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自動車関税は数日中に発表されるか

トランプ米大統領は、輸入自動車などへの個別品目への関税と、相手国が米国製品に高い関税を課している場合、あるいは各種の非関税障壁があると判断される場合に、当該国の輸入品に新たに追加関税を課す「相互関税」を、4月2日に同時に発表するとしていた。しかし足元では、そういったスケジュール感に揺らぎが生じている。

24日にトランプ大統領は記者団に対して、「数日中に自動車や自動車に関連するものを、将来的には木材や半導体関連の追加関税を発表する予定だ」と語った。他方、相互関税については「多くの国に小休止を与えるかもしれない」と述べ、米国が貿易黒字となっている国や小国などには適用しない可能性を示唆した。

このトランプ大統領の発言の前日には、米ブルームバーグと米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが米政府当局者の話として、自動車や半導体など分野別の追加関税については、相互関税が発表される4月2日には発表されない可能性がある、と報じていた。

トランプ大統領の最新の発言に沿って考えれば、今週中にも自動車関税が発表され、4月2日には相互関税が発表されることになるが、そうしたスケジュールも今後修正される可能性が十分に考えられる。

日本がトランプ関税の対象から外される可能性は高くない

相互関税の対象が縮小される可能性が示唆されたことを金融市場は好感しており、足もとでのドルの回復や各国での株価上昇につながっている。しかし、少なくとも日本については、トランプ関税を巡る事態が改善しているとは言えない。

向こう数日のうちには、日本の対米自動車輸出に25%の関税が課される可能性がある。そうなれば、日本の実質及び名目GDPは0.2%程度低下することが予想される。日本からの対米自動車輸出は、国別に見ればメキシコに次ぐ第2位であり、日本車が関税の対象から外れる可能性は高くないだろう。

また、相互関税については一部の主要国、米国にとっての貿易赤字国に限られる可能性が出てきたが、日本は2024年に輸入額では国ごとにみて第5位、貿易黒字額では第7位と上位であり、関税の対象から外れる可能性はやはり高くないだろう。

自動車関税と相互関税では根拠法が異なる可能性

トランプ政権が、当初4月2日としていた自動車関税の発表時期を変更した理由は明らかではないが、関税の法的裏付けが関係している可能性があるのではないか。

3月12日に発表された鉄鋼・アルミニウムへの25%の関税については、国家安全保障を脅かすリスクへの対応を認めた通商法232条を根拠としていた。他方、政府関係者の話を踏まえると、自動車関税についても、この通商法232条が根拠とされる可能性が考えられる。

他方、相互関税については、相手国の不公正な貿易政策への報復を認める通商法301条を根拠とすることが予想される。あるいは、メキシコ、カナダ、中国への一律関税の根拠となった、国家非常事態宣言に基づく国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする可能性もある。いずれにせよ、こじつけ的な国内法の濫用の側面が否めないのが、これらのトランプ関税である。

仮に4月2日に、自動車関税と相互関税を同時に発表した上、根拠法がそれぞれ異なる場合には、その正当性が改めて注目を集めてしまう可能性があるだろう。こうした点に配慮して、発表時期をずらした可能性も考えられるのではないか。

対米自動車輸出の自主規制でもトランプ関税の回避は難しいか

日本政府は、1980年代の初めと同様に、自動車メーカーによる対米自動車輸出の自主規制導入も含め、関税回避の交渉を水面下で進めている可能性があるだろう(コラム「歴史に学ぶ日米自動車貿易摩擦:対米自動車輸出の自主規制は再び検討されるか?」、2025年3月23日)。しかし、関税回避に向けた道のりは険しい。

自動車関税で現行の2.5%(トラックを除く)の関税に25%の追加関税が上乗せされ、さらに相互関税で対米輸出品に一律10%の関税が課される場合、自動車については関税率が37.5%にまで達するリスクもあるだろう。

相互関税では、品目ごとの関税率を調整するとの話も出ているが、それでも例えば30%の関税率になる、と言ったことも考えられる。

経済協力開発機構(OECD)の試算に基づくと、米国が貿易相手国に各一律10%の関税を掛け、相手国が同率の報復関税を導入する場合、日本の実質GDPは3年間で0.35%程度、一律25%の関税の場合では0.87%程度、それぞれ押し下げられる計算である(コラム「トランプ関税の米国経済への悪影響に注目が集まる:25%の関税の応酬で米国のGDPは1.8%、日本のGDPは0.9%低下」、2025年3月19日)。

これに自動車関税など個別品目への関税が上乗せされる場合には、経済への打撃は一層大きくなってしまう。日本の金融市場は、トランプ関税の行方に決して楽観的になることはできないはずだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。