トランプ大統領の発言が米国の景気不安を増幅
10日の米国市場で、ダウ平均株価は一時1,100ドルを超える大幅下落となった。きっかけとなったのは、トランプ大統領の発言だ。トランプ大統領は9日に、米国経済が年内にリセッション(景気後退)入りするか問われた際、「そういったことを予想するのは嫌いだ。われわれが行っていることは非常に大きいので、移行期間がある(There is a period of transition)」と答えた。
足元では、企業や個人の景況感の悪化を示す指標が相次いで発表され、先行きの米国景気への不安が金融市場で浮上していた。トランプ大統領の発言は、そうした不安を増幅するものとなった。
GDPを予測するアトランタ連銀のGDPNowによると、1-3月期の米国実質GDPは、最新の3月6日時点で前期比年率-2.4%と大幅マイナスとなっている。2月までは同+2%台とプラス成長であった。成長率見通しが一気にマイナスにまで下方修正されたのは、トランプ大統領が関税策を相次いで打ち出したことだ。それが輸入物価の上昇などを通じて企業や家計の景況感をにわかに悪化させた。また、トランプ関税発動を見越して輸入業者が輸入を前倒ししたという一時的要因も、1-3月期のGDPを押し下げている。
2月雇用統計が示すように、ハードデータは経済の明確な悪化までは示していない(コラム「2月米雇用統計とパウエル議長講演:トランプ関税による物価高は一時的か」、2025年3月10日)。1-3月期の実質GDPがマイナスになるとしても、それは景気後退入りまで意味するものではないだろう。
足元では、企業や個人の景況感の悪化を示す指標が相次いで発表され、先行きの米国景気への不安が金融市場で浮上していた。トランプ大統領の発言は、そうした不安を増幅するものとなった。
GDPを予測するアトランタ連銀のGDPNowによると、1-3月期の米国実質GDPは、最新の3月6日時点で前期比年率-2.4%と大幅マイナスとなっている。2月までは同+2%台とプラス成長であった。成長率見通しが一気にマイナスにまで下方修正されたのは、トランプ大統領が関税策を相次いで打ち出したことだ。それが輸入物価の上昇などを通じて企業や家計の景況感をにわかに悪化させた。また、トランプ関税発動を見越して輸入業者が輸入を前倒ししたという一時的要因も、1-3月期のGDPを押し下げている。
2月雇用統計が示すように、ハードデータは経済の明確な悪化までは示していない(コラム「2月米雇用統計とパウエル議長講演:トランプ関税による物価高は一時的か」、2025年3月10日)。1-3月期の実質GDPがマイナスになるとしても、それは景気後退入りまで意味するものではないだろう。
トランプ大統領は景気悪化を恐れずに関税発動に動く
ただし、金融市場がトランプ大統領の発言に思いのほか大きく反応したのは、関税策などによって米国景気が悪化してもそれは移行期間、過渡期の一時的な現象であるため、そうした政策をひるむことなく断行する、というトランプ大統領の意図を読みとったからだろう。
トランプ大統領は先般の施政方針演説で、バイデン前大統領が破壊した酷い米国経済を引き継いだ、と発言していた(コラム「トランプ施政方針演説:相互関税を4月2日に発動へ」、2025年3月5日)。仮に、関税がもたらす物価高によって米国経済が悪化しても、それはバイデン前大統領の責任であるとトランプ大統領は主張し、自らの経済政策の問題点を認めないだろう。
トランプ大統領は先般の施政方針演説で、バイデン前大統領が破壊した酷い米国経済を引き継いだ、と発言していた(コラム「トランプ施政方針演説:相互関税を4月2日に発動へ」、2025年3月5日)。仮に、関税がもたらす物価高によって米国経済が悪化しても、それはバイデン前大統領の責任であるとトランプ大統領は主張し、自らの経済政策の問題点を認めないだろう。
巻き戻しが進むトランプトレード
景気不安の高まりや米国株価の大幅下落をうけて、10日の米国市場では長期金利も低下した。またそれを映してドルは下落し、ドル円レートは1ドル146円台半ばまでドル安円高が進んだ。
従来、金融市場はトランプ関税を長期金利上昇、ドル高要因として織り込んでいたが、足もとでは全く逆の反応となっている。トランプトレードの巻き戻しである。関税は物価を押し上げるがそれは一時的なものである一方、関税が景気を悪化させれば、それはいずれ物価上昇率の低下につながり、金融緩和を後押しするとの見方が有力になってきている。
従来、金融市場はトランプ関税を長期金利上昇、ドル高要因として織り込んでいたが、足もとでは全く逆の反応となっている。トランプトレードの巻き戻しである。関税は物価を押し上げるがそれは一時的なものである一方、関税が景気を悪化させれば、それはいずれ物価上昇率の低下につながり、金融緩和を後押しするとの見方が有力になってきている。
日本市場でも株価は大幅下落
こうした米国市場の動揺は、11日の東京市場に波及している。11日の日経平均株価は、一時1,000円以上下落し、3万6,000円を割り込んだ。年初来の下落幅は10%に近づいている。
他方、日本の長期金利の低下は比較的小幅にとどまっている。日本でも、生鮮野菜やコメの価格高騰、輸入物価上昇による加工食品価格の上昇によって、物価上昇率は上振れている。他方、景気情勢は不安定であり、特に個人消費の弱さは際立つ。11日に発表された2024年10-12月期GDP統計・二次速報で、実質個人消費は一次速報の前期比+0.1%から0.0%へと下方修正された(実質GDPは前期比年率+2.8%から同+2.2%に下方修正)。また、日本銀行が公表する実質消費活動指数(旅行収支を除く)は1月に前月比-1.3%と急落している。年明け後は消費者心理の悪化も目立っており、個人消費はスランプ状態にある。
他方、日本の長期金利の低下は比較的小幅にとどまっている。日本でも、生鮮野菜やコメの価格高騰、輸入物価上昇による加工食品価格の上昇によって、物価上昇率は上振れている。他方、景気情勢は不安定であり、特に個人消費の弱さは際立つ。11日に発表された2024年10-12月期GDP統計・二次速報で、実質個人消費は一次速報の前期比+0.1%から0.0%へと下方修正された(実質GDPは前期比年率+2.8%から同+2.2%に下方修正)。また、日本銀行が公表する実質消費活動指数(旅行収支を除く)は1月に前月比-1.3%と急落している。年明け後は消費者心理の悪化も目立っており、個人消費はスランプ状態にある。
日米で生じる「悪い物価上昇」のリスク
個人消費悪化の背景にあるのは、一時的要因による物価高、あるいは円安による輸入物価上昇というコストプッシュ型の物価高である。需要の強さに基づく持続的な「良い物価上昇」ではなく、経済の安定を損ねる一時的な「悪い物価上昇」である。
関税による物価上昇に直面する米国と同様に、「悪い物価上昇」に直面しているという点で日米が置かれた環境は似ているが、米国では景気悪化による将来の物価上昇率の低下と金融緩和の進展を予想して長期金利は低下する一方、日本では、物価上昇率の高まりが日本銀行の利上げ観測を強め、長期金利の上昇基調が続いている。
米国市場の反応の方がより合理的であり、日本でもいずれ、株価下落と長期金利低下というリスク回避傾向が強まる可能性を見ておきたい。
関税による物価上昇に直面する米国と同様に、「悪い物価上昇」に直面しているという点で日米が置かれた環境は似ているが、米国では景気悪化による将来の物価上昇率の低下と金融緩和の進展を予想して長期金利は低下する一方、日本では、物価上昇率の高まりが日本銀行の利上げ観測を強め、長期金利の上昇基調が続いている。
米国市場の反応の方がより合理的であり、日本でもいずれ、株価下落と長期金利低下というリスク回避傾向が強まる可能性を見ておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。