「見通し期間後半」の表現の修正に注目
日本銀行は4月30日と5月1日に、金融政策決定会合を開催する。トランプ関税による金融市場の混乱や先行きの内外経済の下振れリスクの高まりを踏まえれば、政策金利を現状0.5%で据え置くことはほぼ確実な情勢だ。
対外公表文及び展望レポートでの物価見通しや政策方針に関する記述、展望レポートでの経済・物価見通しの修正、記者会見での植田総裁の発言が注目点となり、それらから、日本銀行の利上げ姿勢がどの程度変化しているのか、追加利上げの時期がどの程度後ずれする可能性があるのかを、金融市場は慎重に見極めようとするだろう。
従来日本銀行は、対外公表文や展望レポートで、「基調的な物価上昇率は、『展望レポート』の見通し期間後半には『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」と、繰り返し説明してきた。つまり、見通し期間の後半には2%の物価目標が達成され、その時点までに政策金利は経済に対して中立的な水準にまで到達している(ターミナルレート)と、説明してきたのである。
ところで、今回公表される展望レポートでは、予測期間が2027年度まで1年延長される。そのもとで、「見通し期間後半には…」という記述が仮に維持されるのであれば、それは、物価目標達成の時期が従来の予測よりも後ずれする、との見通しを意味することになる。そうなれば、次の利上げの時期や今後の利上げのペース、政策金利がターミナルレートに達する時期についての金融市場の見通しが修正され、長期金利の低下、円安などが生じるだろう。
他方で、日本銀行が、基調的な物価の見通しとそれを受けた政策姿勢を変えていないことを強調したい場合には、「見通し期間の中頃」、「2026年度頃」、などの表現を敢えて使うのではないか。
対外公表文及び展望レポートでの物価見通しや政策方針に関する記述、展望レポートでの経済・物価見通しの修正、記者会見での植田総裁の発言が注目点となり、それらから、日本銀行の利上げ姿勢がどの程度変化しているのか、追加利上げの時期がどの程度後ずれする可能性があるのかを、金融市場は慎重に見極めようとするだろう。
従来日本銀行は、対外公表文や展望レポートで、「基調的な物価上昇率は、『展望レポート』の見通し期間後半には『物価安定の目標』と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」と、繰り返し説明してきた。つまり、見通し期間の後半には2%の物価目標が達成され、その時点までに政策金利は経済に対して中立的な水準にまで到達している(ターミナルレート)と、説明してきたのである。
ところで、今回公表される展望レポートでは、予測期間が2027年度まで1年延長される。そのもとで、「見通し期間後半には…」という記述が仮に維持されるのであれば、それは、物価目標達成の時期が従来の予測よりも後ずれする、との見通しを意味することになる。そうなれば、次の利上げの時期や今後の利上げのペース、政策金利がターミナルレートに達する時期についての金融市場の見通しが修正され、長期金利の低下、円安などが生じるだろう。
他方で、日本銀行が、基調的な物価の見通しとそれを受けた政策姿勢を変えていないことを強調したい場合には、「見通し期間の中頃」、「2026年度頃」、などの表現を敢えて使うのではないか。
追加利上げに向けた基本的な方針は変わらない
トランプ関税の影響、あるいは参院選を意識して経済対策の必要性を与野党が強く訴えている足元の政治情勢によって、日本銀行の追加利上げが封じ込められてしまうことを、日本銀行は強く警戒しているだろう。
そのため、「経済・物価が、展望レポートで示した見通し通り(オントラック)に進めば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」という従来からの基本的な方針に変化がないことを日本銀行が強調する可能性が高い。
展望レポートでは、2025年度、2026年度の成長率見通しを顕著に下方修正、物価見通しを小幅に下方修正することが見込まれる。ただしこれらの修正は、関税政策に関わる不確実性の高まりなどの一時的な経済への影響や、足もとでの原油価格下落や円高の物価への影響を反映したものであり、経済、物価見通しの基本的な見方は変わらないと日本銀行は説明するだろう。物価見通しについては、以前に日本銀行がよく用いた表現で言えば、「第1の力」が弱まった一方、「第2の力」による基調的な物価上昇率が高まる傾向は変わらない、との説明になるだろう。
そのため、「経済・物価が、展望レポートで示した見通し通り(オントラック)に進めば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」という従来からの基本的な方針に変化がないことを日本銀行が強調する可能性が高い。
展望レポートでは、2025年度、2026年度の成長率見通しを顕著に下方修正、物価見通しを小幅に下方修正することが見込まれる。ただしこれらの修正は、関税政策に関わる不確実性の高まりなどの一時的な経済への影響や、足もとでの原油価格下落や円高の物価への影響を反映したものであり、経済、物価見通しの基本的な見方は変わらないと日本銀行は説明するだろう。物価見通しについては、以前に日本銀行がよく用いた表現で言えば、「第1の力」が弱まった一方、「第2の力」による基調的な物価上昇率が高まる傾向は変わらない、との説明になるだろう。
当面は利上げを行う考えがないことも強調か
他方、予想を上回る規模のトランプ関税やその後の金融市場の混乱の影響を見極める必要があるとして、当面は利上げを行う考えがないことも強調するだろう。石破首相が日本は「国難」に直面していると宣言し、与野党内で消費税率引き下げを含む積極的な経済対策の実施を主張する声が足元で急速に高まる中、日本銀行が早期の追加利上げの可能性を示唆すれば、強い反発を生んでしまう可能性があることに、日本銀行は配慮をするのではないか。また、早期に追加利上げを実施しないというメッセージを送ることで、金融市場の安定回復を狙うという側面もあるのではないか。
このように、日本銀行は「追加利上げに向けた基本的な方針は変わらない」「早期の追加利上げを考えていない」という2つのメッセージを、今回の会合で同時に送ることになるだろう。金融市場は2つのメッセージの微妙なバランスを読み取ろうとするのではないか。
このように、日本銀行は「追加利上げに向けた基本的な方針は変わらない」「早期の追加利上げを考えていない」という2つのメッセージを、今回の会合で同時に送ることになるだろう。金融市場は2つのメッセージの微妙なバランスを読み取ろうとするのではないか。
メインシナリオは9月の利上げで変わらず
4月25日に日経QUICKニュース社が公表したアンケート調査によると、年内の追加利上げを予想する数は、全体の8割に及ぶ。年内の追加利上げの時期の見通しは、6月会合から12月会合まで分かれているが、最も多くが予想するのは9月会合だ。
筆者は、トランプ政権が相互関税を打ち出し、金融市場が動揺する前に9月会合での追加利上げを予想しており、現時点でも9月会合での利上げをメインシナリオとしている(コラム「事前予想通りに利上げに動いた日銀」、2025年1月24日、「しばらくは追加利上げに動けない日銀(3月決定会合):1月追加利上げ以降の6つの大きな環境変化に注目」、2025年3月19日)。緩やかな景気後退の下でも、日本銀行は追加利上げを行うものと予想する。
ただしそれには3つの条件がある。第1に、9月の会合の時点で国内経済が比較的緩やかな景気後退に踏みとどまっていること、第2に、7月の参院選後に日本銀行の追加利上げに否定的な野党が連立政権に加わっていないこと、第3に、トランプ政権が米国民からの批判の高まりに配慮して、関税策を縮小方向で大きく見直し、それが金融市場の安定回復をもたらしていること、である。
利上げ時期のメインシナリオは今年9月であるが、前倒しされるよりも後ずれする方向にリスクは偏っていると見る。また、9月の次の追加利上げの時期は来年6月であり、利上げの間隔はかなり開くと予想する。
筆者は、トランプ政権が相互関税を打ち出し、金融市場が動揺する前に9月会合での追加利上げを予想しており、現時点でも9月会合での利上げをメインシナリオとしている(コラム「事前予想通りに利上げに動いた日銀」、2025年1月24日、「しばらくは追加利上げに動けない日銀(3月決定会合):1月追加利上げ以降の6つの大きな環境変化に注目」、2025年3月19日)。緩やかな景気後退の下でも、日本銀行は追加利上げを行うものと予想する。
ただしそれには3つの条件がある。第1に、9月の会合の時点で国内経済が比較的緩やかな景気後退に踏みとどまっていること、第2に、7月の参院選後に日本銀行の追加利上げに否定的な野党が連立政権に加わっていないこと、第3に、トランプ政権が米国民からの批判の高まりに配慮して、関税策を縮小方向で大きく見直し、それが金融市場の安定回復をもたらしていること、である。
利上げ時期のメインシナリオは今年9月であるが、前倒しされるよりも後ずれする方向にリスクは偏っていると見る。また、9月の次の追加利上げの時期は来年6月であり、利上げの間隔はかなり開くと予想する。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。