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トランプ米政権は、日本時間の9日午後1時1分(米東部時間午前0時1分)に、相互関税の第2弾を実施した。日本への関税率は24%となる。報復関税を打ち出した中国に対しては、34%の相互関税に50%の関税が上乗せされた。第2次トランプ政権の下で中国に対して課された追加関税は、合計で104%にも達する。
 
トランプ政権が2日に相互関税策を公表した時点では、平均関税率は23%程度と試算された。経済協力開発機構(OECD)のモデル計算に基づく筆者の試算では、この23%の相互関税によって、世界のGDPは0.64%、米国のGDPは1.69%、日本のGDPは0.82%、それぞれ低下する(3年間の影響)結果となった(コラム「トランプ政権が相互関税を発表:24%の追加関税で日本のGDPは0.59%低下」、2025年4月3日)。
 
中国への関税率が上乗せされ相互関税の第2弾が実施されたことを受けて、今回、経済効果の再推計を行った。平均関税率は33%程度へと、10%ポイント程度高まる計算だ。
 
これに基づく再推計によると、世界のGDPは0.91%、米国のGDPは2.40%、日本のGDPは1.16%押し下げられる結果となった(メキシコとカナダについては25%の関税が終了した際に12%の相互関税へと移行するが、ここではそれぞれ25%で計算。相互関税に含まれない鉄鋼・アルミニウム、自動車などについても同じ関税率が適用される前提で計算)。GDP押し下げ効果はそれぞれ4割強高まる(図表)。
 
日本については、25%の自動車関税、24%の相互関税の直接的なGDP押し下げ効果は0.71%と試算されるが(コラム「トランプ政権が相互関税を発表:24%の追加関税で日本のGDPは0.59%低下」、2025年4月3日)、関税が日本以外の国の経済に与える悪影響の間接効果を考慮に入れれば、GDP押し下げ効果は上記試算のように1.2%まで高まる、と考えることができるだろう。
 
この試算結果を踏まえると、相互関税が大きく修正されずに維持される場合には、日本が景気後退に陥る可能性は7割程度、米国は5割程度、世界は4割程度と見ておきたい。
 
2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックによって世界のGDPは大まかに5~6%程度押し下げられたとみられる。それと比べれば、この試算結果が示す世界経済の悪化は、危機とまでは言えないだろう。
 
トランプ関税をきっかけとする経済の悪化が、経済危機、金融危機の状況へと発展し、この試算結果を大きく上回る経済への打撃が生じるか否かについては、米国経済の悪化によって、リーマンショック後に蓄積されてきた金融不均衡の本格的な調整が引き起こされるかどうかにかかっているだろう(コラム「米国でリーマンショック後に積み重なった金融不均衡の問題が噴出するか」、2025年4月8日)。
 
図表 相互関税の経済効果を再推計(平均関税率は約33%)

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。