている点も評価できる。
これらの要因が米の価格高騰の背景のすべてであるのならば、米の価格高騰は市場メカニズムが機能している中で生じているものであり、政府は政府備蓄米放出を通じて自由な市場に介入すべきではないだろう。
しかし実際には、足もとの米の価格高騰は、これらの要因だけでは説明できず、先行きの価格上昇を見込んだ一部の流通業者らによる買い占めの影響が大きいと考えられる。
このような、投機的な動きによってコメの価格が高騰し、市場が歪められているのであれば、政府備蓄米放出を通じた政府の市場介入は、むしろ市場メカニズムを正常化させるものとして正当化されるのではないか。
1年以内に政府が同等・同量の国産米を買い戻すことを条件にするなど、政府備蓄米の放出が市場機能に与える影響に十分に配慮された設計となっている点も評価できる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。